寒い日の大掃除

 冬の寒い日。

 毎年この国では年末に家や職場、公の場所をみんなで掃除する風習があります。

 そして公共施設の掃除を手伝った場合、少ないですがお金がもらえます。


 私たち家族は毎年この町の広場の掃除を手伝います。

 私の家族は母と弟だけです。

 父は10年ほど前にあった戦争に参加し、亡くなりました。

 弟が生まれたばかりでした。

 戦争には勝ったのですが、全く嬉しくなかったです。

 わずかばかりのお金だけが貰えました。


 それ以来、お母さんは一生懸命働いて私たちを育ててくれました。

 私は弟の面倒を見ながら家事をしています。

 お金がないので私も弟も学校に行くことはできないと思います。

 それよりも生きていくのに必死です。


 冬の大掃除でもらえるお金は多くはありませんが、年を越して来年の準備をするくらいにはなります。

 なので、家族3人で手伝います。

 町の公民館などの施設の掃除を手伝えたら嬉しいのですが、私たちのような立場の弱いものだと競争に負けて寒い外の掃除になります。

 頑張って公民館に行ってもどうせ手伝わせてもらえないので最初から広場に行きます。


「手伝ってくれる人は集まってくれ」

 広場に行くと馴染みのお役人さんが招集をかけていました。

 私たちもそこへ向かいます。


「こんにちは。今年も来てくれたんだね」

「えぇ。どうぞよろしくお願いいたします」

 お役人さんにお母さんが挨拶します。

 このお役人さんは優しい方で、頑張っているとご褒美を貰えるので私たち兄弟はやる気十分です。

 普段は町の巡回などもしているので、たまに顔を合わせることがあります。

 

 

「今年は少ないな。これで頑張るしかないか」

 集まったのは例年の半分ちょっとでしょうか。

 今年は特に冷えるから、仕方ないかもしれません。


「みんな、頑張ってくれたらその分お礼は弾むからよろしくな」

「「はい!」」

 とても嬉しい言葉です。

 私たちは割り振られた場所で作業を始めます。


 広場の掃除は範囲が広く大変ですが、やることを簡単で、ごみ拾い、掃き掃除、草むしりと、あとはまばらに設定してある大きな椅子の洗浄くらいです。

 お金がもらえるのでこれはもう仕事です。

 みんなで頑張ります。


「あっ」

「大丈夫?お姉ちゃん」

 掃除をしていると、不意に指先が痛みました。

 怪我、ではないですが、指先の皮が少しめくれています。


 私は焦ります。

 これでは割り振ってもらった場所の仕事が終わらないかもしれません。

 我慢して掃除を続けます。


「布か何かあるか聞いてみるから少し待ってね」

 お母さんが役人さんに聞きに行ってくれました。


 泣きそうです。


「大丈夫。頑張るから」

「でも……」

 私は何とか作業を続けます。

 弟は不安そうですが、止めはしません。

 私が止めないのを知っているからでしょう。


「大丈夫か?見せてみろ」

「えっ?」

 突然お役人さんに話しかけられました。

 お母さんが聞きに行ったので心配してくれたんでしょう。

 とても優しい人です。


「ささくれだね。ちょっと待っていなさい」

 そう言うとお役人さんは私の手首を握り、私の指先を見つめます。


「白き光よ 傷ついた体を治したまえ」

「えっ?」

 お役人さんが私の指先を見つめながら呪文を唱えました。

 すると私の指先が淡く光り……治ってしまいました。


「これでよし。ささくれは意外に痛いから、治すにこしたことはないからね。さぁ作業を続けて」

 驚く私にそう言い残すとお役人さんは何事もなかったかのように監督に戻っていきます。


 私はその後、一生懸命掃除を頑張りました。

 とても綺麗になった手で……。

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