第29話 ダリラの回想

 光輝く太陽、どこまでも広がる緑の平原。

「ダリラ〜 もう出発しちゃうよ〜」

「ああ、今行くよ!」


 ダリラはワイバーンの遊牧民族のところで育った。

「もう、どこに行ってたの! いつもどこかへ消えてしまうからみんなが心配するのよ!」

「悪いね・・・ 今日も剣の稽古に熱中してしまったよ・・・」


 あたいに良く話しかけてくれた女がいたな・・・ 名前は、なんだったっけ・・・

「いつもいつも剣ばっかり振って飽きないの? 私たちは遊牧民族なんだから、たいして力は必要ないし・・・」

「いや、あたいは確信してるよ。いつかこの力が役に立つ時がね」


「もう、ダリラったら物騒なことを言わないでよ〜」

(・・・あんたの言う通りだと思う。戦いなんてそうそう起こりやしないよ。たとえ起こったって、あたいらの飼っているワイバーンたちで瞬殺だしね)


 ダリラはため息をつく。昔は、素敵な女騎士になりたくて仕方がなかった。

 だが、現実はそう甘くない。ダリラたちは生涯、ワイバーンたちの世話をして生きていくことが決まっていたのだ。


 ダリラは自分が育てているワイバーンの元へ向かう。

 しばらく歩いたのち、ワイバーンたちが集まっているキャンプに着いた。

「グ? ギュルウ!」

 あるワイバーンは近づいてくるダリラをいち早く見つけ、そそくさと飼い主の元へ走ってきた。


「おっ! グリム! 良い子にしていたか?」

「グルル!」

 ダリラが飼っているワイバーン、グリムは嬉しそうに返事をする。


「ははは! ダリラ! 今日も剣に没頭かい? グリムはお前が寂しくて一日中鳴いていたぞ」

 同じ部族の男が話しかけてきた。


「そうかそうか、寂しかったんだな。今度はお前も剣の稽古に連れて行ってやるさ!」

「グリュウ!」

 そうしてグリムのことを撫でた。グリムは嬉しそうに尻尾を振っている。


「愛されているな、ダリラ。グリムはこれからもどんどん成長するだろう。立派に育てるんだぞ」

「はいはい、分かっているよ!」


 勿論、育てたワイバーンは将来売りに出さなければならない。しかし、ダリラはそれがたまらなく嫌だった。

(グリムはあたいの親友だ。死ぬまでそばにいてやるんだ!)

 ダリラの決意はとても堅かった。しかし・・・



「え? グリムが病気だって!? なんてこった!」

 ある時、グリムが急に病にかかった。

 病名は、腐敗病。体が段々と腐っていき、最終的には死に至る。そんな恐ろしい病気だ。


 ダリラは急いで駆けつける。グリムは、キャンプから離れた場所で寝かされていた。

「グリム! 大丈夫かい!」

「グ、リュウ・・・」


 グリムはかろうじて意識があった。しかし、翼はボロボロになっており、身体も一部腐敗していた。

「まってな! 今何とかして治してやる!」


「無理だ。腐敗病は不治の病。辛いだろうが、グリムはここに置いていくしかない・・・」

 近くにいた部族の人がそう話す。


「そんな! ここで見捨てると言うのかい! そんなことはできないよ!」

「腐敗病は死体から感染するんだ。ここで放置する。それ以外のことはできない」

「なら、あたいも一緒に死んでやる!」


 あたいは部族の人たちと大喧嘩。何日も居座った結果、とうとう置いて行かれてしまった。

 ダリラはずっと、平原で寝そべっている。

「なあ、グリム。あたいたちはいつまでも一緒だぞ」

「・・・」


 しかし、グリムから返事はない。

 ダリラは、自分にも腐敗病に感染したことに気づいていた。

 光輝く太陽、どこまでも広がる緑の平原で、ダリラは孤独感に襲われる。

 このまま死んでしまう。そう思っていた。しかし・・・


「・・・?」

 とうとう声も出せなくなった頃、ダリラはこちらに近づいてくる人に気づいた。


「ククク・・・ こんな所で仲良くのたれ死んでいるのですか?」

 ぼんやりと見える視界には、全身真っ黒の人が映っている。


「実験台としては丁度良いですね。ほら、今助けてあげますよ・・・」

 そう言って男は黒い宝玉を取り出す。そして、それをダリラの体の中に押し込んだ。


「ア、ガッ!」

 ダリラは悶え苦しむ。まるで自分が自分でなくなっていく感覚。しかし、同時に彼女の五感は瞬く間の元に戻っていく・・・!

 やがて、ダリラの体は真っ黒に染まってしまった。


「・・・グリムは?」

 喋れるようになったダリラは一つ、それだけを問う。


「グリム? ああ、そこにある死体のことですか。大丈夫です、死体くらいすぐに蘇生できますよ」

 そうして、男はまた黒い宝玉をを取り出した。


「私に、忠誠を使ってくれますね?」

「キャキャキャ・・・! もちろんだよ! グリム、あたいらはいつまでも一緒だ・・・!」

 そう言って、ダリラはグリムの死体を撫で回す。


「貴方もこれで優等種族の仲間入りです。どう思いますか? 今の人間は。病気や怪我ですぐ死んでしまう奴らを・・・」

 黒き男はそのまま話し続ける。


「そんな種族は滅んでしまえば良い! 私たちの手で浄化してやるのさ! ・・・おっと、興奮し過ぎてしまったようです。貴方、名前は?」

「・・・ダリラ、あたいの名前はダリラだよ」


「ククク・・・ ダリラ。これからよろしく頼みますよ?」

 そうして男は手を差し伸べる。ダリラはその手をとった。


(今度こそ、あたいは素敵な女騎士・・・ いや、竜騎士になるんだ!)

 こうして、彼女の地獄が始まったのだった・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る