VALANCER:

篠淵 喰

第1話 POLICE

私の初任務は最悪だった。曇天の下、私は現場に駆り出された。何気ない銀行強盗だが、ただの銀行強盗ではない。この町を裏から牛耳るギャング【STOLEN N】の構成員が立てこもっていた。


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「本日保安局に着任しました。葛西来栖かさいくるすです。」

私が警察に着任した日のことだ。警察官になるにあたってこの国では適正部署検査てきせいぶしょけんさというのが行われている。その検査の結果、私は保安局に配属され執務室に入るとそこにいたのは目つきの鋭く威圧的いあつてき雰囲気ふんいきをまとうすらっとした身体づきの男だった。男は私の挨拶が終わると、

「この町にはギャングがいる。日本国がアメリカに吸収されたあの日、国内ではそれに反対する人々が暴動を起こし、やがて強引な処置により祖国を思い立ちあがった人たちは犯罪者の烙印らくいんを押され執念もむなしく社会から排除された。」

男は歴史の授業で習ったことを語りだした。

「だが外からやってきた何者かが犯罪者となった人々をまとめ上げ巨大なギャングをたちあげた。ですよね。」

男は私のほうに向きなおし、

「よくわかっているじゃないか。彼らの思いに焦点が当てられ認められたのは法改正が終わり人々に安寧あんねいが戻ったころだった。ギャングとなった人々を説得するためには時間がたちすぎていた。」

「だから俺達はこの事実を受け止め人々が社会から排除されてしまうようなことをなくしていかないといけない。それが俺たち保安局の存在する意味だ。俺の名前は倉石恭吾くらいしきょうご。ここで17年働いているベテラン保安官だ。保安官の仕事は現場への突入。命を懸ける役目だ。」

倉石くらいしさんは昔のことに詳しく、この保安官という立場についても彼ほど責任感を持っている人はこの先現れないだろうと思った。


だが事件は起きたーーーーーー


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「こちら葛西かさい倉石くらいしさんも早く現場に来てください。」

現場は膠着こうちゃく状態だ。ギャングの構成員は人質を取っておりうかつに手を出すことはできない。だからといってこのまま待っていても相手の思うつぼだ。相手はギャングだ時間がたてばたつほど仲間が助けに来る確率も上がる。だからといって私も倉石くらいしさんが到着するまで強行突破をするのは危険すぎる。私は倉石くらいしさんの到着を待っている。ただおかしなことに倉石くらいしさんから無線での応答がない。GPSは正常に動いているのに返答がない。これは今に思うと明らかにおかしいことだった。しかしこの違和感に気づいてすぐ犯人に動きがあった。現場の警官から犯人が人質を殺したという報告が上がったのだ。人質が殺されたことに少しうろたえたが人質さえいなくさればこっちのものだとすぐに思考を切り替え、殺されてしまった一般人には頭が上がらないがいなくなったことによりすぐにでも突入することができると考えることにした。その後、銀行に催涙ガスを放り込み目をつぶした後即座に突入し犯人を捕まえた。


「こちら葛西かさい。20XX年15時20分13秒立てこもり犯を重窃盗罪じゅうせっとうざい脅迫罪きょうはくざい殺人容疑さつじんようぎでギャングの構成員を逮捕たいほ。」


この日私は犯人を捕まえること優先し倉石くらいしさんは行方不明となってしまった。

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