第4話


 「暇なんやったら、付き合ってくれてもええやん」



 決めつけたように話す彼女に、僕は嫌気が差していた。


 僕たちは初対面だった。


 後に彼女が同じ小学校に通っていたことを知ったけど、少なくともあの時は、お互い知らない者同士だった。


 キャッチボールなんてできるような間柄じゃない。


 友達でもなければ、知り合いでもない。


 相手をするつもりはなかった。


 だけど、彼女は僕の顔を覗き込みながら、「野球に興味はない?」と聞いてきた。


 「雨が止んだら」って言ったくせに、ずいっとボールを近づけてきた。


 意味がわからなかった。



 「雨は止まないんでしょ?だったら…」


 「止むかもしれんやん」


 「はあ?」


 「天気予報なんて当てにならん。問題は、止んで欲しいと思うかどうか、やろ?」


 「えっと…」


 「今日はどうしても確かめたい気分なんや。いまいちフォームがしっくりこんくてな?あんたは受けるだけでええから」


 「受けるだけで…って?」


 「ここら辺には練習用の壁がないんや。駅舎に向かって投げたらこの前怒られた。かといって、海に投げるわけにもいかんやろ?」


 「…言ってる意味がわからないんだけど?」


 「せやから、私の球を受けてくれって言ってんの。そんな難しく考えんな」



 難しく考えてるわけでも、惚けてるつもりもなかった。


 まるで僕に問題があるかのように、彼女は眉を顰めた。


 練習用の壁?


 この子は何を言ってるんだ?


 頭に掠めるのは疑問ばかりだった。


 左手にグローブを嵌めたまま、ボールをパシパシと遊ばせていた。


 正直、「野球」もよく知らなかった。


 キャッチボールくらいは知っていたけど、それ以外はからっきしで。



 

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