第39話林間学校

 その後、間を置かずに5年生全員が参加する林間学校が行われた。T駅に集合して、まずは南海電車の難波駅に行って、そこから南海電鉄高野線に乗り換えて、高野山に向かい、高野山にあるお寺で2泊して、その間にキャンプファイヤや肝試し、そのほかいろんなイベントに参加する5年生だけの課外授業。私も歩いてT駅に向かい、夏休み中ということもあって、姉も一緒についてきていた。姉は昨年参加しており、姉からどのようなことをするのか、あらかじめ聞いていたので、大体のことはわかっていたが、面白そうだったので、楽しみにしていた。

 私たちを乗せた高野線の電車は、私たちが見慣れた車両よも一回り小さい。この当時は、急行列車が途中の三日市町駅から各駅に停車する形で高野線の終点である極楽橋駅まで走っていたのであるが、三日市町駅よりも先は和泉山脈の山深い懐に分け入っていく山岳路線であり、急勾配に急カーブが断続するため、一般車両が入線できなかったのである。私たちが乗ったときは、橋本駅までの線路改良工事を行っている真っ最中で、いたるところで工事が行われていた。

 電車は急カーブが続く区間をそろりそろりと進んでいく。今でこそ、橋本駅までが大阪への通勤圏を形成している高野線であるが、私たちが乗ったときはまだ、三日市町駅までが大阪市内への通勤圏内であった。

 皆はゆっくりと流れる景色よりも、わいわいおしゃべりすることに夢中であったが、私は初めて見る高野線の景色に夢中であった。大阪のど真ん中から1時間ほどとは思えないくらいのひなびた風景や自然が過ぎ去っていく。そしていくらか開けてくると国鉄和歌山線との接続駅である橋本駅に到着。この当時はまだ田舎の地方都市という雰囲気が強かった街であるが、高野線の線路改良が行われた結果、大幅に人口が増えたところである。

 その橋本駅を出発すると電車は紀ノ川を渡り、さらに終点を目指して高度をあげていく。途中、縁起のいい駅名として人気のある学文路駅に到着。ここから先は、さらに険しい道のりとなって、車体をきしませながら急こう配を上り詰めて、高野線の終点、極楽橋駅に到着。ここからはケーブルカーに乗り換えて、標高1000メートル近いところにある高野山駅へ。ここからはバスに分乗して宿舎に向かう。途中には赤松院などの名所が点在していて、観光利用も多いとか。私たちは駅からバスで10分くらいのところにあるお寺で宿泊する。お寺の境内はかなり広く、私たち200人と引率の先生が泊まっても、まだ余裕があるような感じであった。そして初日は高野山の歴史や文化についてのお話があった。お話の後は、本来なら外に出て課外授業を行う予定であったが、あいにくの雨で外に出ての課外授業が無理だったため、お寺の境内を見て回ることになった。

 やがて夕方になり食事の時間。出された料理は、動物の肉を一切使わない精進料理であった。私は嫌いな野菜などがなかったので、特になんとも思わずに出された料理を食べたのであるが、野菜嫌いな子供にとっては、食べにくかったのではないかと思う。また、育ち盛りということもあって、たくさん食べる子供にとっては、少し物足りなかったかもしれない。

 翌日は高野山の名所をバスで見て回った。金剛力士像や金剛峰寺、高野山の歴史的建造物などを見て回って、昼食が済むとキャンプファイヤの準備に取り掛かる。先生が手際よく気を組んでいって、あとは火をともすだけとなった。降り続いた雨も昼過ぎにはやんで、少しずつ天気が回復してきた。やがて日が暮れてキャンプファイヤが始まって、楽しく談笑していた。ただ、日中まで降り続いた雨の影響で、先生は火をともすのにかなり苦労したようではあるが…。

 キャンプファイヤがすんだら今度は肝試し。肝試しの前に、散々先生から怖い話を聞かされて、肝試しに行く前から皆ビビっていた。幽霊や妖怪、物の怪の話を聞かされたので、本当に怖かった。中でも一番私が怖いと思ったのが、山で遭難した二人の話。遭難して一人が命を落として、連れて帰れないため、その場で埋葬したのであるが、翌日目が覚めると、なぜか埋葬したはずの仲間の遺体がすぐ隣にあって、もう一度埋葬した後、遭難した場所を離れて一人下山して眠りについて、翌日目が覚めたら、また埋葬したはずの遺体が自分のすぐそばにあった。と言う話。カメラを設置して何が起こっているのか撮影してみると、眠りについた後、眠ったまま起き上がって、埋葬したところまで行って、埋めたはずの遺体を掘り起こして自分のすぐそばに置いていたということであった。この話を聞いてマジでビビった私は一人でろうそくの明かりを頼りに最終地点に向かうのはかなり嫌だな…。心細いなと感じていた、すぐそばにいた今田と

「一緒に行こう」

と話をしていた。肝試しのスタート地点からいろんな仕掛けがされていて、あちこちから

「キャー」

という悲鳴が聞こえる。特に女子の叫び声がすごかった。女子に比べて男子は悲鳴を上げるというよりも

「マジでビビった」

という驚きの声をあげる方が多かったのではないかと思う。数々の仕掛けや先生の「ワーッ」

という脅かしにも負けずに、どうにかこうにか最終地点に到着した私と今田である。私より後にスタートした増井は、私にさんざん嫌がらせをするときのような威勢の良さはすっかり消え失せ、泣きべそをかきながら最終地点にやってきた。

「何も泣く事ねぇだろ」

と思っていたが、意外と小心者なんだなということが分かった。

 キャンプファイヤと肝試しで二日目の夜が終わり、寝る時間。消灯時間前になってトイレに行った女子児童が

「なんか白いものがスーッと横切って消えていった」

などと言うので、皆口々に

「それって幽霊ちゃうん?」

「心霊現象や~」

などと言う話になって、一度解けた緊張が再び走った。そのスーッと消えていった白いものが何だったのか。あるいは本当に見えたのか。今となっては定かではないが、昔から高野山は心霊スポットとしても知られているということを伝え聞いたことがある。

 さて、最終日は朝のお勤めを一緒にさせていただいた後、精進料理を食べて、バスに乗って高野山駅に向かい、ケーブルカーに乗って極楽橋駅まで戻って、高野線の電車に揺られて帰る。さすがに3日間、いつもと違うところで寝泊まりしていたら疲れて、帰りの電車の中は爆睡こいていた私である。

 目が覚めたら、見慣れた大阪の街が車窓に広がっていた。通天閣が見えると終点難波駅も近い。難波駅からのりかえてT駅に着いたのがお昼前。クラスごとに点呼を取って、みんな無事に帰ってきたところで解散。私たちの2泊3日の林間学校は終わりを告げた。

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