第37話近鉄吉野線の旅

 そんな増井とは打ち解けることがないまま夏休みに入った。この夏休みは子供会の班長を任されていたこともあり、毎年夏休みに行われる盆踊り大会に参加しなくてはならないため、8月に入ってから山口に帰省することになった。帰省するまでの間、小学校でのラジオ体操に参加して、帰ったら朝食を済ませて、午前中に宿題を済ませて、昼からは今田や星田などと遊びに行くのがいつものパターンであった。そんな夏休みに入ってすぐ、朝起きてラジオ体操をしに学校に向かっていった。ところが「

なんかいつもと違う…」

という予感がしていた。いつもなら、ラジオ体操をしに皆集まってくるのであるが、私たち以外、学校に向かって歩いている子供が全くいないのである。それでも

「まぁいいかぁ」

と思いながら姉と一緒に歩いて行って、学校の運動場についた。しかし誰もいない。学校の運動場にかけられている大時計を見てみると、5時30分を指していた。何を勘違いしたのか、1時間早く目が覚めて、私も姉にたたき起こされて、何の疑いも持たずに姉と一生に学校に向かっていたのである。

 そのまま誰もいない学校の運動場にいても、何もすることがないので、一旦家に帰って、いつもならまだ寝ていて、聴くことにないラジオ放送を聴きながら6時20分に家を出てもう一回学校に行ったら、今度は大勢の子供たちが集まっていた。皆でラジオ体操をして、家に帰って朝食。この時は両親も仕事が休みということで、寝ていたので、私たちが朝早く学校に行ったのは知らなかったようである。さすがにいつもより1時間早く起きたので、この日の朝は睡魔に勝てず、二度寝して起きたら9時過ぎであった。宿題を済ませて、星田や柳井たちと一緒に市民プールに行こうということで、水着の用意をしてさっそくプールへ。市民プールは私の住んでいたところから歩いて10分くらいのところにあるのであるが、炎暑厳しい真夏である。歩いて行く間にも汗だくになって、夏の強烈な日差しが肌を刺すようであった。やがてプールについて、水着に着替えて一斉にプールへどぼーん。少し冷たい水が気持ちよかった。皆で泳いだり、持ち寄ったゴムボールを使って水球をしたり。半日くらいプールで遊んだであろうか。気がつけば17時近くになっていた。そろそろ帰ろうということで、帰りは星田以外みんなそれぞれ変える方向が違うので、ばらばらになって帰った。星田とは帰る方向が一緒だったので、夏休にどこか電車に乗りにいかないかという話をしていた。

「そうやなぁ…。近鉄で吉野の方に行ってみんか?俺はまだ吉野の方には行ったことがないし」

と私が言うと、星田が

「それやったら、今度の日曜日に天気が良かったら吉野の方に行って、雨が降ったら南海で和歌山まで行くか」

と言うので、私は二つ返事で

「行く」

と言って、7月の終わりの日曜日に電車に乗って出かけることになった。電車賃は私は今まで貯めた小遣いを充てた。

 向かった先は、天気が良かったので吉野方面。電車を乗り継いで天王寺駅前にある近鉄南大阪線・吉野線の乗車駅である近鉄阿部野橋駅へ。ここから近鉄電車に乗って吉野方面へ向かう。大阪市内有数のターミナルである阿部野橋駅を出発したときはかなり混んでいた。

 やがて大阪市内を出て藤井寺駅へ。近鉄バッファローズの本拠地の最寄り駅で、バッファローズのロゴを駅構内で見ることができた。藤井寺駅を過ぎると大都市近郊から郊外へと風景が写っていく。途中、道明寺駅で道明寺線、古市駅で長野線、尺土駅で御所線が分岐し、南大阪線は橿原神宮駅まで。ここから先は吉野線と路線名が変わるが、電車自体はそのまま直通運転されており、阿部野橋駅から特急も走る。吉野口駅では国鉄和歌山線と接続し、和歌山方面からのアクセスも比較的容易な観光地としてこの駅は位置している。吉野口駅を出ると千本桜で有名な吉野駅に到着。ここから吉野神宮へと向かい、境内を散策。ここで母に作ってもらった弁当を食べて、しばらく観光した後、橿原線の平端駅から天理線に乗り換えて天理駅まで往復。さらに大和西大寺駅まで橿原線に乗って、ここから奈良線に乗り換えて、生駒山地を横断して、近鉄難波駅で乗り換えて家に帰った。17時頃帰って、私の家の前で星田と別れた。お土産を手渡すと、妹が目ざとく見つけて

「お饅頭食べる~」

と言っていた。皆でお饅頭を食べながらお茶を飲んで、その日のことを日記に書いた。夏休み期間中なので、今すぐ先生に見せるわけではないが、いい思い出になった。

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