第31話増井

 出だしは良好に思えた5年4組のスタートであったが、なぜか増井実という、クラスの中では最重量級の体格を持つ男子とは折が合わなかった。何かにつけて嫌がらせをしてくるのである。時にはタックルを仕掛けてくることもあった。体重で私よりはるかに重い増井にタックルされると私は吹っ飛ばされるような感じであった。このことを私は楢崎先生に相談した。

「増井が俺にタックルして来るねん。俺はあんなのにタックルされたら吹っ飛ぶし、めっちゃ痛いからやめさせてほしい」

と言うと、増井に理由を聞きに行って、私にこう話した

「増井はリンダに対して自分にはないものを持ってるから、腹が立って嫌がらせとかタックルとかしたそうなんや。もうせえへんて言うてるから、お前も許したったらどうや」

というので、私も

「もうせえへんのやったら別にいいです」

そう言ってそのことは終わったように思えた。ところが今度は誰も見ていないときに仕掛けてくるようになったのである。何も身構えていなかった私は思いっきり吹っ飛ばされて、前方向に突き飛ばされる格好となった。正直むち打ちになるかと思った「お前、もういせえへん言うたんちゃうんか」

というと増井は

「あんなの嘘に決まってるやろ。俺はお前見たらめっちゃむかつくねん」

などという、理屈にならないようなことを言って、私に対する嫌がらせをやめるつもりのないことを言っていた。そして日増しに度が過ぎるようになってきたので、再び楢崎先生に相談した。増井が私に言ったことをそのまま伝えると、先生は増井を呼び出して、思いっきりビンタを喰らわせて

「もう二度とやらん言うたやろうが。なんで嘘つくねん」

と言って怒鳴りつけていた。怒鳴りつけられた増井は私の前に歩み寄り、謝罪したうえで、今度こそもう二度としないことを、私と先生の前で誓った。まぁ、それも嘘を嘘で塗り固めただけだったのであるが。

 私にあって、増井にないもの。それは科学の知識や、地理歴史で常に私が彼を上回っていたことが原因であった。それまで、理科や社会の成績で負けたことのなかった増井が、私と同じクラスになって、私が自分よりも上位にいることが気に食わなかったのである。勉強で勝てないことで腹を立てて、それで嫌がらせやタックルをしていたという、今になってはずいぶんと心の小さい男だったんだなと思う。もちろんこれだけが理由ではなくて、後にわかったことではあるが、増井の家は両親が離婚問題で揺れていたらしく、それが実の息子の精神的な不安定となって表れていたようである。

 それは私が原因ではないはずで、自分の家がうまく行ってないからと言って、他人を攻撃していい理由にはならない。それに勉強で上回れないから悔しいというのであれば、私に負けないくらいの勉強をして、知識を蓄えればいい話で、それで私を攻撃するというのは間違っている。

 その増井以外のクラスメイトとは、5年生の時はおおむね良好であった。特に5年生になって初めて一緒のクラスとなった星田英雄・長井信二・柳井健一・今田周大・福田健司とは大の仲良しになって、よく一緒に遊んでいた。特に星田とは鉄道が趣味ということで、鉄道の話でよく盛り上がっていた。鉄道関係では関西地区のローカル鉄道に小遣いをためて乗りに行ったり、地元を走る私鉄に新型車両が入ると、出発記念式典を見に行ったりしていた。また彼はスポーツ万能で、私よりはるかに運動神経がよかった。持久力もあるので、長距離走が得意であった。成績も優秀で、私とは社会と理科はほぼ互角。その他の教科はなかなか追いつけないくらいの優等生であった。

 永井や柳井、今田や福田はいずれも情に厚く、常に人のことを思いやれるようなクラスメイトであった。それが今に続く交友関係へとつながっていく。

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