第49話 『吸血鬼の住む屋敷』

参上! 怪盗イタッチ




第49話

『吸血鬼の住む屋敷』




 吸血鬼から逃げたアンは、ダッチと合流した。


「ダッチさんも無事だったんですね!!」


 アンはダッチに駆け寄る。ダッチもアンを出迎えるように両手を広げる。

 ダッチの胸に飛び込んでアンはダッチに抱きつく。


「でも本当に良かったです! さっきすごく怖いものを見たんです! 本当に無事で良かった!!」


 抱きついたダッチに顔を擦り付けるアン。そんなアンの頭をダッチは優しく撫でる。


「怖いもの? どんなものを見たんだ?」


「牙が生えてて、フクロウ警部の血を吸って……」


 アンは顔を上げてダッチの顔を見る。


「ほぉ、それってこんなのか?」


 ダッチはそう言って、口を開いて牙を見せつける。


「だ、ダッチさん……もしかして…………」


 アンはダッチから離れようとする。しかし、ダッチはアンに抱きついて、逃げられないように拘束した。


「い、いや、やめてください、ダッチさん!!」


「…………」


 アンは抵抗するが、ダッチの掴む力の方が強い。ダッチは大きく口を開き、牙をアンの首に近づける。


「いや……ダ……ッチ…………さん………………」


 アンの頬を涙が溢れる中、アンの首を冷たい牙が貫いた。


「……………ダッチ……………さ…………さん」


 自身の血が抜かれ、それと引き換えに何か別のものが体内に入り込んでくる。身体の中身が作り替えられて、自身が別物へと変化していく不思議な感覚。

 意識が遠のき、視界が歪む。


「…………」


「さぁ、アルカード様のため、他の奴らを捕らえよう」


「はい。ダッチさん……全てはアルカード様のために…………」



 ⭐︎⭐︎⭐︎



 地下の東側。そこでコン刑事は地下通路を歩いていた。


「警部〜、先輩〜、どこっすか?」


 コン刑事もアンと同様に、地下通路を彷徨いながら、はぐれた仲間を探す。


「しっかし、なんなんすか、あの落とし穴は!!」


 コン刑事は階段を登ろうとしたところを落とされて、地下へやってきたのである。落とし穴のことを思い出して、コン刑事はイラつきを見せる。


「みんな無事ならいいっすけど……このままアタシ一人でイタッチと出会ったら、どうするっすかね……」


 コン刑事はもしもイタッチと遭遇したらを想像する。


「まずはイタッチに近づいて、武器を奪って無力化、その後投げ技に持ち込む。そしてかっこよく……さっすがアタシっすね、イタッチも楽勝っす!!」


 コン刑事はイタッチを逮捕した姿を想像して、勝手に機嫌を元に戻した。


「イタッチを捕まえたら、もう警部の上司になっちゃうかもしれないっすね。いや、それどころか、みんなから英雄扱い……ムフフ」


 想像力を膨らませるコン刑事。ウキウキで地下通路を進んでいると、通路の奥に人影が現れる。見覚えのあるふっくらした身体つきの人物──


「フクロウ警部!」


 コン刑事はフクロウ警部を見つけて、フクロウ警部の元へ駆け寄る。


「探したっすよ〜、フクロウ警部! しかし、遠くから見ても分かりやすいフォルムっすよね〜」


 フクロウ警部の前で警部の体型についてイジる。普段ならツッコミをしてきそうなところだが、フクロウ警部は静かに話を聞いていた。


「警部? どうしたっすか? もしかして暗闇で怖かったとかっすか?」


 クスクスと笑うコン刑事。しかし、フクロウ警部はぴくりとも動かず、立ち止まったままだった。


「ちょっと? どうしたんすか?」


 コン刑事はフクロウ警部の肩を掴んで揺らしてみる。そこで初めてフクロウ警部の異変に気づいた。白目を剥いて、口元には鋭い牙が見える。


「警部? なんで怖い顔してるんすか?」


 笑いながらフクロウ警部の牙を凝視する。


「あれ? それ本当に生えてるように見えるっすね?」


 コン刑事が作り物の牙じゃないと気づいた時。フクロウ警部はコン刑事の両肩を掴む。


「痛い! 痛いっすよ、警部! 何するんすか!? セクハラっすか!?」


「………………」


「警部?」


 フクロウ警部に捕まれたコン刑事は嫌な予感がして、身体を振って逃げようとするが、力強く捕まれて逃げられない。


「これって……どういうことっすか!?」


 フクロウ警部が大きく口を開くと、鋭い牙がコン刑事へと向かってくる。


「や、やめてっす! 警部! 正気に戻るっすよ!」


 フクロウ警部の牙がコン刑事の首元を目指して近づいてくる。牙がコン刑事の皮膚に触れ、もう少しで刺さりそうになる。


「助けて……」


「天月刑事!!」


 後少しで噛まれるというところで、横からネコ刑事が現れる。そしてフクロウ警部にドロップキックをして吹き飛ばした。

 フクロウ警部が蹴り飛ばされたことで、コン刑事はギリギリのところで助かる。


「危なかったな、天月刑事!」


「ネコ先輩!」


 コン刑事は泣きそうになりながら、ネコ刑事に抱きつく。コン刑事が抱きつくと、ネコ刑事はその勢いで倒れそうになるがどうにか耐えた。


「何が起こってるんすか!?」


「吸血鬼だ。警部は吸血鬼に噛まれて吸血鬼になったんだ!」


 ネコ刑事はコン刑事を離すと、倒れているフクロウ警部の方に目線を向ける。ドロップキックをしたというのに、まるでダメージがないかのようにフクロウ警部は立ち上がる。


「天月刑事、今は逃げるんだ!」


「は、はい!」


 ネコ刑事はコン刑事の手を掴み、フクロウ警部から離れるため走り出す。


「どこに逃げるんすか?」


「僕は上の階から降りてきたんだ。地下は迷路になってる、とにかく上に逃げよう!」


 ネコ刑事の案内でコン刑事は一階に続く階段を登る。後ろからフクロウ警部が追ってきている気配もなく、コン刑事はやっと冷静になる。

 そしてあることに気づいた。


「ちょ!? いつまで手を握ってるんすか!」


 コン刑事はネコ刑事の手を振り払う。コン刑事は顔を赤くしているが、ネコ刑事はなんとも思っていないようで、


「あ、すまん。…………いや、ごめんなさい。逃げるために必死だったんです。上司に報告しないでください」


「報告しないっすよ! アタシにビビらないでください!」


 コン刑事が上司に告げ口するのを恐れる。

 そんな会話をしながらも、一階に戻ってきた二人は辺りを見渡す。


 地下とは違い、一階は普通の屋敷みたいな構造をしている。しかし、すでにトラップで地下に落とされている二人は、この屋敷がトラップまみれなのを知っていた。


「これからどうするんすか?」


「二階に行こう。基本的なトラップは下に落とすタイプだ。上にいれば地下までは落とされない……はず!!」






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