第30話 『裏口』
参上! 怪盗イタッチ
第30話
『裏口』
正面玄関でコン刑事が奮闘する中、裏口ではネコ刑事と数名の警備員が見張っていた。
「天月刑事、張り切ってるな〜」
ネコ刑事はマタタビの棒を齧りながら、壁に寄りかかる。
コン刑事に応援に行く手もある。だが、ネコ刑事は今回のイタッチの行動を怪しんでいた。
「この美術館は窓もなく、侵入経路は二つしかない。正面玄関か、裏口だ。そんな中、警備員の多い正面玄関を狙うなんて、あのイタッチがするかなぁ?」
ネコ刑事がそう言い警戒する中、一人の警備員がネコ刑事のもとに走ってくる。それは大阪府の交番から応援に来てくれたメジロ巡査だ。
「メジロ巡査、どうしたんですか?」
「ネコ刑事!! コン刑事からの応援要請です!!」
「天月から? 本当か?」
「はい!!」
ネコ刑事はしばらく考えた後、ポケットからカメラ型の機械を取り出した。
ネコ刑事はその機械のレンズ部分のメジロ巡査の頬につける。
「な、なんですか? ネコ刑事……今は急がないと……」
「いえいえ、メジロ巡査もご存知の通り、今回は予告から犯行予告時間まで余裕があり、僕達も準備時間を長く取れたんですよ。そこで僕もちょっとした装置を作りましてね」
シャッターを押すと、カメラの下部分からばつ印の印刷された紙が出てきた。
「警備員一人一人の体毛を採取して、簡易的にですが同じ体毛かどうかを調べる装置を作ったんです。そしてアナタは黒だ!!」
ネコ刑事は周りにいる警備員に呼びかける。
「コイツがイタッチだ!! メジロ巡査に変装しているぞ!!」
ネコ刑事は警備員と共にメジロ巡査に飛び掛かる。しかし、メジロ巡査は高く飛び上がって、ネコ刑事達から逃げた。
「バレちまったか!」
空中でメジロ巡査の形が変化して、イタッチの姿へと変化する。どうやらイタッチがメジロ巡査に変装していたようだ。
イタッチは着地すると、ネコ刑事達と向かい合う。正面玄関ほどではないが、裏口の警備も数はいる。
簡単に突破することはできないだろう。だから、イタッチはあるものを取り出した。
「コイツを使うぜ」
イタッチがマントから折り紙を取り出した。警備員達は折り紙を見て、オドオドと後退する。だが、そんな様子を見てネコ刑事は喝を入れる。
「慌てるな!! 僕がいる。僕はフクロウ警部と一緒に何度も折り紙を見てきた。今日こそ、対応してみせる!!」
「おぉー」
警備員達がネコ刑事の言葉に感動する中、イタッチは折り紙を完成させて、周囲にばら撒いた。
ばら撒かれたイタッチはイタッチと同じ姿になり、偽イタッチが大量に現れた。
「い、イタッチがこんなに!?」
再び警備員達に動揺が現れる。流石のネコ刑事も頬に汗を流した。
「ね、ネコ刑事……どうしたら……!?」
「あわわわわぁ、慌てるなぁ!! 本物はいつも一人だ!! 本物を探し出すんだ!!」
「って言っても……」
イタッチと偽イタッチの見分けが全くつかない。困り果てたネコ刑事は、
「もう全員捕まえてしまえぇぇぇぇっにゃぁ!!」
混乱してネコらしい語尾までつけて叫んだ。
警備員とネコ刑事が大量のイタッチと格闘する。次々とイタッチを捕まえるが、数が多く捕えきることができない。
奮闘するネコ刑事達であったが、イタッチが四方八方に散ってしまい、それを追うことになった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「いなくなったか……」
偽物のイタッチを追いかけて、裏口から警備員がいなくなる。その間に偽イタッチに紛れて隠れていた本物のイタッチが姿を現して、裏口から美術館へと侵入した。
美術館は3階まであり、目的のお宝は3階にある。物陰に隠れたり、家具に変装したりして美術館を進んでいく。1階、2階を通り抜けて、ついにイタッチは3階に辿り着いた。
「ワンダフルレモンはこの扉の先だな」
お宝のある部屋の前についたイタッチは、扉を開けようとドアノブを掴む。だが──
「…………こ、これは………………」
⭐︎⭐︎⭐︎
ダッチは美術館の中を進む。
「ッチ。想像以上に手こずった」
正面玄関に現れたイタッチとダッチ。その中のイタッチは折り紙で作った偽物であり、ダッチが囮となって正面玄関でコン刑事と戦っていた。
裏口での騒動が正面玄関にも伝わり、警備員達が動揺している隙に、ダッチは偽イタッチと二手に分かれて、逃げることで警備員の数を半分にした。そうして数の減った警備員を倒して、手薄になった正面から侵入したのだ。
「しかし……おい、アン!! イタッチと連絡が取れないってのはどういうことだぁ?」
ダッチは無線に向かって大声で話す。すると、泣きそうな声で無線から声が返ってくる。
「だ、ダッチ……さん。大声はやめてください…………鼓膜が……鼓膜…………が」
「あぁ〜、すまねぇ。んで、どうなってんだ?」
ダッチの問いに無線の先にいるアンが答える。
「分かりません。お宝前の部屋までは連絡が取れてたんですけど、そこからが…………」
アンはホテルの部屋からパソコンで二人を援護している。監視カメラの動きを止めたり、警察の情報に嘘を紛れ込ませたり、やることは様々だ。
そんな中、アンは拠点から二人の動きを把握して、指示を出す役目も行なっている。無線のスイッチを入れ忘れることの多いダッチとは違い、イタッチは些細な情報も正確に伝えてくれる。
そのイタッチからの連絡がない。
本来の計画ではダッチの突入はなく、正面玄関の警備員を引きつけるだけだったが、イタッチと連絡が取れなくなったため、急遽ダッチに侵入してもらったのだ。
ダッチはやれやれとため息を吐く。
「イタッチだぞ。問題なんてないだろ、どうせ無線を無くしたんだよ」
「ダッチさんじゃないので、それはないと思います」
「おぉい、俺なら有り得るってか!? 帰ったら覚えてやがれ……」
ダッチは美術館の中に進み、イタッチの連絡が取れなくなった廊下まで辿り着いた。
廊下の先を見ると、扉の前で力が抜けて倒れているイタッチの姿が見える。
「…………嘘だよ」
ダッチは目元を擦り、もう一度廊下の先を見る。そこにはやはりイタッチが倒れていた。
ダッチはイタッチの元へ駆け寄る。
「おい、相棒!? 大丈夫か!!」
「……ダッチ…………か」
イタッチは意識が朦朧としているようだ。
「何があったんだ?」
「に、匂い……が…………」
ダッチが鼻をクンクンと動かすと、部屋の中から酸っぱい匂いが漏れ出ている。
「なんだ、この匂い……」
ダッチが扉を開けると、部屋の床には何かの液体がばら撒かれており、お宝の前ではお酢はガラスケースに流すフクロウ警部の姿があった。
フクロウ警部はお酢の瓶を床に置くと、フフフと笑い出す。
「イタッチがお酢が苦手というのは、本当のことだったようだな!!!!」
「相棒がお酢が苦手だと……!?」
ダッチが後ろを振り向くと、扉を開けたことで匂いがさらに強くなったのが、イタッチがグッタリとしていた。
「相棒!?」
「…………だ……………ずげ………………」
「相棒がこんなに弱るなんて……」
イタッチにイタズラをしたいという気持ちが湧き上がるが、ダッチはその気持ちを押しころす。そしてフクロウ警部と対峙する。
「相棒がお酢が苦手だったなんて、俺もビックリだぜ」
「ああ、だがこれでイタッチの動きは完全に封じた。残るはダッチ、お前だけだ!!」
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