第28話 『敗北と後悔』

参上! 怪盗イタッチ




第28話

『敗北と後悔』




 ビルの前にパトカーが集まり、ビルから出てきたテロリスト達を次々と連行していく。

 警官の指揮をしているのは、肩幅の広い筋肉質なゴリラの警官。彼はバナナを咥えながら、踵で地面をリズミカルに叩く。


「フクロウめ……なんでオレが後始末なんだよ……」


 彼の名前はゴリラ警部。フクロウ警部の同期であり、現在は組織犯罪対策部四課に所属している。フクロウ警部の呼びかけにより、今回は四課の仕事の範囲ではないが、腕利の警官として護送を任された。


「あれ? ゴリラ警部じゃないですか!」


 ゴリラ警部がパトカーに寄りかかり、テロリストが連れていかれる様子を見守っていると、ビルの中から二人の警官が出てきた。


「ネコ刑事と天月刑事か」


 出てきたのはネコ刑事とコン刑事だ。

 ゴリラ警部は手を振り、二人を呼ぶ。フクロウ警部の判断とはいえ、二人にも危険な任務をさせている。無事で帰って来れたことで、ゴリラ警部はホッと肩を下ろした。


「無事で良かったよ。……ところでネコ刑事、うちの課に来ないか?」


「いえ、僕はフクロウ警部に惚れて、警官になったので……。それでゴリラ警部、フクロウ警部はどうなったんですか?」


「ああ、あいつはな」


 ゴリラ警部はビルの最上階を見上げる。ネコ刑事とコン刑事もつられて、ビルの最上階へと目をやった。


「そう、ですか」


 ゴリラ警部は何も言わないが、ネコ刑事は察した。

 過去の出来事から喧嘩を続けているゴリラ警部とフクロウ警部、直接心配したり、語ったりしない。だからこういう仕草でしか彼は伝えられないのだ。


「まだ戦ってるんですね」




 ⭐︎⭐︎⭐︎




「クハッ!? 戦場……こそ……………」


 麗音は両手をつき、地面を見つめる。そんな麗音をイタッチとフクロウ警部は見下ろしていた。


 テレポートすることで、イタッチ達の攻撃を避けようとしていた麗音であったが、テレポート位置を予測することで逃げた先で攻撃され、麗音は大ダメージを負っていた。

 ダメージを負ったことで、レボリューションスターの効力も弱まったのか、麗音の身体は萎んで今まで通りの姿に戻っていた。


 フクロウ警部は今にも倒れそうな麗音に近づく。そしてしゃがんで目線を合わせた。


「麗音君、君の苦労は伝わった。だけど、君だけが被害者じゃないんだ」


 フクロウ警部は麗音に手を差し伸べる。しかし、麗音はその手を振り払った。


「うるさい!! 俺は俺が可愛くてこんなことをしてるんじゃない!! 俺のような生き方しかできない奴らの居場所を作ってやろうとしてるだけだ」


「麗音君……」


 フクロウ警部の手を払った麗音は、落ちている銃に手を伸ばす。そして銃を拾おうとするが、上手く掴めず、銃は全て遠くへと転がっていく。


「俺が……」


 麗音が手を伸ばす中、イタッチは転がった銃の元へと歩む。そして落ちていた銃を拾うと、麗音の前に投げ捨てた。

 麗音は焦りながらも、銃を拾い上げて、震える手でイタッチに銃口を向ける。イタッチは背を向けて防御することもせず、


「麗音、お前のやろうとしてることが上手くいけば、本当に皆、居場所を得られると思っているのか?」


「…………」


「戦いが終わってお前のようになる奴もいただろう。だが、皆そうじゃない、新しい居場所を見つけ、そこで絆を芽生えさせ、新たな生活を手にしてきた」


 イタッチは振り向き、麗音を見下ろす。


「お前もそうだろう。ここまで戦ってきた仲間がいる。そこがお前の新しい居場所じゃないのか」


「俺の新しい居場所……」


「ノボルは気づいたんだ。だから、お前も説得しようとした。大事な仲間だったからだ」


「ノボル……」


 イタッチは再び背を向けた。そして最後に麗音に告げる。


「お前に最後の選択を与える。その銃を使い、今まで通りの世界で居場所を探すも良し、その銃をフクロウに渡して、今ある居場所を……ジャスミンと共に罪を償うも良し。好きな方を選べ」


「…………俺は」


 麗音は銃口を上げて、引き金に指を当てる。


「…………」


 だが、銃を下げ、フクロウ警部に銃を渡した。麗音から銃を受け取ったフクロウ警部は、麗音の手に再び手錠をかける。


「テロ等準備罪の容疑で現行犯逮捕する」


 手錠をつけられた麗音は、限界が来たのか、その場に倒れ込む。

 麗音を逮捕して、フクロウ警部はホッと息を吐き出す。


「さてと無事に麗音は逮捕できたことだし……」


 フクロウ警部は立ち上がると、もう一つの手錠を取り出して両手で構えた。そして背を向けるイタッチの方へ身体を向ける。


「次はイタッチ、お前の番だ……」


 フクロウ警部はイタッチに飛び掛かる。イタッチは避けることはせず、そのままフクロウ警部に押さえ込まれる。

 手錠をつけて、フクロウ警部は叫んだ。


「だーはっはぁぁぁ!! ついに逮捕したぞ、イタッチぃぃぃぃ!!!!」


「あらま、俺逮捕されちまってるな」


「ふふふ、そうさ、逮捕されたのさ!! …………あれ、違うところから声が…………」


 声が聞こえた方を見ると、そこには手錠のつけられていないイタッチがいた。

 フクロウ警部は下敷きにしている捕まえたはずのイタッチを見ると、それは折り紙で作られた偽物のイタッチだった。


「なぁぁぁにぃぃぃ、偽物だォォォとぉぉ!!」


「そーゆーこと」


 イタッチは倒れて寝ている麗音に近づくと、腹の辺りに手を当てる。すると、麗音の腹部からレボリューションスターがすり抜けて現れた。

 イタッチはそのレボリューションスターを手にすると、マントの中にしまう。


「さて、お宝も頂いたことだし、じゃあな、フクロウ!!」


「ま、待てぇ!! イタッチ!!」


 フクロウ警部は逃げようとするイタッチを追おうとするが、折り紙で煙幕を作り、イタッチは逃げていってしまった。




 ⭐︎⭐︎⭐︎




 それから数日。ジャスミンは解散した。幹部であった数名と麗音は逮捕され、それぞれの国へと送り返されることになった。


「うっす、フクロウ警部、何してるんすか?」


 警視庁の三階にある小さな部屋。そこにコン刑事が入ると、フクロウ警部は山積みの書類と格闘していた。


「あれだけ大きく動いたのにイタッチに逃げられたからな……。その始末書……」


「またっすか……。はぁ、手伝うっすよ」





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