第24話 『ジャスミン侵入計画』

参上! 怪盗イタッチ




第24話

『ジャスミン侵入計画』




 都会にある高層ビル。そこがジャスミンの拠点となっていた。


「番号!!」


 青い豚が向かいに立って叫ぶ。すると、犬達が順番に返事をする。


「ワン」


「ツー」


「スリー」


 次々と犬達が番号を言う中、犬に変装したネコとキツネも彼らに続いて返事をした。

 返事を聞くと、青い豚はうむうむと頷く。


「うむ、では今日の警備も頼んだぞ」


「「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」」


 青い豚は部屋を出ていく、それに続くように犬達はバラバラに散らばった。

 流れに従ってネコ刑事とコン刑事も別れたが、タイミングを見計らってすぐに合流した。


「よし侵入は成功だな」


「いつもと人数が違うはずなのに何も言わなかったっすね」


「人数の違いなんて気にしてないんだよ。入れ替わりの激しい組織だからね」


「酷い組織っすね!」


 ネコ刑事とコン刑事は警戒しながら、ビルの地下を目指していく。


 ビルは24階建てで地下は3階まである。しかし、通常の経路で行けるのは二十階までで、そこからは特殊な操作が必要となる。

 20階以上の階層に行くためには、地下2階の制御室で特殊なエレベーターを操作する必要がある。

 ネコ刑事とコン刑事の目的は地下2階の制御室を占拠して、フクロウ警部を20階以上へ行かせることだ。

 フクロウ警部は別行動で20階を目指して、最上階に現れるイタッチと麗音の逮捕を目指す。


「しかし、先輩! フクロウ警部は人を集められるんすよね、なんで今回はアタシ達だけなんすか?」


「そりゃー、侵入だからな。人員は最小限だよ」


 二人は階段を降りて、地下1階を通過。地下2階へと辿り着いたところで……。


「ふぁぁ、眠い……」


 階段を降りてすぐ角の先から何者かの声が聞こえてきた。そしてその声の主の足音はこちらへと近づいてきている。


「せ、先輩!? やばいっすよ」


「大丈夫だ。今の俺たちは変装してるんだ。イタッチほどじゃないが堂々としてればバレないさ」


 二人は進むと、ちょうど角のところで声の主とすれ違った。

 それは眠そうに頭を掻く白衣を着た雄ロバだ。


「お、犬の兵隊達かい。警備よろしく頼むよ〜」


「「は、はい……いえ、ワン!!」」


 ロバは刑事達の返送には気づかず、そのまま行こうとする。しかし、ロバが来た道から一匹の雄羊が駆けてくる。

 こちらも同じく白衣を着ており、書類を持ってロバの前に立つ。


「ジミンさん、勝手に出歩かないでくださいよ!! 今この支部はイタッチの予告で警戒体制なんですから!!」


 羊はジミンと呼ばれたロバに寄り添う。どうやらイタッチの予告以降、ジャスミンは警備を厳しくしているらしい。


「ふぁぁ、めんど……」


「面倒でも付き添います。……っと、犬の兵隊さん達ですか。警備よろしくお願いしますね」


 羊が現れたがこのまま問題なくやり過ごせそうだ。そうコン刑事がふと息を吐いた時。

 眠そうにしていたジミンが身体を仰け反らしながら、刑事達の方を見た。


「なんだか変だなぁ、犬の兵隊は九匹。それぞれ警備場所は決まってるはずだが」


 ネコ刑事とコン刑事はドキッと身体を震わせる。

 ジミンの言葉を聞き、羊も二人に疑いの目を向ける。


「そういえば変ですね。もしや……」


 羊は確認するために二人に近づく。


 このままではバレてしまう……。ネコ刑事とコン刑事は息を合わせたように、同時に走り出して逃げた。


「ま、待てっ!!」


 羊も二人の後を追ってくる。


「や、やばいっすよ!!」


「とにかく逃げろ、天月刑事!!」


 追ってくる羊から必死に逃げる二人。廊下の角を曲がり、すぐにある部屋へと逃げ込む。

 しかし、羊も曲がった後、どこかの部屋に逃げ込んだのは分かっているはずだ。


「先輩!! どうするんすか!!」


 部屋に入ったらいいが、廊下の部屋を片っ端から確認するだろう。隠れるにしても、この部屋にはベッドとクローゼットしか置かれていない。


「ここもすぐに見つかる……てか、もう部屋の前にいる!!」


 焦ったネコ刑事はコン刑事の腕を掴み、部屋の奥にあるクローゼットに入り込む。

 クローゼットに隠れると同時に、部屋の扉が開いて羊が入ってきた。


「この部屋か!? ここは隠れられそうなのは……ベッドの下とクローゼットか。でも、二人組だったからな、あのクローゼットに二人じゃギュウギュウだ……ということは!!」


 羊はベッドの下を覗き込む。しかし、そこには何もいなかった。


「いない……。ってことは他の部屋か!!」


 ネコ刑事達がいないと判断した羊は、部屋を出て他の部屋へと向かった。

 羊がいなくなり、ネコ刑事とコン刑事はクローゼットから抜け出す。


「はぁはぁ、ど、どうにかなった〜」


 ネコ刑事は汗を腕で拭う。同じようにクローゼットから出てきたコン刑事は、顔を赤くしていた。


「天月刑事? 暑かったでしょ、これで汗でも拭きなよ」


 そう言ってポケットから取り出したハンカチを渡す。しかし、コン刑事はハンカチを投げ返した。



「ちょっと!? なんで!?」


「…………アタシは大丈夫っす。そ、それよりも先を急ぐっすよ」


 コン刑事はネコ刑事から目線を逸らす。ネコ刑事は首を傾げる。



「……まぁいいか。急ぐよ!!」


 ネコ刑事とコン刑事は羊がいなくなったのを見計らって、部屋から出て制御室を目指した。

 廊下を右へ左へまた左へ、そうしていくつもの角を通過してついに二人は制御室へと辿り着いた。

 早速コン刑事が扉を開けようとするが、ネコ刑事が止める。


「待て、天月。中に人がいるかもしれない」


 扉は太く、窓もない。中の様子が分からないのだ。

 ネコ刑事は被っていた帽子を取って、つばの部分の裏を触る。すると、帽子から細い管が飛び出した。管の先端を扉に当てて、帽子を被り直す。


「なんすかそれ?」


「ふふふ、これはね」


 ネコ刑事が帽子を擦ると、つばの下の部分に透明な映像が現れる。


「厚さ30センチの壁なら、体温、音、電磁波などの様々な情報を覗き見ることができる装置だよ。これで中に人がいるのか見れるんだ」


「そんなものが!? どこで売ってたんすか!?」


「作った……」


 ネコ刑事の特技は改造だ。様々な機械を改造して、アイテムを作ることが得意であり、日夜イタッチを逮捕するための道具を製作している。


 内部の様子を見たネコ刑事はう〜んと唸る。


「中に二人いるよ。フクロウ警部の作戦も時間ももうすぐだから、早く中に入りたいんだけどな」


 ネコ刑事が頭を抱える中、コン刑事は笑顔でネコ刑事に宣言した。


「出したらアタシに任せて欲しいっす!」


「天月刑事に?」


「中にいる二人を無力化すれば良いんすよね。アタシなら3秒っすよ!」


「マジか……」


 自信満々なコン刑事は、ネコ刑事に扉の前から離れるように伝える。そして勢いよく扉を開き、中へと突入した。

 中には羊の作業員とジミンと呼ばれていた白衣のロバがいた。


「な、なにものぉ!?」


 突入したコン刑事は羊の作業員に飛びかかり、胸ぐらを掴むとジミンに向けて投げ飛ばした。


「っ!?」


 ジミンは避けることができず、羊に押しつぶされる。コン刑事は宣言通り、制御室を制圧した。


「すごいな、天月刑事……」


「ふふ〜っ! ありがとうっす!」


「さてと、早くエレベーターを起動させないと……」


 ネコ刑事は制御室の機械の前に立つ。そして操作しようとしたが、羊の下敷きになっていたジミンが羊の下から這い出てきた。


「君達……何をしようとしてるのか……い」


「先輩!? まだこのロバ意識が!!」


 コン刑事は手錠を取り出して、急いでジミンを逮捕しようとするが、ジミンは両手を上げて降参のポーズをした。


「待ってくれ。私は大人しく捕まるよ。だが、その前に……パスワードをロックしてあげよう」


 機械を操作していたネコ刑事は手を止める。そしてジミンへと顔を向けた。


「……どういうことだ。君もテロリストなんだろ?」


「ああ、そうだとも、もう私の手は汚れている。だが、もうやめ時だと思うんだよ……。君達がこの組織を壊してくれるんだろう」


「……はぁ、分かったよ。ちょうどパスワードを聞き出さないとっと思ってたところだ。解除してくれ」


 ネコ刑事はジミンを機械の前に立たせる。


「先輩!? 大丈夫なんすか!」


「大丈夫だよ。エレベーターさえ動けば、後はフクロウ警部がどうにかしてくれる」




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