第21話 『スカイブルーの正体』

参上! 怪盗イタッチ




第21話

『スカイブルーの正体』





「なんでついてくるんだ?」




 森の中を進む中、ダッチは後ろをついてくるパウラを睨みつける。イタッチ達三人が集落を出てから、パウラは三人の後ろをついてきていた。




「あの怪物を倒すのだろう。ワタシもついていく」




 腕を組み宣言したパウラに、ダッチはやれやれと首を振る。




「あのなァ、俺達はお宝を盗みに行くんだ。怪物の討伐は仕事じゃねぇよ」




 そう言ってダッチはパウラに威張るが、そんなダッチにアンは反論する。




「いえ、きっと怪物は倒す必要がありますよ」




「はぁ?」




 大口を開けて驚くダッチに、アンは説明をする。




「怪物のエネルギー源はスカイブルーなんです。つまりスカイブルーを手に入れるということは、怪鳥を倒すことになります」




「そういうことはもっと早く言えよ!! おい、イタッチ、お前も知ってたのか?」




 ダッチは先頭を歩くイタッチの肩を掴む。




「当然だ」




「俺だけかよぉ!!」




 ダッチが文句を言う中、四人は森を進んでいき、森にある巨大な川に辿り着いた。川の幅は600メートル以上はあり、魚やワニが川を泳いでいる。

 そんな川の前に立つと、パウラは空を見上げた。




「ここがあの怪物の住処だ」




 パウラの言葉を聞き、イタッチは周囲を見渡し、疑問を口にする。




「この川が……か」




 川には動物が住み、周囲も自然が広がっている。本当にここに集落の人間を襲うほどの、怪鳥が住んでいるとしたら、これほど生態系が安定しているものなのだろうか。




 そんなイタッチの疑問に気付いたのか、パウラは川に近づき、水を掬う。




「あの怪物は自然には影響を与えない。普段は完全に姿を消し、全ての痕跡を消し去る」




「……全ての痕跡を消す…………」




 イタッチが考え込む中、ダッチは川の流れを遮るように聳える岩に飛び移る。アンは心配そうにダッチを見守るが、ダッチの身体能力ならば、不安定な足場でも楽々と飛び移れる。

 小さな島に立ったダッチは、仁王立ちで川を見下ろした。




「ッチ。そんな怪鳥をどうやって探すんだよ……」




 ダッチがそうぼやいた時。川の中央の水面に波紋が広がる。その波紋は最初は小さかったが、徐々に大きくなり、川に波を作り出す。




 アンはイタッチの後ろに身体を隠す。




「な、何が起こってるんですか!?」




 波紋が広がる様子を見て、パウラは目を丸くして呟いた。




「奴が……現れる」




「まさか……」




 イタッチはいつでも折り紙を取り出せるように、マントの後ろに手を伸ばす。

 ダッチも同様に警戒して、腰にある刀に手を置いた。




 イタッチ達が警戒する中、波紋の広がる水面の上空の空間が歪み始める。そして突如その場に黒い怪鳥が現れた。

 3メートル近くの巨大な羽を広げ、前方はクチバシのように鋭く尖っている。唸るような機械音を鳴らし、それは空を飛行していた。




「な、なんだありゃ!?」




 ダッチは空を飛ぶ怪鳥を見て、目を丸くした。怪鳥が現れると同時に、水面の波紋は大きくなり、波になる。

 波が押し寄せて、ダッチの乗っている岩は波に飲み込まれた。




「ダッチさん!!」




 アンはダッチを心配して駆け寄ろうとするが、イタッチがアンを止める。




「待て、今行くのは危険だ」




「でも……」




「ダッチなら大丈夫だ。それよりもあの怪鳥……」




 イタッチは空を飛ぶ怪鳥に目線を向ける。




「あれは生き物じゃない」




 怪鳥の身体は全身鋼で覆われており、エンジン音すら聞こえる。これは生物ではなく、兵器だ。




 イタッチ達と怪鳥は向かい合う。緊張感が走る中、怪鳥が動き出した。

 怪鳥のクチバシのような先端の部分が上下に開き、内部に設置された砲台が露になった。




「これは……!?」




 イタッチはマントから急いで折り紙を取り出し、盾を作り上げる。そしてアンとパウラを後ろに呼び、二人を守る姿勢になった。

 砲台から高い音が鳴り響くと同時に、水が放出される。強力な水鉄砲になっており、水はイタッチの折り紙を貫通して、イタッチの腹部を貫いた。




「イタッチさん!!」




「大丈夫。君達は俺の後ろから出ないように」




 二人は心配しながらも、イタッチに言われるように後ろにしっかり隠れる。

 盾とイタッチが壁となり、アンとパウラを守る。しかし、守るのが精一杯であり、イタッチはそれ以上動くことができなかった。




 その時、川に落ちたダッチが川から飛び上がり、怪鳥に向かって跳躍する。そして刀で怪鳥に取り付けられた砲台を切り落とした。




「テメェ、俺の仲間に何してやがる!!」




 砲台を切り落としたダッチは、イタッチ達の前へと着地する。

 戻ってきたダッチを見て、アンは笑顔になった。




「ダッチさん! 無事だったんですね!!」




「当然だ」




 ダッチは振り向くことはせず、親指を立てて無事をアピールする。

 砲台を切り落とされた怪鳥は、水鉄砲が出なくなってもそのままの位置で浮遊を続けている。そんな怪鳥をダッチは睨みつける。




「効くかどうかは分からんが、やるだけやってみるか」




 そしてダッチは刀を横にすると、小刻みに振動させ始めた。

 揺れるダッチの刀から、超音波が発しられ、草木が揺れる。




 イタッチは折り紙で耳栓を作り、アンとパウラ、そして自分の耳を塞いだ。

 超音波を聞いた怪鳥は、浮遊の動作がおかしくなり、左右にふらふらと揺れ始める。そして一度上昇したかと思ったら、川の上流の方へと飛んでいってしまった。




「効いたってことか……」




 怪鳥がいなくなり、ダッチは刀をしまうとイタッチの元に駆け寄る。

 イタッチはアンとパウラを守ったことで、傷を負って、顔色の青い。

 ダッチはそんなイタッチの腕を肩に乗せて、イタッチのことを支える。




「治療が必要だな。おい狼、集落に戻るぞ!」




「パウラだ!! その者に助けられたのも事実か……。分かった、ワタシの家で休ませよう」




 パウラは怪鳥を警戒しながら、先頭を進んで村へと誘導する。数十分後村に到着したダッチ達は、パウラの家にイタッチを寝かせた。




「イタッチさん、大丈夫ですか?」




 寝ているイタッチをアンは心配そうに見つめる。




「折り紙で応急処置はしたから大丈夫だ。だが……」




 イタッチは仰向けのまま、部屋にいる三人に伝える。




「あれは生き物じゃない。何かの機械だ……そして俺の天敵でもある」




「イタッチさんの天敵……」




「俺の折り紙は何にでも変身できるが、どうやっても水には弱い。もしも折り紙の弱点を水だと分かって、攻撃してきていたのなら……」




 ダッチは腕を組み、イタッチの言葉の先を言った。




「相棒の対策ができてるってわけか」




「そういうことだ。……情けない話だが、この傷と敵の対策で俺はすぐには動けそうにない」




「ああ、分かってる」




 ダッチは刀を持つと、立ち上がって出口の扉へと身体を向けた。




「アン。相棒のことを頼む」




「ダッチさん!? 一人でいく気なんですか!?」




「どういうわけか俺の音波は効いた。消えた方向を探せば、まだ近くにいるはずだ」




「でも、一人じゃ危険ですよ!」




 ダッチは背を向けたまま、腕を組み、アンに宣言する。




「アン、俺は一人じゃァない、お前らと離れていても、お前らの想いが俺に力をくれる」




「ダッチ……さん」




 ダッチはそれだけを残し、パウラの家を出て行った。ダッチが出て行ってすぐ、パウラも飛び出していく。

 イタッチとアンの二人だけになった後、寝た状態のイタッチがアンに声をかけた。




「アン。少し手伝ってくれ、ここからでもできることがある」





 ⭐︎⭐︎⭐︎☆彡







「テメェ、またついて来たのか」




 集落を出たダッチが後ろを見ると、そこにはパウラの姿があった。ダッチが集落を飛び出してから、ついて来ていたようだ。




「戦力は多いに越したことはない。それに、らしくないことを言って、出て行った奴を放ってはおけない……」




「あ?」




 ダッチは首を傾げながら睨む。しかし、パウラは動揺することなく、話を続けた。




「ワタシの父は厳しい人でな。ワタシのことなど見ていないと思っていた。だが、怪鳥が集落を訪れた時、父はワタシに愛していた、そして生きるように告げて、そして怪鳥に立ち向かって行ってた」




「俺とテメェの父が重なったか? 知るかよそんなの、俺はあのバカドリをぶっ倒しにいくだけだ」




「ああ、そうだな。さっきの言葉は忘れてくれ。ワタシも貴様と同じだ、奴を倒していこう」




 ダッチとパウラは怪鳥の向かって行った方向へと歩む。森を進んで川の上流へ着くと、そこには巨大な滝があった。




「でっけぇ滝だな」




「ここは集落では神聖な地とされている。昔は神が住んだと言い伝えがあった場所だ」




 パウラはそう言いながら、滝へと近づいていく。そんなパウラにダッチは戸惑う。




「おい良いのかよ、そんなところに近づいて」




「言っただろ。昔だと……今は住んでいない」




「なんだよ、その神さんに会ったことでもあるみたいな言い方だな」




 ダッチの言葉にパウラは滝から流れる水に触れながら、




「ワタシは会ったことはない。だが、父が言っていた。神はこの地を追い出されたと」




「神が追い出された?」




「詳しくは分からん。だが、神はこの地に現れた何者かによって、どこかへ追いやられた。そう聞いた」




「それがあのバカドリってことか?」




「さぁな、あの怪物が現れたのは3年前だ。父の話は30年も昔のことだった、関連してるとは思んがな」




 話を終えたパウラは滝の中にある、石を動かした。石を動かしたことで仕掛けが動いたのか、滝が中央で割れて洞窟が現れる。




「すげぇ仕掛けだな」




 洞窟の仕掛けにダッチが感心する。二人は水面から飛び出た岩を伝いながら、水面を超えて洞窟の中へと入った。




「祭壇があった頃の仕掛けらしい。小さな頃に運良く見つけた」




「んで、なんでこんなところに入るんだ? あのバカドリはこんな狭いところ、入れないだろ?」




「ああ、あの入口からは入れない。だが、我々から身を隠し、身体を休める場所がこの先にある」




 洞窟を抜けると、そこには天井に穴が空いた空間があった。そしてその空間の中央に例の機械が着陸していた。

 洞窟からは入れないが、天井の穴から侵入したのだろう。穴自体も植物に覆われており、外からは簡単に見つけられそうにない。




「こんなところで休んでやがったか……」




 ダッチは刀に手を置き、いつでも戦闘できる姿勢になる。

 二人が警戒を強める中、機械は高い音を鳴らしながら光出す。




「なんだ……!?」




 装甲全体が光ったと思ったら、怪鳥は空へと飛び立つ。空間内の高さは80メートル程度、そんな狭い空間の中で飛行し、ダッチ達と向かい合った。







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