第10話 『お留守番』

参上! 怪盗イタッチ




第10話

『お留守番』





「どういうことだ相棒!? なんで俺が留守番なんだよ!!」




 ダッチが抗議すると、アンが理由を伝える。




「ダッチさん、体調が完全じゃないじゃないですか。無理をしたら次はもっとひどくなりますよ」




 さらにアンに続いてネージュも説得に入る。




「アンちゃんの言うとおり。ダッチさんは休んでください。これ以上の無茶は危険よ」




「だが、イタッチの相棒は俺だ!! 俺が行かなくて誰が行くんだよ!!」




 そのダッチの言葉にネージュは立ち上がった。




「私がやる。ダッチさんの代わりにイタッチの相棒になるよ!!」




「ネージュ!?」




「ダッチさんに救われたから、次は私が恩返ししないと。それにアイスキングと因縁があるのは私、私が決着をつけないと」




「……だが、危険だぞ」




 まだダッチは納得していない様子。そんなダッチにアンは布団をかけた。




「ネージュさんは本気です。ここは任せましょうよ」




「アン……」




「危険だからって逃げられるわけじゃないです。それにイタッチさんがいれば、大丈夫ですよ、ね! イタッチさん!」




 アンがイタッチの方を向くと、イタッチはニヤリと笑った。




「ああ、それにネージュだって身を守る手段を持ってそうだしな」




 イタッチはネージュの前に立つ。そして握手をした。




「今回は頼んだぜ、ネージュ」




「はい! イタッチさん、頑張るよ!!」




 二人が握手する姿を、ダッチは寂しそうに眺めていた。











 氷の城の前。そこにフクロウ警部とネコ刑事がやってきていた。




「私は警視庁からやってきたフクロウ警部だ。イタッチの予告状が届いたと聞いた、門を開けろ!!」




 フクロウ警部は門に向けて叫ぶが、そんな声が届くはずもない。しばらく経っても門が開かないため、フクロウ警部は門をよじ登り始める。




「ちょ!? 警部!?」




「そちらが協力的でないのならこちらは強行突破だ」




 ネコ刑事も戸惑いながらも、フクロウ警部を追いかけて氷の城へと侵入した。城の中はツルツルの氷の床で出来ており、光が反射して美しい。

 そんな氷の城の最上階を目指して二人は進む。




 まずはアイスキングに会うつもりだ。どういう理由でイタッチに狙われてるのか。それを問い詰めるのが狙いだ。

 ツルツルとして滑りやすい階段を登りながら、二人は城の半分まで登った。すでに元々あった駅の高さを超えている。

 そんな高さまで来たところで、二人は呼び止められた。




「侵入者か……」




 広い食堂のようなフロア。そんなところで待ち構えている白熊の姿があった。




「私はポーラ。アイスキング様の命令で侵入者は始末するように言われているの。アンタ達が予告状を出したイタッチかしら?」




 ポーラの質問にフクロウ警部は横に首を振る。




「俺は警視庁から来たフクロウというものだ。イタッチとの関係をお聞きしたい、アイスキングというものに会わせてもらえないか?」




「アイスキング様に……? 無礼者がお前達のような下等なものにアイスキング様が直接会われると思わないことね。警視庁と言ったね、現政権下の組織だろう、アイスキング様に危害を加える可能性がある。ここで始末しておくよ」




 ポーラは手のひらを上に向け、吹雪を起こす。そして手のひらに氷柱を生成した。




「串刺しの刑よ!!」




 ポーラは氷柱を一本。フクロウ警部に向けて飛ばした。




「フクロウ警部!!」




 ネコ刑事がフクロウ警部を心配して叫ぶ中。フクロウ警部は腰につけたベルトから拳銃を取り出した。

 そして一発、狙いを定めて氷柱に向かって発砲した。




 その弾丸は氷柱を粉々に砕き、ポーラの頬を掠って壁に埋まった。




「わ、私の顔に傷を……」




 ポーラが自身の顔を触れ、傷ができたことにショックを受ける中。フクロウ警部はポーラに銃口を向ける。




「発言からして協力の要請は不可能と判断した。君達の行為は侵略だ、君達も逮捕する」




 フクロウ警部に並んで、ネコ刑事も拳銃を取り出した。これでポーラは降伏するかと思われたが、




「よ、よくも私の顔に傷をつけてくれたわね……」




 ポーラは降伏することなく。その場で身体を震わせる。そしてポーラの周りを吹雪が包み込む。




「許さない、許さないわよぉぉぉ!!!!!」




 ポーラが激昂すると風吹が部屋中に吹く。ネコ刑事は吹かれて後ろに転がり、フクロウ警部は倒れないでいるのが精一杯で、拳銃を構えることができなかった。




「な、なんで建物の中で……!?」




 二人が動けずにいると、二人のいる床が突然開く。扉のようにぱかりと開き、下に通じる落とし穴になっていたようだ。




「う、うそだろぉぉ!?」




 フクロウ警部とネコ刑事は落とし穴へと落ちていき、ポーラの前から姿を消した。




 フクロウ警部とネコ刑事は氷でできた滑り台を滑っていく。そして地下深くにあるゴミ捨て場のようなところまで落下して落ちた。




「いてて〜。フクロウ警部、大丈夫ですか?」




 ネコ刑事は一緒に落下したフクロウ警部を心配して周囲を見回す。しかし、フクロウ警部の姿が見えない。




「フクロウ警部? フクロウ警部!? どこですか!?」




 ネコ刑事が声を上げて探すと、ゴミが積み上がっているところがモゾモゾと動く。そしてゴミの山からフクロウ警部が顔を出した。




「ここだ……」




「警部……無事で良かった…………」




「どこが無事だ……。俺を引っ張り出してくれ」




 ゴミの匂いが染み込んだフクロウ警部を、ネコ刑事が引っ張り出す。最初は触りたくなさそうだったが、諦めて臭そうなフクロウ警部を助け出した。




 フクロウ警部はゴミの中から落とした帽子を探し出し、被り直す。




「さてと、これからどうするか?」




 そして上を見上げる。かなりの高さから落ちてきたようで、ここをよじ登るのは不可能だ。

 だからと言って、肥満体型のフクロウ警部では飛ぶこともできない。




「脱出手段は上しかなさそうですね……。警部、一応、持ってきたものがあるんですけど」




「ん、なんだ?」









 喫茶店の二階にある部屋。そこでネージュは怪盗衣装に着替えていた。水色のマントを背負い、仮面で素顔を隠す。

 着替えを終えたネージュを見て、アンは拍手をした。




「似合ってますよ! ネージュさん!」




「そ、そう? ありがとう、アンちゃん」




 アンに褒められて、ネージュは恥ずかしそうに鏡に写った自分の姿を見る。

 イタッチもネージュの姿に爪を立てて、グッとサインを送った。




 そんな中、布団に潜り込んで拗ねているダッチが、ボソリと呟く。




「なんで一回だけの助っ人なのに、衣装が必要なんだよ」




 今回の件は納得はしたが、お留守番ということで、かなりショックを受けているらしい。

 寂しそうなダッチにアンは上からのしかかる。




「ぐっほぁっ?」




 布団に潜っているところを、上から乗っかられてダッチは潰れるように寝転んだ。




「ダッチさんは私とお留守番です。ダッチさんの今日のお仕事は休むことなんですから、しっかり休んでてくださいね」




「分かった、分かったから降りてくれ……」




 実際にはアンはダッチの半分の体重もない。そのため、乗られても重たくはないはずだが、アンのためにわざと苦しんでいるふりをしているのだろう。

 その様子にイタッチがフンと笑い、ネージュも楽しそうにクスクスと口元を手で隠しながら笑った。




「さてと、今回の目的についておさらいしようか」




 イタッチはテーブルに地図を広げる。氷の城の地図はない。だが、アンが渋谷駅にある監視カメラにハッキングをして、出来る限りで中の様子を想定して作った地図だ。




「恐らくは氷の城を作り出したのはアイスキング本人だ。神器を使い、この雪を降らせ、城を作った」




 イタッチがそう伝えると、アンは首を傾げる。




「神器ってなんですか?」




「神の武器。アイスキングがどうやって手に入れたかは分からないが、ここまでのことができるのは、神器しか考えられない」




「神の武器……ですか」




 アンが不安そうにイタッチの顔を見る。そんなアンの視線に気づいたのか、イタッチはニヤリと微笑む。




「大丈夫だよ。アン、神器には神器で対応する」




 アンはイタッチの発言に首を傾げる。だが、その疑問には答えず、イタッチは話を戻した。




「世界中を氷漬けにするのも神器を使うことになる。だから、俺がやるのは神器を奪う、または破壊することだ。アイスキングが奪おうとする世界を、俺達が先に盗んでやる」




 イタッチが宣言すると、拳を握りしめて、高く掲げた。




「おう!」




「はい!」




「頑張ります!」




 こうしてイタッチ達は氷の城へと侵入することとなった。









 氷の城。5階。氷柱時計の部屋。天井に大きな氷柱があり、氷が溶けることで水が滴り時を刻む。一定リズムで滴る水が、この氷の城の時計の役割をしている。

 そんな部屋でペンギンが仁王立ちをして、立ったまま……




「zzzzzz……」




 寝ていた。









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