第8話 『ネージュ』

参上! 怪盗イタッチ




第8話

『ネージュ』




 ダッチは首を傾げる。




「お前を盗み出してほしい? どういうことだ?」




 ダッチが質問するが、ネージュは目を細め申し訳なさそうに頭を下げる。




「すみません。それについても……まだ」




「ッチ。それもかよ。まぁ良いがよ」




 頭を下げるネージュの肩をイタッチは叩く。




「安心しな。まずはここから連れ出せば良いんだろ」




「はい。お願いします」




 イタッチはしゃがんで背中に乗るように伝える。ネージュは恥ずかしがりながらも、イタッチにおぶられた。




「じゃあ、まずは美術館から脱出だ」




 イタッチとダッチはネージュを連れて廊下に出る。長い廊下を走り、美術館の出口を目指す。

 しかし、道中の窓から外を見たネージュが、




「ま、待ってください!」




 二人を止めた。ダッチはネージュが止めた理由を知ろうと、窓から外を覗く。




「どうした……ってなんじゃありゃぁぁぅ!?」




 外では巨大な雪だるまが警官達と戦っていた。




 雪だるまは3メートル以上ある巨大で、ジャンプしながら警官達を踏み潰していく。警官達も銃で応戦しているが、雪だるまに銃が効くのか不明だ。




「なんで、あれがここに……」




 雪だるまを見て、怯えるネージュ。その様子を見てイタッチはネージュの肩を叩く。




「何か知ってるのか?」




「ええ、あれはスノーマン。精霊で作ったゴーレムです」




「ゴーレムか。厄介そうな相手だな、お前を狙っているのか?」




「恐らくは……」




 イタッチは窓から外の様子を覗くと、顎に手を当てて考える。




「フクロウならどうにかできるかもしれんが……」




 そう言って雪の中を眺めていく。戦っている警官の中にネコ刑事は見える。だが、フクロウ警部の姿は見えない。

 よく観察して、イタッチはやっとフクロウ警部を発見した。




「はぁ……一番最初に狙われたか。流石に奇襲じゃな……」




 イタッチは大きくため息を吐いた。すでに踏み潰された警官達の中に、フクロウ警部も含まれていた。

 踏み潰されているが、数時間もすればあいつなら復活するだろう。だが、今すぐに雪だるまと戦闘するのは不可能だろう。




「時間をかければかけるほど、ヤバいかもな。逃げるぞ、お前ら」




 イタッチは外の戦況から、急いで逃げることにした。二人を連れて、美術館の出口を目指す。

 裏口にたどり着き、外に通じる扉を開ける。




 外は雪景色。本来なら警備員が囲んでいるはずだが、そこには誰もいなかった。




「……来るぞ!」




 イタッチはネージュの腕を引っ張り、雪の中へと飛び込むようにジャンプする。ダッチも同様にジャンプして出口の側から移動した。




 イタッチが避けると同時に、頭上に巨大な雪だるまが落ちてきた。その場で止まっていれば、ペシャンコで雪の中に埋まっていただろう。

 イタッチとダッチは雪だるまから、ネージュを守るように立ち塞がった。




「オイラはスノーマン。アイスキング様の順従なる下僕だ!!」




 スノーマンは雪でできた身体を動かし、ポーズを取って自己紹介をする。しかし、ぽっちゃりとした雪だるまボディであるため、ふざけているように見える。

 そんな姿にイラっときたのか、ダッチは刀を抜いてスノーマンを威嚇する。




「アイスキング……何者だ、ソイツは」




 スノーマンが答える前に、後ろで守ってもらっているネージュが答える。




「アイスキングはかつて私達の王国を滅ぼした魔王の名です。しかし、ラビオンに封印されたはずじゃ……」




 驚く様子のネージュ。そんなネージュの姿を見て、スノーマンはクスクスと笑い出す。




「アイスキング様が封印された……クスクスクス、君はあの方をわかってない。あの方は魔王であるぞ」




「まさか、封印が解けたってこと……!?」




「アイスキング様はお前の力を欲している。ついてきてもらうぞ!」




 スノーマンはネージュに手を伸ばす。しかし、ネージュは首を横に振り、




「嫌です。あなた方の思い通りにはさせません」




「そうか、なら無理矢理でもアイスキング様の元へ連れていく!!」




 スノーマンは高く飛び上がり、ネージュに襲い掛かろうとする。ダッチはネージュに寄り添い、守ろうとする。

 そんな中、イタッチは折り紙で縦を作ると、二人の前に立ち、スノーマンからネージュとダッチを守った。




「ダッチ、お前はネージュを連れて先に行け。俺がコイツを相手する」




 盾で降ってくるスノーマンを受け止めたイタッチは、二人にそう告げる。ダッチはそんなイタッチの姿にニヤリと微笑み。




「了解だ、相棒」




 ダッチはネージュの手を取り、スノーマンがいない方向へと逃げ出す。




「ちょ、ラビオンの偽物。仲間を置いて逃げるのですか!?」




「当然だ。俺達は怪盗、逃げるが勝ちだ」




 ダッチはネージュを連れて、逃げていく。そんな二人を追おうとスノーマンはするが、イタッチが立ち塞がる。




「行かせないぜ。お宝の横取りはさせない」




「クスクスクス、泥棒がオイラに逆らうのか? なら、先に君を倒してからネージュを捕まえることにするぞ!!」




 イタッチは折り紙を折り、剣を作り出す。剣と盾を構えて、戦闘体制になった。




「フクロウ。お前の仇、とっといてやるぜ」




 イタッチとスノーマンは向かい合う。最初に動いたのはスノーマンだ。大きく息を吸い込み、腹を膨らませる。風船のように腹が膨らんでいき、身体の倍のサイズになったところで、スノーマンは口を尖らせる。




「ユキユキ砲!!」




 口から雪玉を発射して、イタッチを攻撃する。イタッチは雪玉を盾で防ぐが、飛んでくる雪玉は通常の雪玉とは違う。




「盾が、凍っていく!?」




 イタッチは盾を放り捨てて、雪玉を避けながら空中へと飛び上がる。その姿を見ていたスノーマンは狙いを変える。

 空中に逃げたイタッチを狙って、またしても雪玉を吐き出し始めた。




「空中じゃ避けられないぞ! ぺぺぺぺぺ!!」




 雪玉が飛んでくる中。イタッチは折り紙を折った。作ったのは炎だ。




「雪は火に弱い!」




 イタッチは飛んでくる雪玉に向けて、折り紙で作った火を投げつける。

 折り紙の火は最初はただの折り紙であったが、投げて雪玉に近づくと同時に本物の火へと姿を変えて空中で火の塊となって雪玉を溶かした。




 イタッチが地面に着地すると、炎は消える。スノーマンは雪玉を全て使い切ったのか、身体が元のサイズに戻っていた。




「雪玉を全て吐き出したみたいだな」




 イタッチは残った剣を両手で持って構える。スノーマンは弾切れで攻撃できなくなり、両手を鳥のようにパタパタとさせて焦り出した。




「ま、まだだ! こうなったら押し潰してやる!!」




 スノーマンは巨体を活用し、イタッチを潰そうと転がり始める。丸い雪玉へと形を変え、イタッチに向かってくるが、イタッチは冷静に呼吸を整えると、




「っ!?」




 剣で雪だるまを真っ二つに切断した。




「お、おれのからだがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」




「そこで溶けてな、雪だるまさん」











 イタッチがスノーマンと戦闘をする中、ダッチとネージュは雪の中を走っていた。




「どこまで走るの?」




 ダッチに手を引かれるネージュは走りながら尋ねる。ダッチは鼻水を垂らしながら、




「この先に車を止めてある。そこまでだ!!」




 角を曲がり、車が見えてホッとしたのも束の間。車の影に何者かがいるのにダッチは気づいた。




「危ねぇ!」




 ダッチはネージュの上に覆い被さるように倒れる。そうしてネージュのことを守った。




「ラビオンの偽物、何を……って肩から…………」




「これくらい問題ねぇよ」




 ダッチは凍りついた肩を握りながら、立ち上がる。そして車の影を睨みつけた。




「何者だ、テメェ」




 ダッチが睨むと、車の影から人が出てくる。それは二足歩行する白い熊。その姿を見たネージュは熊の顔を見て名前を叫ぶ。




「ポーラ!!」




「知りたいか?」




「アイスキングの配下です」




「ってことは敵か」




 ダッチは凍った肩を庇いながら、片手で刀を抜く。そしてポーラと戦闘の姿勢をとる。




「ほぉ、アンタ、凍ってるのにやる気ねぇ。いいやん、なら。もっと氷漬けにしてやるよ!」




 ポーラは両手を広げる。すると、ポーラの周りに氷の結晶が集まり、氷柱が生成された。




「さぁ、いっきなさーい!」




 ポーラが合図を出すと、氷柱はダッチに向かって飛んでくる。尖った氷柱が向かってきて、ダッチは刀を振り回しながら、氷柱を砕き受け止めた。

 しかし、片腕の自由が効かないダッチでは全ての攻撃を切り落とすことはできなかった。何発が身体で氷柱を受ける。




「くっ……なんだこいつは」




 さらに氷柱は刺さるだけではなく、刺さった場所を中心に氷が侵食する。

 先ほど肩を凍らせたのは、この氷柱だったということだ。




「……耐えるねぇ、ウサギさん」




 ポーラは作り出した氷柱を全て飛ばし終えた。身体が冷え切り、手を地面に着くダッチのことを遠くから見守る。




「さぁ、ネージュちゃん。ボディガードは役に立たなくなったよ〜。私があなたをアイスキング様の元へ連れて行ってあげる」




「……」




 ネージュは倒れるダッチを心配する。このままでは身体が冷え切ってしまう。




「わかっ……」




「ダメだぜ。ネージュ」




 ネージュが付いていくと言おうとした時。ダッチが立ち上がり、ネージュの言葉を遮った。




「ダッチ……さん。大丈夫なの?」




 ダッチはフラフラになりながらも、刀を杖代わりにして立ち上がる。




「これで無事に見えるかよ……。だがよ、女に助けられて、寝てられるかよ!!」




「アンタ……」




 ダッチはネージュの前に立ち、守るように刀を構えた。




「俺は怪盗!! イタッチの相棒だぜ、相棒の狙ったお宝を横取りされるわけにゃいかんのよ!!」





 ダッチは刀を横に構える。その姿を見て、ポーラは警戒する。




「あらあら、ウサギさん、無理はいけないよ〜」




「無理してなんぼだ、ネージュ、耳塞げ!!」




 ダッチは刀を小刻みに揺らし始める。ネージュはダッチに言われた通り、両手で耳を塞いだ。




「な、何をする……ギィやァァァァァ、何この音はぁァァァ!?」




 ダッチの刀が揺れることで、特殊な音波が発生し、それを耳にしたポーラは苦しみ出す。

 身体の自由が効かなくなり、ポーラは両手を地面に突き倒れる。




「こ、このままじゃ、やられるわ……」




 ポーラは最後の力を振り絞り、身体を雪に変化させる。そして蛇のように地面に伝いながら、どこか遠くへと逃げていった。




 逃げていくポーラを確認し、ダッチは刀を振るのを止める。そしてニヤリと笑い、雪の中へと身体を倒した。




「ダッチさん!!」




 ネージュがダッチに駆け寄る。




「ダッチさん、ダッチさん!!」






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