第4話  住宅の内見。

 20年くらい前、僕は名古屋の広告代理店で働いていた。或る日、某住宅メーカーの部長と商談をした。


「崔さんなら、どんな広告を作ってくれるんですか?」


 来た! 腕試しのチャンス、別名挑発。


「ご期待を裏切らないつもりですが」

「見てみたいですね、試しに作ってもらえますか?」

「はい、お望みでしたら」

「私は広告作りに手を貸しませんが、それでも作れるんですか?」

「はい、お望みでしたら」

「では、次回はその広告を見ながら話しましょうか?」

「はい、それで構いません」

「広告が出来たら、連絡ください」

「わかりました」



 その週の土曜日、僕は休日を返上してその住宅メーカーの展示場へ行った。

 住宅メーカーの営業さんがスグに相手をしてくれる。


「いらっしゃいませ」

「すみません、住宅の外観を写真に撮ってもいいですか?」

「はい、幾らでもどうぞ」

「ありがとうございます」


 僕は外観写真を撮りまくった。


「次は内見させてもらってもいいですか?」

「ええ、どうぞお入りください」

「すみません、内観も写真に撮っていいですか?」

「ええ、どうぞ」


 僕は、部屋、ダイニング、リビング、風呂、トイレなど一通り写真を撮りまくった。担当の営業さんが驚くくらい撮った。


「僕、広告代理店の営業をやってるんですよ」

「そうですか」


「住宅の営業って、イメージが湧かないんですけど、どんな感じですか?」

「ノルマって、年間何件くらいですか?」

「そのノルマって、普通にクリア出来るんですか? キツくないですか?」

「住宅営業のやりがいってなんですか?」

「逆に、住宅営業でツライことってなんですか?」

「印象に残るエピソードってありますか?」

「他社には無い、御社の良さってどこですか?」

「営業さんの笑顔も写真に撮って良いですか?」


 写真を撮りながら、営業さんを質問攻めにしたら、営業さんが笑い出した。


「今日は営業の一環として来てますよね?」

「はい、バレました? まあ、隠すつもりも無かったんですけど」

「広告の営業ですか?」

「はい、今回は求人広告なんです」

「今日は土曜日ですよ、休みじゃないんですか?」

「休みですけど、いいんです、休日に仕事をするのは慣れていますから」

「いやー! なかなか熱い営業をなさっていますね」

「そうですか? 自分ではこれが普通だと思っているんですけど」

「私も熱い営業は大好きなんですよ。協力します」

「ありがとうございます、是非お願いします!」


 部長からは、“自分は協力しない”と言っていたが、他のスタッフに協力してもらったらダメとは言われていない。


「私は、何をすればいいですか?」

「インタビューさせてください。実際に働いている方の生の声が聞きたいんです」

「それじゃあ、座りましょうか。お茶でも飲みながら話しましょう」

「後で、笑顔の写真も撮らせてくださいね」

「構いませんよ」

「ありがとうございます!」


 熱い営業マン同士、理解し合うことが出来たのだ。火と火が合わさり炎となった。きっと、僕達はものすごい化学反応を起こしただろう。



 月曜、僕はクリエーターさんに広告のデザインを指示した。文章は全部僕が書いた。広告の原稿が出来たら、スグに部長に連絡した。翌日のアポを取った。


即決!


 僕は、申込み書をもらうことが出来た。結構、いい金額の商談になった。


「崔さんには負けましたよ」



 そういう部長は、笑顔だった。







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