第13話 死にゆく森
昼ごろ、彼らは少し開けた場所へと出た。
少し
「ここは<
案内役のマルフォイは、小走りに広場の中央へと向かった。
フィラーゲンとコノルは、マルフォイの後を追ったが、しばらくすると足下の草花は次第に減り、枯れ草や腰ぐらいの高さで折れた枯れ木が目立つようになってきた。
少しさきでは、マルフォイが両膝に両手をついてうなだれていた。
彼女の目の前にあるのは、黒々と
「どうした?」
フィラーゲンがマルフォイの背に言葉を投げかける。
「黒い沼から
「ここには草花があふれ、森の動物たちも水を求めてやってきていた。それがこのありさまだ」
そしてフィラーゲンをコノルを振り返り、確信したように言った。
「森が弱るわけだ……森の水が、死んでいる」
それから三人は、かつて
次第に、
木々の間から青空を垣間見ることも増えたが、青空に向かってそそり立つのは
森の中央に近づくにつれ、はじめはまばらだった枯れ木が、明らかに増えていった。
もはやマルフォイもキノコを探すことはなかった。かろうじて樹冠を維持している木も、
明らかに、森は死につつあった。
そして、太陽が西に傾きその色合いがオレンジに染まり始めたころ、彼らは森の中央にあるとされる“黒い沼”へとたどり着いた。
そこは、異様な風景であった。
黒い沼は、ぶくぶくと不気味な泡を放ち、その周囲には、見渡す限り立ち枯れの木が並んでいた。見晴らしは良いが、気分は良くなかった。
「ここは、木々の墓場だ」
フィラーゲンは思わず、そうつぶやいた。
「これからどうするの?」
コノルが不安そうに聞いた。
「ここで、ロスロナスを待つ。奴はヴァンパイアだ、夜にならなければ出てこないだろう」
その言葉を聞いて、コノルは身を縮こまらせた。死者たちの世界に住まう化け物と戦うために、夜を待つ。それは、あまりいいことのように思えなかった。
少年の不安を感じ取り、フィラーゲンが頭をぽんと叩く。
「心配するな、楽勝だよ」
いつも通りの
だが、敵はロスロナスだけではない。取り逃がしたカイ・エモも行方が知れず、さきに森へ入ったドルイド長レビックの動向も不明だ。
不安は山積みだった。
案内の役割を終えたマルフォイも、これから待ち受ける未来を大きな心で待ち構えることはできず、不安げにフィラーゲンに問うた。
「あんたは、サントエルマの森では何番目に強いんだい?」
「何番目?」
フィラーゲンは顎に手を当て、しばらく考え込んだ。
「まあ、今のところ二番目か、三番目かな」
そう言ってから、西日が作る自らの影を振り返りながら面白そうに笑った。
サントエルマの森には、魔法使いたちのなかでも選りすぐりのものしかいないことを、マルフォイは知っている。その中でも最高位に近い力の持ち主であることが本当であるとするならば、多少は現状を楽観視することができるのかも知れない。
それでもまだそわそわと落ち着かない気分のマルフォイは、何か話を続けたくて、言葉を継いだ。
「日が暮れるのを待つあいだ、ロスロナスという奴のことを教えてくれないか?」
◆◆◆◆◆
<主な登場人物>
クレイ・フィラーゲン 人間離れした竜のような風貌の男。サントエルマの森の魔法使いと名乗っている。
コノル 村を襲撃され、姉を連れ去れれた少年。襲撃者を目撃した者。ドルイド見習い。
ドルヴ・レビック <黒い森>を管理する七人のドルイドの長。厳めしい表情そのままの、厳格で頑固な性格をしている。樹木のドルイドの異名を持つ。<黒い森>の探索に、ひとり向かった。
カイ・エモ 第二階位のドルイド。亜麻色の髪を持つ若い青年。蝶のドルイドの異名を持つ。ロスロナスに心酔し、人間としての道を捨てた。
アビー・カーディン 第三階位のドルイド。レビックと同年代の古参。コノルの祖父。苔のドルイドの異名を持つ。
ニカ・マルフォイ 第五階位のドルイド。唯一の女性ドルイド。独特の上目づかいが特徴。キノコのドルイドの異名を持つ。若いころ、魔法使いに憧れていたこともあり、ドルイドたちの中では最も魔法に詳しい。フィラーゲン、コノルとともに<黒い森>へ入る。
ヴァンパイア・ロード ヴァンパイアたちの主。人間のころの名をロスロナスという。フィラーゲンの知己。
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