第5話:決着がつきそうでつかない?
「グルルル……」
怒りが滲んだ声で威嚇する
きっと、オレたちのことは中々死なない虫程度にしか思っていないのだろう。だからこそ、逃げ回り、回避され、あまつさえ反撃してくる虫にはとてつもなく苛立っているはずだ。
怒りは正しさを狂わせる。これもまた、オレたちに有利と言えるのだ。
「アルマ、あいつの口元に炎が集まってるぞ!」
「あれはブレスよ! 私の氷で防ぐからヴェインは後ろに下がって!」
「分かった!」
彼女の氷は絶対零度。きっと
「グルアアアア!」
口腔に溜まった灼熱の炎が吐き出されるのと、アルマが〈フロストウォール〉――氷の壁を作り出すのは同時だった。
そして、氷と炎がぶつかり合う。
アルマの放つ冷気と、
……オレは何を考えているんだ。これはついに頭がおかしくなったかもしれないな。
「やばいっ、もうそろそろキツい……かもっ……!」
「頼む! アルマが諦めたらオレまで死んじゃうから!」
「そうだけど!!」
まさに土壇場。死ぬか生き残るかが決まる運命の瞬間。
それは、意外と早く決することになる。
「グルルゥ……」
不満げに喉を鳴らす
そう、ブレスが止まったのだ。
限界だったのか、オレたちが死んだと思って止めたのか。それは知る由もないが、ともかくオレたちは生き残ることができた。生存だ。勝利ではないが、敗北でもない。
「うおお! よく頑張ったなアルマ!」
「うん……! ほ、本当に疲れたよ……! もう魔力が枯渇しかけててやばいよぉ……」
「それ、やばくない?」
「やばいよ!」
心なしか疲労の色が顔に浮かんでいる。放っておけば倒れてしまいそうだと直感で理解できるほどだ。
[さすが愛しのアルマちゃん! ブレスを受けきるだなんてとんでもない所業だよ!! ぜひともうちのギルドに!]
[おいバカ。コメントでのギルドへの勧誘はご法度だ。気をつけろ]
[アルマさん大丈夫かな……すごく疲れた顔してる……]
あくまで魔力を――気力も一緒に――使っただけなので戦闘は続行できるだろうが、精神的な疲れはどうしようもない。おそらくあと三十分くらいが限界か。それ以降はアルマが倒れる。それはつまり死と同義。
「アルマ。早く決着をつけよう。まだいけるか?」
「もちろん。ヴェインに格好悪いとこ見せたくないからね!」
「グルルルル!!!」
「嘘っ!?」
いざ駈け出そうとした刹那、再び視界に映る
そのとき、オレは視界の端で何かが動いているのを捉えた。
「アルマ! 横ッ!」
「えっ――!」
太く固い尻尾がアルマを直撃したことで、彼女の驚く声が一瞬にして遠のく。
しかし、それを見ていられたのも束の間。
オレの正面には、障害物を失ったことで一直線に伸びる炎の波が押し寄せてきていた。
「あっ――」
「ヴェイン――!?」
その光景にオレの心臓は、血液は、心は凍てついた。時が止まって動かなくなったようだった。
そう認識した途端に流れる走馬灯。今までの人生が早送りで思い返されていく。
だが、そこに幸せだと思えた時間は少なかった。一つ分かるのは、アルマといるときは間違いなく幸せだったということ。
――結局、オレは負け続ける人生だったのか。そういう運命だったのか。
そんな虚しい感情を最後に、オレは死んだ……そのはずだった。
「ギャアアアアオ!」
まるで
「ヴェイン……ごめんね……守ってあげられなくて……約束したのに」
声のする方を見ると、この世の全てに絶望したような表情のアルマがうずくまっていた。耳をすませば、かすかに泣いている音がする。
「泣かないでくれよ……アルマに涙なんか似合わないさ」
「ヴェイン!?」
「グルルァ!?」
揃いも揃って驚かないでくれよ。オレだってすっごくびっくりしてるのに。
「ギャアアア!」
「危ない!」
錯乱した様子の
今度こそ死ぬ、そう思ってただ自らが切り裂かれるのをただ見ていた。
しかし、またしても信じられない光景を目にする。
「ギャアアアア!?」
オレに爪が当たる瞬間、
一方、オレの傷は見る見るうちに再生し、切り裂かれた服すらも元通りになった。まるで攻撃があべこべになったようだ。
「いったい、何が起こって……」
呆然とつぶやき、傍観しているアルマ。
……アルマさんや。オレが切り裂かれて燃やされて嚙み千切られてを繰り返す光景を見てよくそんな冷静でいられますね。
その度に
多分、ブレスだけ何も食らっていないのは炎に対する完全耐性があるからなのだろう。ただし他の攻撃は通じるから反射している……といったところか。オレが再生しているあたり反射という言葉を使うべきかも怪しいが。
「ク、クゥ~ン……」
突如、犬の鳴き声が聞こえた。こんな戦場に犬がいるのかと思ってキョロキョロ見回してみるが、どこにもいない。
「ヴェイン……多分だけどさ、そこの……」
その顔からは絶望が消え去ったが、その代わりに困惑で塗りつぶされていた。そんなアルマが指さす方向には、平身低頭して怯える
「なるほど。お前はイヌ科だったんだな」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! ……ねぇ、これどうするのよ」
「た、確かに……」
犬のように怯える龍。かつてそんなものを見たことがある人間がいるだろうか。オレは自信をもって断言しよう。絶対にいない。
どうしようかと考えていると、突然
「うわっ、眩しい!」
あまりの明るさに目をつぶる。
数秒後、そこには真っ赤な髪色の少女がぺたんと座り込んでいた。唯一おかしなところと言えば、額から赤く鋭い角が伸びていることだろうか。
思わず唖然とするオレたち。
そして放たれた一言目。
「お、お願いじゃ! もう許してくれ! あと助けてほしいんじゃあ!」
「「……は?」」
「わ、妾は脅されていただけなんじゃ! とっても悪くて強い奴らに!」
「「は、はぁ……」
「じゃから頼む! 妾を救えるのはそこの黒髪! お主しかおらぬのじゃ!」
「「はぁ!?」」
よくもまぁこんなにも綺麗に揃ったな、と内心思った。オレたちのコンビネーションがこんなところで発揮されるとはね。
その後、疲れていたオレたちは事情聴取もほどほどに、多分仲間になったであろう少女を――アルマが――背負って、無事帰還することができた。
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