第3話:ダンジョン攻略は意外と楽?
「着いたわ! D級ダンジョン『真夏の奔流』に!」
ここはアルマの言った通り、ダンジョン――正確にはその前だ。
辺りは厳重な管理がなされており、もし魔物が出てきてしまっても牢獄として機能を果たすだろうと思えるくらいには堅牢な場所。
「アルマ、どうしてここを選んだんだ?」
そう問いかけるオレとアルマの腰には剣があった。二人ともこれが得物なのだ。アルマのは髪に似た色の宝石や装飾が施されている。つまりは特製というわけだ。
あ、もちろんオレは何の変哲もない剣です。なんだかお貧しい。
「だって、まだ探索者カードを発行してないヴェインが入れるダンジョンといえばD級だし。近くて私のスキルと相性がいいのはここだけだったし」
「そっか、そうだったね……周りの人はB級とかA級ばっかりで忘れてたよ」
「じゃあ行きましょう! あ、カメラドローンのセットよろしく」
「りょーかい」
ダンジョンに入る資格を持つ者を探索者と呼ぶ。
探索者は国の法律によって、その状況をカメラを使って録画しなければならないのだ。かつてはギルド内で作戦を練るだけだったが、とある集団がUMediaというサイトを設立したことでそれは変わる。
リアルタイムでダンジョン攻略を配信し、投げ銭をもらって収入とする――ダンジョン配信者の誕生だ。
アルマは既にチャンネルを持っており、その可愛さと強さからある程度の人気を博している。といっても、全体で見ればまだまだ下の方だ。
今回はアルマがメインではないので、作ったまま放置されていたオレのアカウントで配信をする。ま、「せっかくだしやっとくか」くらいの気持ちだけどね。
ちなみに、オレたちの名前はチャンネル名と同じだ。
本名を晒すのはプライバシー的によろしくない、ということでアルマやヴェインといった第二の名で呼び合っているのだ。これはもはや一般常識と化している。
「よし、準備完了。行くぞ!」
「おー!」
電波の接続も確認し、足早に、しかし警戒しつつダンジョンを進んでいく。
――ダンジョンと聞いて、どういった見た目を思い浮かべるか。
ひと昔前であれば石で出来た、言い換えるならば遺跡を思いつく人が多かった。しかしリアルは違った。
「いやぁ……それにしても暑いな。何度くらいなんだろ」
「えっと、だいたい35度だった気がするわね。気温によるダメージが大きいからか、その代わりに敵は弱いのよ。何回か来たことがあるけど、私に倒せない敵はいなかったわ」
「なるほど。それこそ初心者にうってつけなわけだ」
ダンジョンの中は、荒野という言葉が似合う世界だった。
地面に転がる石の数は少ないが、ところどころにある。
遠くの方はメサに囲まれている。登れてしまいそうだが、おそらくどこかに見えない壁があったりするのだろう。
そして何より、見上げれば青々とした雲一つない空と燦々と降り注ぐ太陽があった。ここは地下なはずなのに、だ。
オレも気になるが、それは学者の専門分野なので気にせず、探索に集中する。
「ねぇ見て。魔物よ」
ふと聞こえたアルマの声。彼女が指差す方向を見ると、そこにはただの――ツノが剣のような形なことを除けば――鹿がいた。
「あれは
「背後は任せて。ヴェイン、今までの訓練の成果を今見せてみなさい!」
「もちろんッ!」
剣を抜き、中段に構えてジリジリと詰め寄っていく。
少しすると剣鹿も気づいたのだろう、オレの方をじっと見て様子をうかがっているようだ。
そして彼我の距離が数メートルになると、剣鹿が痺れを切らしたのか。頭を低くしてツノが当たる姿勢で突進してきた。
それをオレはじっと待つ。直撃すれば胴体が半分になるが、それでもじっと待つ。
「「――今!」」
奇しくもオレとアルマの声が重なった刹那。オレは剣を剣鹿の頭に突き刺していた。ツノは目の前にあり、あと一秒でも遅れていたら重傷を負っていたことは間違いない。
[初見です。今の技術すごいですね!今のうちにチャンネル登録と身内に拡散しときます]
「ふぅ……上手くできて良かった」
「さすがヴェインね! 訓練の賜物だわ!」
オレはスキルがハズレだった。しかし、今まで培ってきた技術は裏切らない。
剣鹿は荒野系のダンジョンにはよくいる魔物かつ危険で初心者殺しのため、みっちりと模擬訓練をしていた。それが役立った。
「素材は……今はいいわね。先へ進みましょ」
「そうだな」
剣鹿の死体はそのままにすることにした。
わざわざ解体して素材を剥ぐ必要はない。放置しておけば、他の魔物が食べるか、ダンジョンが吸収するかでどうせ処理されるしな。
そして歩くこと十数分。やっと二匹目の魔物と遭遇した。
「あれは
「よしアルマ、行ってこい!」
「こんなC級の魔物くらい、一瞬で片付けられるってことを見せてあげる!」
目の前には――まるで火が空中に浮いているようだ――
これだけだと一見無害そうだが、実際のところはかなり凶悪だ。
例えるならそう――爆弾を持った幼児のような。
「――♪」
愉快な鳴き声とともに放たれた無数の炎。一つにつき5センチほどあるそれは、真っすぐにアルマの方へと飛んできた。
「〈フロストシールド〉!」
それを氷の壁で防ぐアルマ。
壁はある程度の大きさがあり、放たれた炎はすべて防ぐことができていた。
これこそがスキルの効果。自分のスキルに対応した属性の魔法を自由に扱うことができるのだ。アルマの場合は氷。
それ以外は使えないが、代わりにバラエティに富んでいる。
「――!」
自分の攻撃が当たらなかったことに怒りを覚えたのか、大きな炎を生成し始めた。それはどんどんと大きさを増し、目算で1メートル近くまで膨れ上がった。
「打たせるわけないでしょ!〈フロストソード〉!」
瞬間、手に持っていた剣が「凍った」。それだけでなく、辺りに冷気を撒き散らしている。
暑くて汗だくなオレにとってはありがたい冷房だが、炎そのものである
「――!!!」
このままでは死ぬ――そう理解したのだろう。膨れ上がった炎をアルマに向けて飛ばした。
勢いよく飛んでくるそれに対し、アルマは立ち向かっていった。
「はああああああ!」
炎とアルマが衝突する寸前、アルマの剣が掻き消えた。
そう思った直後、大きな炎は細切れにされて消滅した。
「――!?」
「油断したわね!」
いきなり炎が消えて戸惑っている
よく見るとこっちも細切れになっている。どうやらオレの目では追えない速度で切り伏せたようだ。
数秒後、命を失った
[すげええ! この花火野郎を一太刀で切るとかえぐすぎ! 一応C級なのに……]
[さすがアルマちゃん! やっぱり最強!]
[今のすごかったな……僕も拡散していいですか?]
[これは期待の新人現る、かな?]
ふと気になって配信画面を見てみると、コメントが何件も送信されていたことに気づいた。なんだか申し訳ない。
「アルマ! コメント来てる!」
「お、意外と早かったね。どれどれ……私のファンがいるじゃん! コメントありがとうございまーす! えーっと、『拡散してもいいですか』。全然おっけー! だよ! ヴェインもいいよね!?」
「当たり前です! どんどん投稿、拡散しちゃってください!」
アルマが慣れすぎていてとても心強い。オレはイエスマンでいいのも助かる。初心者にコメント捌きは無理があるしな。
「あ、見てよヴェイン! チャンネル登録してくれた人がいるよ!」
「マジか! ありがとうございますっ!」
これには喜びを隠せない。
昔登録してくれたアルマに続き登録者は二人目だ。なんだか感慨深いものがあるな。努力が少しだけ報われた気分。
「じゃあ、もっと進んでもっとかっこいいところ見せなくちゃね!」
「おう!」
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