第16話 オーデオと赤備え

▼ひみつのデータゾーン、ブラックカフェ▼にて


昼には営業していないはずのひみつのお店ブラックカフェにて、シックな店内雰囲気のカウンター席で約束の仰々しいモノ一式は緑髪のお客様に届けられた。


「おい、なんだこの赤一色は」


「赤備えですが」


「アカゾナエ…なんだそれは」


「忠義と表裏ある偉大な血統である真田ふれいちゃんの真田の甲冑ですよ。日本一ひのもといちつわものと称された真田信繁、かの有名な戦国武将、世間的には喉元に槍を突きつけられた徳川幕府を憚ってつけられた名前…真田幸村と呼ばれたら分かりますよね。真田といったら赤備えなんです。言ってもそのままなわけないですが、魔法ソード少女用にデザインを崩してアレンジしました、ほら後ろも可愛らしいですよね、真田の家紋である六文銭から〝ふれい〟にちなんで二つ丸を増やしてカラメルが乗っているように見えるでしょう。デザインが気に入らないなら後でゼンブ黒くしておきますが(男勝りにクールぶっててそんなことも知らない? なんか……その辺の女子みたいで笑える)」


右ではなくあえて左目に眼帯をしたマスターは真田の赤備えについてえらく詳細に語り、その血を継ぐ目の前のカッチューの説明をした。


「……フンっ、色はどうでもいい好きにしろ。肝心なのはコイツが使えるかどうかだ」


立ち上がった緑髪は赤備えの衣装を両手に取り、重さや生地の質、まりょくの伝導具合……それに謎のこだわりを見せている裏面……を確かめながら見た目は酷くなく合格、肝心のスペックはどうなのかを問うた。


「知りません。(あっ、この人たぶん何も分かってなさそう。カッコいい低音ボイスでかっこつけてますがこう見えて乙女ですこの人、えぇ、スイーツ)」


「なんだと?」


「カッチューの注文など長らく退いて受け付けてませんでしたがここまで積まれたのでお客様の注文通りに作りました。まりょくでの硬質化に幅をもたせ防御を高め、まりょく伝導率は度外視しカッチューが含有、受け入れられるまりょくキャパシティだけに重点を置いたので、その子次第です。(もっともこんなまりょく量を要するカッチューをまともに使えると思えないので一定ラインを超えられなければ普通のカッチューになるよう安心設計にはしている、私はDr.ほにゃらら様と違い人の心がありますから)」


「それでいい」


「はい。(それでいい……キリッ、役作りがすごい──乙女でスイーツなのに、なかみ)」


客と店主の間違いのない受け答えにできた間は数秒、せいぜい3秒。


ツラとツラを向かい合わせて飛んできた右のビンタは左頬に一瞬──


「──は?」



「そのふざけた眼帯を外せ、ダサいぞ伊達者のプリン屋」


「…えええぇ……(真田はしらなくて伊達者は知ってるっておかしいでしょあなた…てか痛すぎる……なんで、なんでビンタ痛っ──)」



注文した赤備えをかっぱらい、微笑んだ緑髪はゆっくりとした足取りで堂々と退店した。

視力の悪くない眼帯は左頬に走った電撃を抑えてその高いスーツ背を見送る。

カクテルグラスが散らばるカウンター席にはまたクシャついた千円札が一個置かれていた。




▼マリティー本部トレーニングゾーン110▼にて



「MS10まで上がれば……伝説に近づける…」


マリティーブランはこの日も受付でトレーニングゾーンを借り鍛錬に励んでいた。

まりょくコントロールを重点的に鍛える、

3つならべたミルクの空き瓶に遠隔からまりょくを充填し、ゆがみ霧散しようとするまりょくの適量を維持して空き瓶内にとどめる。

自ら編み出したオリジナルの鍛え方であった。



⬛︎⬜︎⬛︎まりょく量96%出撃要請!⬜︎⬛︎⬜︎




黄色と黒の警告ビジョンが目の前に突然現れた。もう何度も見た魔法ソード少女の本部からの出撃要請だ。


右耳に入った通信に耳を凝らした。


『鳥取県各データゾーンにてストロー出現活発。にちなんデータゾーン13に向かってストローを殲滅してください。なおMS5マリティーブランの内在まりょく量は現在96%、補給班をお呼びしますか?』


「必要ないわ、むしろこれぐらいが内と外のまりょくの呼吸ながれができて丁度いいものよ」


『な、なるほど。はは、魔法ソード少女のコンディション調整にはそれぞれのやり方があるといいますからね。失礼しました』


『それでえっと……今回、ドクターのおすすめ装備は、』


「この前のまるいヤツにして、まだやり残した部分がある」


『はい分かりましたドクターにはそのように伝えておきます』


マリティーブランは黒セーラーのカッチューを着込み、追加カッチューのガトリングサークルスイッチを装備し鳥取県のにちなんデータゾーン13へと向かった。





▼▼▼

▽▽▽





▼ひのデータゾーン10▼にて



赤いチャイナ服を着た金髪メガネは、ツルハシを勢いよくアスファルトに叩きつけた。


惜しみないまりょく量を用い魔法を行使し隆起したエメラルドの山は甲羅に籠り回転しながら突っ込んできた巨大亀の動きをひび割れる緑宝石の柱の数々で受け止めた。


さらにエメラルドの石柱に囲まれた中心に赤いルビーをひとつ転移させ──甲羅からひょこっとクビを伸ばし顔を出し事故現場を確認した亀頭を赤く爆破。


ツルハシは煌めく宝石のコンボで注文通りの下拵えを済ませた。


「【エメラルドマウンテン】【バーンルビー】────よっと…おいカタナ、ペネロペ、注文通りのチャンスだふざけずやっちまえ!」


「カタナ、イカしたのいるっぺ?」


「いらねぇッ、雑魚にくれてやるのはこれで十分だろ!」


マイクを手持つアイスグリーン色の髪をしたクールな女の子、ッペーネロッペーの問いかけにNO!と断り──


カタナはツルハシのアシストを信じ、まりょくを孕ませてあたためていた緑鞘から抜刀し、ギラつく己の青目が見抜き分析した仲間のまりょく残滓に突っ込んだ。



「亀頭から魂漏らせッ【ライトニングフレーバー】ー!!!」



焼けた亀頭の鼻先からぶっ刺した雷剣はバチバチと唸る、そして繋がったまりょく残滓を利用しぶち込んだ並々ならぬ魂の雷電とともに周囲をカラフルに大爆破。



亀型のストローはカタナの放った魂のイチゲキに耐えきれずあえなく爆散した。


爆散するより一足早くバックステップし離脱。

イカした金髪を乱しながら、安全を確認し納刀──最後に自慢の髪を戦闘の風を浴びながら整えた。


ツルハシ、カタナ、ッペーネロッペーの魔法ソード少女トリオは見事に最後の一匹を討ち▼ひのデータゾーン10▼を制圧した。


「お前らおい…全然雑魚じゃなかったぞ、なんでいきなり舐めプすんだよ。イチゲキで倒せたからいいものの…」


「んー、はたたかいのテンションじゃなかった。この戦場の空気…好かんなぁー」


スリット控えめのチャイナ服で近寄りツルハシは心配そうにカタナとッペーネロッペーのコンビに話しかけたはいいものの、返ってきたカタナの返事はふざけたものであった。


腕を組みながらうむうむと、カタナは目を閉じ偉そうにうなずいている。


「はぁまじか。お前やっぱこわいわ…なんでそんなバトルを愉悦に捉える武人みたいなラスボスみたいなヤツが女子で仲間にいるんだよ…」


「「ツッコミがながい」」


「声をそろえるな、たしかに長いけど…」


「「それでいい…」」


「なにがだよ…(武人か?)」


「「いぇーい、武人ピース」」


「むかつくな!」


「「…………」」


「おい…漫才じゃねぇ、ひとりで終われ!」


「ハイワタシオワル」「オワルッ…ペー」


カタナとッペーネロッペー、いつものおふざけコンビにツルハシは相手してやった──無駄な会話劇の終わりの言葉をくれてやり、

やっと疲れたため息をついた。



「はぁ、こんなんでいいのかよ魔法ソード少女」


「まぁ、うちら田舎そーど少女だからねぇ」

「んだんだそっぺー」


「言うほどオーデオもマリティーも変わらんだろ、東京ならまだしも」


「いやマリティンの兵庫は美人が多いらしい」

「今は鳥取のまったく知らないとこっぺ」


「本部が兵庫なのかはしらねぇが……たしかマリティーはえらいデカくて関西エリアをほとんど牛耳ってるんだよな、私たちオーデオは四国だから実質おなじようなものだろ、まぁお前らの言うように下請け感は否めないな。あと兵庫は美人が多いってのも幻想じゃねぇかな、まぁおもしろい子は多そうだな。世間的には博多美人のほうがきくが?」


「「さすがおおさか」」


「誰がだ!(なんで大阪が出てくる)」


「「……」」


「ってちがうぞ! 大阪ってほら…さ、さいこーー!」


「あこれ大して知らなそー」「うっす」


「なんで私が大阪のフォローをしないといけないんだよ……大阪も兵庫も変わらないって、大阪は大阪で最近開発がメキメキ進んで都会のポテンシャルがあるし兵庫はその後追いの仲良しだろ、要するにソースか出汁かそんなもんだろ」


「──なんて?」「──っぺ?」


「なんで私がボケたら難聴になんだよ……私にはボケる権利がないのか(たこ焼きと明石焼きの関係性だ、わかるだろ)」


「「うん、ない」」

(あれボケだったの? なまなましかったよな)

(らしいっぺ、ながいっぺ、こわいっぺぺー)


「よし、帰ったら辞表のじゅんびだ」


主に四国を管轄する魔法ソード少女組織オーデオに属するやかましくも愉快な三人衆は──

1人のツッコミ担当と、

1人のボケ&ツッコミの表裏担当と、

1人のサブボケ担当で成り立っている。


魔法ソード少女たちがかっちりとチカラを合わせることは珍しい、これもオーデオとマリティーの方針の違いなのだろう。


オーデオからの交換生であるMS5の魔法ソード少女たちは雑談もほどほどに本部との通信が復活するまで、鳥取県日野町データゾーンの観光&もろもろの後片付けの準備に入った。

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