それは進化か退化か
対戦相手は皆さん騎士なので、それぞれ得意な魔法剣を使う。
魔法が使えない私は剣のみで立ち向かう。
けど長剣なので、リーチの差と破壊力で大概が薙ぎ払えた。
複雑だけど、これもアルフレッド様が鍛えてくれたおかげでもある。
優しい人達の夢を折ってしまうのは心苦しいけど、こっちも人生が掛かってる。
せめて苦しまないでいいように、今回も一振りで場外へと押し出した。
「勝者、ロゼ・アルバート!」
そして審判の判定に、またもやどよめきが起きる。
「おい、さっきから何だあの女の子、本当に見習いか?」
「これで三試合連続でKO勝ちだぞ。 一体何者なんだよ……」
「まぁあの武器で戦うんだから分からなくもないが……当たらなくて良かった……」
出場者ですら困惑してるんだから、観客はもっとざわついてるんだろうな。
でも武闘祭のルールにはちゃんと則ってる。
ここでは相手が気絶するか、壇上から落ちてしまえば負けになる。
もちろん相手が降参すればそれまでだ。
出場した騎士達は三日間の休養を経て仕事に復帰しなきゃいけない。
だから怪我も最小限にしておきたい。
因みに黒の騎士昇格を狙うエメレンス様は、こちらも容赦なく部下達の夢を散らしていた。
意外と剣が得意らしく、相手の意欲や戦う姿勢を見極めながら打ち込んでいく。
そして大きな一振りで場外へ。
さすが部隊長、何とも鮮やかで見応えのある試合だった。
そう思うと私と当たった人は殆ど活躍出来ないままで終わるから不憫かも。
「おい、そこの女」
エメレンス様の試合を見ていたら、さっき私に『さっさと帰れ』と言っていた片眼に傷を持つ巨体の男が立っていた。
確か名前はオーウェンだったかな。
「お前、身体売って出場権得たわけじゃなかったんだな。 なかなかやるじゃねぇか」
「……ありがとうございます」
以前と比べてだいぶ食事もとれるようになったけど、まだまだ騎士と認識される様な体型じゃない。
だからここは聞き流しておこう。
するとオーウェン様は顎を撫でながら、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
「とは言っても次で終いだ。 降参するなら今のうちだぞ」
「何故です?」
「次の相手がこの俺だからだ。 このままだと本当に傷物になるぞ?」
「そうですか」
まるで血に飢えた獣の様に目がギラついてる。
さっきの試合ではどんどん疲弊していく相手にも容赦なく斬り掛かってた。
要注意人物には違いない。
不必要に関わらない方が身の為だ。
「ご忠告ありがとうございます。 では失礼いたします」
一礼してオーウェン様の横をすり抜けようとすると、オーウェン様はバン!と壁に手をつき私の行く手を阻んだ。
「俺は女を
「さもないと、何ですか?」
「え?」
「手をどけてください」
「!!」
向けられた敵意が尋常じゃないと察したらしい。
オーウェン様は直ぐ様飛び退き、私に道を譲った。
これまで私が当たった人達は試合終了後も笑って労ってくれる、優しい人ばかりだった。
だからそんな人達を私欲の為に傷つけるのは許せない。
次で当たるのなら、ここら辺で大人しくしてもらおう。
◇
三十分後、大きな歓声を浴びながら私とオーウェン様は壇上でそれぞれ剣を構えた。
「ではよろしくお願いします」
「よぉし、手加減しねぇからな!」
これで勝てば決勝戦。
既にエメレンス様が勝ち進んでるから、どちらがその対戦相手になるのかと観客も興奮状態だ。
開始の旗が下り、オーウェン様は自身に身体強化の魔法を掛けて鋭い斬撃を繰り出した。
さすが勝ち残るだけあって、筋は良いし一撃がすごく重い。
けど妙なのは、他の人達の様に魔法を使わない事だ。
常に物理攻撃だけで私に向かってくる。
一体何のつもりだろう。
その理由を知ろうと、私は剣戟を躱しながら彼の動向を伺った。
でもその数分後。
オーウェン様は私に一撃も入れることなく、ガクリと地面に膝をついた。
ゼェゼェと呼吸を荒げ、恨めしそうに私を睨みつける。
結局彼は身体強化の魔法のみで、他は一切使わなかった。
これまでの試合で魔力が残っていなかったとか?
それじゃ何故あんな啖呵を切ったのか。
私はオーウェン様に剣先を向けた。
「どうしますか? ここで降参するのも一つかと」
「なめるなよ……」
「え?」
「お前なんざ一捻りだ!!」
振り絞るように叫び、オーウェン様は胸ポケットから緑色の塊を取り出し口に入れた。
それが一体何なのか。
けど嫌な予感がする。
攻撃に備えて剣を構えた時だ。
「?!」
オーウェン様が視界から消えた。
違う。
さっきまでとは比べ物にならないほどの速度で、私の背後に回っていた。
ズドン!!
悍ましい殺気に気付いて咄嗟に横へ飛び退いた。
するとさっきまで私がいた場所が大きく陥没し、粉塵が巻き起こる。
壇上に大きな裂け目が幾つも入った。
こんなの、生身の人間の仕業じゃない。
嫌な汗が止まらない。
それでも砂塵の中、その姿を捉えようと必死に目を凝らす。
『マリョクヲヨコセェッッッ!!』
突然魔物じみた雄叫びが上がった。
耳を塞ぎつつその方に目を向けると、その光景に背筋が凍った。
異常なまでにボコボコと膨れ上がった腕。
毒々しい皮膚の色。
血色に染まった瞳。
両耳まで裂けた口。
狂気に支配された笑み。
そこにいたのはオーウェン様ではなく、異形な魔物だった。
『ウォォォッッ!!』
風船の様に肥大した拳を咄嗟に剣で受け止める。
物凄い圧力に押し潰されそうになりながらも必死に耐えていると、ミシミシ、とイヤな音がした。
次の瞬間、パキン、と剣が折れてしまった。
まずい!
急いで体勢を変えて躱すも、再び拳が猛スピードで迫りくる。
もう逃げ切れない。
ギュッと身を縮めたその時、頭上でキィン!と劈くような金属音がした。
もしかして今の、結界が張られた音?
そしてザシュ!と大きな斬撃音と共に魔物の咆哮が上がった。
「閣下!!」
粉塵の中、突如現れた閣下が魔物の右腕を切り落としたのだ。
「無事か?!」
「はい!!」
「剣はどうした?」
「それがさっき折れてしまって……」
「そうか……。 逃がしてやりたいところだが、アルが外部遮断の結界を張ったから暫くは外には出られない。 魔物を討つまで何としても逃げ切れ!」
「はい!!」
私達が対峙しているのは、もうオーウェン様じゃない。
片眼に傷を持つ人型の魔物は腕を無くしても、ギラギラと目を光らせ私達に襲いかかってくる。
可能なら生け捕りにして原因を突き止めたい。
でもそんな生半可な事をしてたら先にやられてしまう。
閣下もそれを察してか、口惜しそうに魔物から距離をとった時だ。
突然私達の足元に巨大な魔法陣がブワッと浮かび上がった。
「ロゼ!!」
危険を察して、閣下は咄嗟に私を抱えて魔法陣の外へと逃げた。
次の瞬間、地面から業火を纏った火柱が上がった。
魔法陣の中に取り残された魔物は、声も上げる間もなくみるみる内にその輪郭を失っていく。
そして真っ白な灰だけが残った。
「閣下……今のは……」
「俺じゃない。 ……俺達以外にも誰かいる」
徐々に粉塵が晴れ、その正体が見えてきた。
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