防人のウタ。~ゲームがお仕事~

@Sakamoto9

第1話 マンデーモーニング

「闇夜の世界を切り裂け、気高い鋭利な爪。それはNEKOの爪。ニャー!」珍妙なアップテンポのリズムに乗せたボカロがスマホから流れ始めた。


せめて朝はお気に入りの曲で目覚めたいと、推しVTuber、キャラメルさんの名曲「朝焼けの猫魂」をアラーム音としてセットしたが、既にこの曲が聞こえてくると憂鬱になるという、パブロフの犬的状態になってしまって、聞きたくない曲ナンバーワンになってしまっている気がする。いや、なんかゴメン、キャラメルさん。


月曜の朝って人生の中で最も憂鬱な瞬間なんじゃないか、と毎週思っているが、実際、毎週毎週どんどん憂鬱感が増している気がする。それでもオレの細胞の一つ一つから力を絞り出して起き上がった。 まぁ、リアルで友達も居ないが、学生の肩書を捨ててまで引篭もる程の勇気もないので、とりあえずルーチンとして学校には行っている。授業自体は、とりわけ面白いわけでもないけど、オレの興味とは関係なく、色んなことを体系的に教えてくれているので、それはそれで、知識としてありがたく受けているし、有名大学目指して偏差値上げてる訳でもないので、気楽に雑学として聞いている、という感じだろうか。


オレの通う高校は、どちらかというと進学校に分類されるレベルなので、基本的に生徒の自主性が尊重されていて、部活の強制や、大量の宿題類がない所もオレが学生を続けられている理由だと思う。もちろんオレが自主的に勉強する訳がないので、緩いルールの中で、留年しないギリギリ位の最低限の学生をやってるって感じかな。まぁ、要するに出席していれば良い、という感じだろうか。


ということで、どんなに憂鬱でも学校には行かなければならない。


そんな憂鬱な月曜朝、当然食欲もないので、学校の自席で外を見ながらゼリー飲料と決まっている。

棚からオレンジ味のゼリー飲料を取り出してカバンに入れようと通学用ナップサックのチャックを開けた。


え?? えぇ?


カバンの中にはゲームのコントロールパッドと、ゲーミングキーボードとマウスが入っていた。


なんでオレ、カバンにこんなの入れたんだろう?

いくら緩い学校でも、テキストとノートの代わりにコントローラー持って授業に出てたらダメっしょ。


昨日寝ぼけて入れたんだろうか?


今日の授業は、月曜だから確か、英語、古典、世界史だよな、せめてテキストは持ってかないと。


あれ? 机の上にはテキストが一冊も無い。いや、本棚にも、引き出しにもテキストが無い。


コンコンコン。

ドアがノックされ、母親が部屋のドアを開けた。


「おはよう、知樹。そろそろ時間じゃないの? どうしたの?」


「あぁ、母さん、おはよう。オレの学校のテキストが見つからないんだけど・・」


「学校のテキスト? なによそれ、何言ってるの、何のテキスト? ほらっ、もう出ないと遅刻するわよ。」


え? テキストが通じない? 母さんこそ何を言ってるんだ?


「いや、学校のテキストだよ。カバンの中にも入ってないんだ。」


カバンを開けて母親に見せた。


「智樹、大丈夫? ちゃんとコントローラー入ってるじゃない。寝ぼけてるの? 走れば目が覚めるから、駅まで走っていきなさい、ほら、弁当。はい、駅までダッシュ!」


母親の押しに負けた、というか、この状況で抵抗した所で無駄な労力をかけて更に気分を害するだけなので、学校ではテキスト無しを覚悟して、訳もわからぬままコントローラーとゼリー飲料と弁当の入ったカバンを抱えて駅へ向かって走り出した。


 教室の窓際の自席から、大きな入道雲ができた青空を見ながら朝食のゼリー飲料をチューチューする。ちょうど食べ終わったところで担任の山村先生が教室に入ってきてホームルームが始まった。


「あー。先月の全国高校対抗戦、結果が出たぞー。うちは全国で第6位だ、トップ5入りすら逃しちゃったぞー。そして、だ。ウチのクラスは校内最下位。イ、チ、バ、ン、シ、タ、だぞ、おいー。 ウチのクラスが足引っ張ってるってことだぞー、わかるよなー。」


教室内がざわめきと軽い溜息で溢れている。


でも、オレは何のことやら分かっていない。


全国高校対抗戦ってなんだ?模試か?オレは受けた記憶がないんだが・・。


「とにかく、しっかりやろうぜー、なー。学校だけじゃなくて、ちゃんと家でも遊んでないで、しっかりプレイするんだぞー。せめて学内平均以上にはなろうぜ、なあ。 さ、今日も張り切ってプレイだぞー。じゃ。」


山村先生は微妙なガッツポーズを決めると、教室を出て行った。


全国高校対抗戦?プレイ?なんのことだか更にクエスチョンマークが増えてしまった。


クラスの皆は納得している様だから、何のことか尋ねるのも気が引けたので、とりあえず何も考えず、聞き流すことにした。そうだ、考えるな、感じるんだ。そして信じろ、フォースの力を。

と言うか、そもそも友達が居ないので、尋ねる相手も居ないのだが。


 ガラガラガラ。

ドアが開き、英語の川崎先生が入って来た。


「聞いたぞ、お前たち、先月の全高対で学内最低だったんだって? マジやばいじゃんか。山村先生から、ビシッと指導してくれって言われちゃったよ。ってことで、今日からは1ランク難易度上げていこうと思う。いいなぁ、準備しろー。」


クラスメイト達がカバンからゲームコントローラーを取り出して手に取った。すると、各自の机の上に仮想モニターが表れた。

え?えええ?机の上に仮想モニター?なんだこれ?これ、英語の授業じゃないのか?? 

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