見知らぬ穴
今更気づいたことだったのだが、自宅の中に穴が開いていた。その部屋は和室で、穴が開いていたのは柱や物入の枠に使用されている木材だった。きれいな穴と言うには少し不完全で、虫食いのような穴だった。僕が意図的に開けてできたものでもなければ、そこに何かをぶつけた記憶もない。ただ、気づいてからずっとそれが目に入って不快になる。見たくもないのに、目に入ってしまいそのブツブツとした凹凸で気分を悪くしてしまう。
穴を気にしてから数日、僕はその穴に目をやりつつも特に何をするわけでもなく、いままで通り過ごすことにした。気づかなかった振りをし続けてから、妙な視線を感じ始めた。人でも、幽霊でもない不気味な視線。それに揺り動かされ、僕は夜中に目を覚ましてしまう。すると、例の支柱の穴からボロボロと黒い何かが這いよって来た。こちらに来る感覚、ごそごそという肌感を感じた気がする。逃げようと必死にもがくも、全く動けない。ここで僕は白昼夢で金縛りにあってると気づいた。
その瞬間、ガクッという体の強張りとともに目がパチッと開いた。今度は真ともに起き上がることができて、ホッとした。穴にも虫一匹いやしなかった。夢だったのだと安心した。けど、さすがに気持ちが悪くなってきたので僕はこの日、ホームセンターやら薬局から殺虫剤をもろもろ買っていろいろ振りまいてみた。それが功を奏したのかはわからないが、数日は蟲の夢はでなかった。
安心しきっていたころ、仕事帰りに自宅でゆっくりしていると違和感に気付いた。穴が増えていたのである。しかも今度は綺麗なまでの丸い穴が開いていた。不規則に、大きさにして約2~3cmくらいの大きさのものがぽつぽつとあった。
「最悪だ......」
僕はいわゆる集合体というか、穴がいくつもある光景が苦手だ。それが家の中でいつでも見れる状況と言うのが一番苦痛だ。仕方ない。ここは自分で何とかして埋めるしかない。そう思って僕は粘土やエポキシ樹脂で穴を塞いでいくことにした。
だが、次の日起きると穴は減るばかりか増えていたのだ。一体、誰が増やしているのか、なんで増えてるのか......。僕は頭を抱えてなんとかして穴を埋めていく。その最中、一つの穴からミミズのようなうねうねとしたものが穴から出てきた。
「うわぁあ!?」
出てきたその虫は、僕の指にうにゅうにゅとした体で這い上がってきた。流石の僕も慌ててその虫を振りほどこうと手をバタバタとさせた。しばらくして、手を止めると手に虫はついていなかった。どこかに逃げていったのだろうか......。
◇
これ以上は自分の手には負えないと思い、僕は大家さんに相談することにした。少し怒られたものの、同じアパートの空き部屋に引っ越すことになった。当然あの部屋は業者によって害虫駆除が行われたらしい。ただ噂によると、あの部屋には虫や小さな生き物がいた痕跡はなかったらしい......。
では、あの穴はなんだったんだろう。それに、僕が最後に見たあのミミズのようなものはなんだったんだろうか......。考えたくない。
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