#010 喫茶店
20代くらいの地味な見た目の男性と、少し愛嬌のある顔をした20代くらいの女性が、テーブル越しに口論を繰り広げていた。
男性「もう、これ以上は言いたくないんだけど...君、私の気持ちを全然理解しようとしないよね。」
女性「あなたこそ、ずっと私の話を聞いてこなかったでしょう!? いつもそうだわ。一方的に自分の言いたいことを言うだけで。」
男性「そうじゃないよ。私も君の気持ちは分かるつもりなんだけど...」
女性「分かるわけないでしょ!? あなたには私の気持ちが全然分からないんだから!」
店員は複雑な表情で、さりげなく様子を窺っている。店内の他の客も、気になっているようだ。
男性「でも、さっきも言ったじゃないか。お互いの立場を考えて、冷静に話し合おうよ。」
女性「冷静に?ウソつけ!あなたは私の気持ちを全然理解しようとしないんだから!」
男性「いや、そうじゃなくて...」
女性「黙って!あなたの弁解なんて聞きたくないわ!」
女性はついに怒鳴り声をあげ、男性の話を遮っては激しく反論していく。男性はしどろもどろになりながら必死に反応を返すが、女性の勢いに押し切られてしまっている。
周りの客も状況に戸惑いながらも、ついつい見入ってしまう。一方の店員は、お客様にご迷惑をおかけしているとばかりに困った表情を浮かべている。
女性「もう、あなたなんかに構っている場合じゃないわ!私、帰るわよ!」
男性「ちょっと待って!まだ話し合いたいことがあるんだけど...」
女性は立ち上がり、猛スピードで店の出口に向かって歩いていく。男性も必死に立ち上がってそれに追いつこうとするが、立ち上がる時に椅子を倒してしまい、店内に大きな音が響き渡った。
客たちは思わず身構える。店員も慌てて男性の側に駆け寄る。
店員「大丈夫ですか!? お客様、落ち着いて座ってください。」
男性「ごめんなさい...あの人を追いかけないといけないんだけど...」
店員「いえ、落ち着いてください。お二人の騒ぎで店内が大変なことになっています。他のお客様にもご迷惑をおかけしているので、ここではお静かにお過ごしください。」
男性「でも...」
店員「申し訳ございませんが、それ以上の騒ぎは控えていただきたいと思います。私から外に出て行った女性の方に声をかけさせていただきますので、ここでゆっくりお過ごしください。」
店員は男性をなだめつつ、女性の方に向かって出ていった。男性は、ふらふらとした足取りで再び椅子に座り込む。周りの客たちも、やや気まずげながら男性を見つめている。
男性(ため息)「はぁ...どうしよう。あの子、どこへ行ったんだろう...」
そこへ、店員が女性を引き連れて戻ってくる。女性はやや頬が赤く、恥ずかしそうな表情をしている。
店員「お客様方、大変申し訳ありませんでした。こちらの女性が外に出られた後、私から事情をお聞きしましたところ、お二人とも演技の練習をされていたそうです。」
女性「あ、は、はい...そうなんです。私達、演技の練習をしていたんです。ちょっと感情が入りすぎてしまって...ごめんなさい」
男性「すみません...早く言おうと思ったんですが」
客たちは一斉に「演技!?」と驚いた声をあげる。店員も呆れたように首を振る。
店員「こちら喫茶店ですので、演技は他の場所で練習をしていただけますと幸いです。店内でのパフォーマンスは、他のお客様にご迷惑になりますので。」
男性「あ、は、はい...すみません。」
女性「ごめんなさい...。他で続けさせていただきます。」
二人は申し訳なさそうに店を出ていった。店内の客たちは、しばらく呆然とした表情のままだった。最後に、一人の客が小さな声で呟いた。
客「...演技だったのか。ちょっと期待してたのに...」
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