第7話 ポスター完成!
俺は朝起きると、吉野より先に寮の食堂に向かった。
少しでも多くの人に声をかけたかったからだ。
「ねえねえ、君サッカー興味ない?」
俺は、とりあえず目に留まった子に声をかける。
「あ、えと、僕?」
「そうそう、君君」
「サッカー、ですか……」
「最近、サッカー部を復活させたんだ。良かったら、君にも入ってもらいたいなあって。あ、そうそう、俺の名前は長月結弦。2年生。君は?」
「日村、1年生です」
「下の名前は?」
「夏芽」
「どんな漢字?」
「季節の夏に植物の芽が出るの芽」
「へえ、面白い名前だな。で、夏芽はさ、サッカー興味ない?」
「えっと小学生の頃はサッカー部入ってましたけど、中学ではバスケ部で、高校は映画研究会なので……。すごくブランクが……」
「ブランクとか関係ないない。映画研究会との兼部も大歓迎!」
「考えてみますね」
「入りたいと思ったらサッカー部の部室に来てくれよ!」
「は、はい」
これは良い感じじゃないか?
早速、吉野にも報告だ!
「吉野~っ! 一人、好感触な子が見つかってさ、って、おっ、早速勧誘とは、精が出るな!」
「あっ、俺もこいつと同じサッカー部! で、どう? サッカー部入る?」
「お、おい、運動は苦手って言ってたし……」
「へえ、そうなんだ。でもさ、サッカーやって、その運動嫌い直るかもしれないぜ? 騙されたと思って入ってみないか?」
「え、でも、僕、本当にダメダメで。体育は2とかだし……」
「じゃあ、サッカー部入ってくれたら、体育を3にするって保証してやる。どうだ!」
「そ、そんな約束して……」
「もし、一年以内に成果が出なかったら、何かおごる!」
「アバウト過ぎるだろ! あっ、ゴメン、えっと、本当無理しなくていいから」
「か、考えておきます」
「おう! いい返事を期待してるぜ!」
「あ、話付き合ってくれて、有難う」
吉野も声かけ頑張ってるみたいで良いぞ!
放課後、俺と吉野が部室を訪れると、雪兎先輩がスタンバッていた。
「あ~っ、やっと来たぁ。もう、遅いよぉ。何やってたの?」
「何って、授業受けてたんですよ」
「え~、僕が待ってるんだから、授業くらいサボれよぉ」
「知るか! ……あ、すいません」
「え、別にいいって。さねちーみたいなツッコミは大歓迎」
吉野、ノリツッコミとかするんだな。
「でも、目上の人だし……」
「そこまで気にしなくてもいいって。フレンドリーに行こうよ、ねぇ、ゆづっち」
「あっ、はい! てゆーか、ゆづっちなんて初めてッスよ」
色んな人間やそれ以外とも出会ってきたが、ゆづっちは本当に初めてだった。
「へ~、そうなんだ。で、これから僕はゆづっちを推していこうと思ってるけど、どう?」
「面白そうだから、流行らせてみようかな。……なあ、吉野、試しに呼んでみて」
「嫌だよ。というか、流行らないと思うよ、雪兎先輩が考えた呼び方は」
「そんなことないよねぇ。転校生だし、クラスの皆も呼び方に困っている頃合いだと思うから、自分から宣伝してみておくれよ」
「はーい、やってみます!」
「マジでやるのかよ。お前は本当にそう呼ばれたいのかよ?」
「え? ゆづっち、良くね?」
「……まあ、お前がいいならいいけどさ」
「あれ? そういえば春ちゃんは?」
「ああ、職員会議で遅れるそうです」
「分かった~。で、今日の収穫は? 入ってくれそうな子見つかった?」
「俺の方は三人くらいかな、好感触だったのは」
「え、お前もう三人も見つかってんの?」
「おう。吉野は?」
「えっと……、一人」
「ま、吉野、人見知りだしね、明日から頑張れ」
「うう、面目ない」
「そうそう、声かけは俺に任しとけ!」
声かけは俺の得意分野だからな。役割分担♪
「で、これがポスターの完成版」
先輩が机の上に伏せていた紙をひっくり返し、ポスターの完成品を見ることが出来た。
熊がサッカーボールを蹴っている絵が、水彩タッチで描かれている。ゆるキャラにいそうな可愛らしい熊だ。背景も細かくデザインされている。
「おおっ、スッゲー! プロが描いたみてー」
「え、部活勧誘ポスターのクオリティじゃないですよ!」
「さあさあ、もっと褒めたまえ」
「スッゲー! よっ、ピカソ!」
「見直しましたよ、雪兎先輩。というか、先輩は農学部の人ですよね? 美術系に進んだ人じゃないですよね?」
「まあ、昔から絵を描くのは好きだったし。あ、そうそう、七年前も僕が部活勧誘のポスター描いたんだよ。いや、僕以外の人が皆、絵下手だったから。特に、さねちーは壊滅的。あっちはあっちでピカソみたいな絵だったよ。あと、りっくんの絵は中二病こじらせたみたいで却下だったし。いくら何でも炎とかは出ないでしょ、超次元じゃないんだからって」
「さねちー? りっくん?」
「ああ、昨日話したサッカー部の人達。社長の真葛さんがさねちーで、サッカー選手になった立夏さんがりっくん。雪兎先輩しか、そう呼んでないけどね」
「へえ、で、俺達の担任が春ちゃん先生かあ。確かに、ちゃんを付けたくなる気持ちも分かる」
「本人のいる前では言うなよ。意外と気にしてるんだから」
「分かった。それにしても、先輩スゴイですね! サッカーも上手くて、絵も上手い上に、ハンターだなんて! あっ、アラスカの話聞かせて下さいよー」
「ああ、あのホッキョクグマに襲われて九死に一生スペシャル。いやもうホント死ぬかと思ったね。肋骨折れたし」
「え、大丈夫なんすか⁉」
「大丈夫ではなかったね、当時は。ま、僕の驚異の治癒力でもう治ってるけど」
驚異の治癒力か、天使にスカウトしても良さそうな人材だな。
「そもそも何でアラスカ? スッゲー寒いのに」
「寒さには自信あったしね。世界の秘境とか見てみたいじゃん」
「確かに、俺も人生に一度は海外旅行とか行きたいと思いますけど。う~ん、行くとしてもハワイかな、日本語通じるらしいし」
「あ~、ハワイなら安心だね。大学の卒業旅行とかで行ってきたら?」
「楽しみだなっ、吉野!」
「何で一緒に行く流れになってんだよ」
「他に一緒に行ってくれそうな人いないでしょ、今の内に予約しときなって」
「な? 俺と一緒にハワイ行こうぜ」
「そんなのずっと先の話だろ。その場のノリで約束すんな」
「意外とあっという間だよ、学生時代なんて。ああ、もう戻らない青春ってやつ」
「だから、俺と一緒に青春しようぜ!」
「決めゼリフみたいに言うな」
「いやあ、ゆづっちはいいキャラしてるねぇ。今時、そんな爽やかな人、そうそういないよ」
「あざーす」
俺は天使やりながら大学進学もしようとしているので、今からハワイ旅行が楽しみだ。
まあ、その前に大学決めるところからなんだけど。ま、何とかなるだろ。
「おーい、入るぞー」
部室の扉が開いて、春ちゃん先生が入ってきた。どうやら職員会議は終わったらしい。
「あっ、春ちゃーん。遅かったじゃん」
「いや、いつもだいたいこのくらいだって。……で、今どんな状況?」
「あ、うん、吉野とゆづっちの新婚旅行がハワイって決まったところ~」
「は?」
「いえ、全然関係無い話ですから、サッカー部のこととは。あと、新婚じゃねえ」
「うーん、さすがに、男と結婚は出来ねえなあ」
俺が結婚したいと思った奴は死んじまったし。
「当たり前だろ」
「あ、あのさ、何でそんな話になってんの? ハワイ?」
「あれ、何でこんな話になったんだっけ?」
「確か、結弦がアラスカの話聞きたいってとこから始まって……」
「いつの間にやらこんなことに」
「ま、いつものことだよね」
「えっと、とにかく、サッカー部だ。で、部員の方はけっこう集まった?」
「う~ん、ぼちぼちってとこすかね。好感触なのが数人」
「そうか。まあ、本格的な声かけはポスターが出来てからということで……」
「あっ、出来てるよ、ポスター」
「おっ、相変わらず、スゴイな、雪兎は。デザインの才能あるよな」
「ですよねっ! スゴイっすよね!」
「この熊のキャラも懐かしいな。こいつ、ポスターには絶対いたもんな」
「ま、僕といえば、熊だしね! どう? ゆるキャラになれそう?」
「特許取る気かよ。北海道に熊のゆるキャラ、もういただろ」
「大丈夫。そこまでキャラ被ってないから。僕の熊の方が可愛いから」
「自信満々だな。あ、秋人に言ったら何か協力してくれそうだけど」
「金になりそうなものには目がないからねえ。宣伝費用とか、いくらかかるんだろ。デザイナーは僕だけど、最終的にさねちーに回るお金の方が多くなりそうに仕組まれそうだよ」
「う~ん、やりかねない」
「いやいや、フォローしてあげましょうよ」
「DVDの売り上げ総取りという前科持ちでっせ」
「金の亡者だぞ、アイツは」
「ひ、ヒドイ言われ様だな」
「こうやって、真葛さんのイメージは壊れていくんだぞ」
「じゃ、このポスターを職員室で印刷してくるか」
「んじゃ、僕は退散するとしますかね。後は頑張って」
「おう、お疲れ~」
「お疲れっした!」
「お疲れ様です」
雪兎先輩が去った後、部室の鍵を閉めて、三人で校舎を回り、ポスターを貼っていくことになった。一部の文化部の生徒だけが残っている校舎は昼間とは全く違う顔を見せていた。
「昔さあ、夜の校舎で肝試ししたことあるんだけどさ」
「な、何ですか、いきなり」
「お、学校の怪談ってやつっすね、気になる!」
「ああ、肝試ししたってだけで、特に何の怪奇現象も起きなかったんだけど」
「何だ、残念」
「肝試しなんて、勿論、発案者は雪兎なんだけど」
「でしょうね」
「あっ、夜の校舎に忍び込むなんてしちゃダメだぞ!」
「しませんよ」
「え~、しないの~?」
「だから、何でお前はする気でいたんだよ。しねえよ」
「ちぇ、つまんねーのー」
天使の任務で夜の校舎で幽霊退治したことあるけどね。
「まあ、やりたくなる気持ちも分かるし、俺も秋人も立夏も雪兎に乗せられて、実際に夜の校舎に忍び込んじゃってるから、あんまり言える立場じゃないんだけど」
「え、真葛さんも来たんですか?」
「うん。アイツ、意外とノリはいいんだよな。それでいて成績トップの優等生。ああ、しかもその時は生徒会長もしてたんだった」
「お~、ハイスペック~」
「で、確か俺らが三年の時の夏に決行して、花子さんも出なかったし人体模型も動かなかったし、特に何も無し、それに未だバレずにここまで来てる」
まあ、ざっと見た感じ、この学校に幽霊の類はいない。
「何で、それを俺らに話しちゃったんですか」
「さすがに、もう時効だし。何か思い出しちゃったからかな」
「青春の一ページとかいうやつっすねー」
「そう、そんな感じ!」
「じゃあ、無駄話はこのくらいにして、さっさとポスター貼りましょうか」
「「はーい」」
それで、ポスターは掲示板の空いている所と、昇降口付近に貼られた。
「部員、集まるといいな!」
「そうだな」
さあ、明日も声かけ頑張るぞ!
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