第3話 深夜の開きにくいエレベーターを開く方法

違う或る日。俺はまた、残業のため、深夜に帰宅した。アパートの敷地前では、翌日に回収されるゴミを出している中年男がいた。俺は、その中年男に適当に挨拶をして通り過ぎて、アパートの敷地に足を踏み入れる。歩いていると、エレベーターが目に入る。やはり1階に到着しており、扉は開いている。


俺がエレベーターに乗って4階を押した時、ゴミを出し終えた中年男は「すいません」と言いつつ駆け込んで来た。「何階ですか?」と中年男に聞くと、「5階をお願いします」という。俺は、5階を押して「閉める」ボタンを押す。エレベーターは、重い機械音とともに閉じて上昇。


すぐに4階に着いた。やはり開かない。俺は中年男に、「深夜のエレベーターってなかなか開かないですよね」と言いつつ、「開く」ボタンを連打。それでも開かない。中年男は「君、このアパートに来て日は浅いの?そう言う時はね、毅然と言うんだ」と言ってから、俺にではない誰かに向かってか「イタズラはやめろ!」と怒鳴った。


エレベーター内に中年男の声が反響する。大きな声に圧倒される俺は開くボタンを押すのを忘れていたが、反響が収まらない内に、エレベーターの扉は開いた。


「4階だよ」という中年男のことばに、俺ははっとして条件反射でエレベーターを降りた。「まあ気にしなさんな。今度は君も試すといいよ」エレベーターの中から中年男は一言述べてエレベーターを閉じた。そのまま上昇して、俺は静まった廊下に一人残された。


ふきっさらにのこの廊下に、一つの風が通り過ぎる。昨日と今日とで物理的な温度差は目立たないはずだが、俺の神経はいつもより冷たいと感じた。俺は思いめぐらせた。何で怒鳴ると開いた?イタズラって誰の?


疑問が湧いてくるが、先程の一連の流れからして、怪奇現象というものが合理的答えだと心身が身構えているようだった。

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