「カシマシくんとミッシェルガンちゃん」

◆SE『電車の音』


カシマシ「さよならを言いに来たんだ」

ミッシェルガン「……さよなら?」

カシマシ「僕、もう一人でも大丈夫だから」

ミッシェルガン「そっか」

カシマシ「…………」

ミッシェルガン「…………」

カシマシ「やっぱり言えない」

ミッシェルガン「…え?」

カシマシ「ミッシェルガンちゃん、言えないよ」

ミッシェルガン「カシマシ君…?」

カシマシ「……」

ミッシェルガン「言ってって」

カシマシ「……」

ミッシェルガン「言わなきゃ、終わんないじゃん」

カシマシ「さよなランドセル」

ミッシェルガン「……なにそれ」

カシマシ「さよなランドセル」

ミッシェルガン「(ビンタ)」


◆SE『汽笛の音』


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

保護者の皆さま、初めまして。

桑田先生が産休に入られたので、三年三組の担任を務めることになりました、宮元です。

私は三年三組を『誰もが主役の学級』そして『笑顔の絶えない学級』にしたいと思っています。

学芸会等のイベントも目白押しですが、みんなで力を合わせて頑張っていきますよ。

これから約半年間、よろしくお願いします」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン 

「はじめまして。安部ユウスケの母です。産休の引継ぎ等で、お忙しいとは思いますが、転校への対応など、何卒よろしくお願いします。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ 

「ユウスケには残り少ない日にちで学校生活を楽しんでもらうおうと考えています。

こちらこそ、よろしくお願いします。

宮本」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

今日は、みんなで『将来の夢』をテーマに紙粘土で工作をしました。

いよいよ今週は学芸会の役決めを行いたいと思います。

お楽しみに」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン 

「転校に関する書類を添付しておきました。確認の方、よろしくお願いします。もし先生のお時間が空いているのでしたらこちらからお伺いしましょうか。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ 

「ありがとうございます。

いえいえ、お母さんもお忙しいでしょうし、届けて貰うだけで大丈夫ですよ。お気持ちだけ受け取っておきます。

宮本」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

今日は、みんなでリコーダー練習。

先生は『宮元・十七の人格』の一つ、『オペラ座の片桐仁』を召喚。

課題曲をひとつクリアーしていくごとに先生特製『宮もっちゃんシール』を、みんなに配布します」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「ユウスケが『宮もっちゃんシール』を貰えないと家でずっと『ドナドナ』を練習しているのですが『あーるーはれたー♪ひーるーさがりー♪』の部分ばかりです。

たまに『かーわーいーいこうしー♪』のところへ行ったかと思えば、また『あーるーはれたー♪』

転校するまでにシールは貰えるのでしょうか。

心配です。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ

「ユウスケは『あーるーはれたー』の『あー↑』が『あー↓』になってしまいます『ひー↑』も『ひー↓』になるし『かー↑』も『かー↓』になります。

ですが、お母さん、大丈夫ですよ。私も合格するよう一生懸命指導します。

宮本」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

今日は、みんなで算数の授業。

先生は『宮元・十七の人格』の一つ、算数の達人『ヴィダルサンスーン』を召喚。

写真は、リュウスケやキキララにを教えてる場面だくくはちじゅういち」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン 

「担任が『ユウスケ』を『リュウスケ』と呼んでいたのは、どういった意味なのでしょうか。間違った名前をあえて呼んでいるのでしょうか。

あと、クラスメイトの『月島キララ』ちゃんを、キキララちゃんとも呼んでいましたが、キキララは株式会社サンリオでデザインされたグッズ用のキャラクターです。

それと、紙粘土の工作なのですが、転校するまでに完成するのでしょうか。

家へ持ってきて畳の部屋で汚れるくらい、こねくり回しております。

何を作ってるのか確認したところ、無数のダンゴ虫のように丸まった粘土が、そこにはありまして。

ユウスケは将来、無数のダンゴ虫のように丸まった玉になりたい、ということなのでしょうか。

学芸会含め色々と心配です。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ 

「リュウスケの件はフォローできません。

完全にこちら側のミスでした。

紙粘土の件は、ユウスケに直接『将来、無数の玉になりたいのか?』と聞いたところ『は?』と返ってきました。

安心してください、お母さん、ユウスケは、無数の玉にはなりたくありません。

引き続き完成するように取り組んでゆきます。

宮本」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

学芸会の主人公は安部ユウスケ君に決定しました。『宮元・十七の人……


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「宮元先生は正気なのでしょうか。

『安部ユウスケ君に決定しました』ではないですよね。

主人公と言うものは、一番忙しいポジションではないのですか。

直ぐにでも辞めさせてください。

(あと、『宮元・十七の人格』という一連のくだり、ずっと「うわあ」と思っていました。本当に引いてます)」

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ 

「お母さん、これには深い訳があります。

実はクラス内で、転校する事を知った子供たちによる『ユウスケを主役にするんだ運動』を巻き起こりました。

『ユウスケを主役にするんだ運動』を止める権利はどこにもありません。

大丈夫です。何より本人が一番乗り気ですし、ユウスケには負担が少なくなるように、こちらで調整します。

宮本」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「渡された台本を読んだのですが、半分以上のセリフがユウスケというのは、どういう事なのでしょうか?

負担、増えてますよね。

先生、パニックです。」


『連絡帳』 ・カシマシ 

「お母さん、落ち着いてください。

クラスのみんなはユウスケとの思い出を作りたいと本当に願っています。

セリフが増えたのも、クラスで『思い出を作るなら苦労を重ねた方が、きっと素晴らしい物が生まれるよ運動』が起こったからです。

ユウスケは本気です。」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「限界が訪れました。

宮元先生とは一度、会ってお話させてもらいます。

『思い出を作るなら苦労を重ねた方が、きっと素晴らしい物が生まれるよ運動』という気色の悪い単語を見た際に決心しました。

明日、放課後学校へ行かせてもらいます。」


『連絡帳』 ・カシマシ 

「面会の件、了解しました。

明日の放課後、お待ちしております。」


『日記』 ・ミッシェルガン

「○月×日。

カシマシ君と喧嘩した。

演劇大会の脚本選考で揉めたからだ。

カシマシ君が書いた『炸裂!ギャラクシー帝国の逆襲!』は当然却下だったのだが、私が書いた『死』と『別れ』をモチーフにした作品に対して、『ミッシェルガンちゃんは暗い』とか『ミッシェルガンちゃん、人生楽しい?』とか『つまらナイチンゲール!』とか言って来た。

アイツがなにもない平坦な道で足をぐねりますように。」


◆SE『電車の音』


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

速報!学芸会の『桃太郎』

主人公を代える事になりました。」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「先日はユウスケの件に対応して戴き感謝しております。ありがとうございました。宮元先生が採用試験に合格することを願っていますね。

あと、紙粘土の件ですが今、玉が100個くらいの数に増えています。

カシマシ君、対応の程よろしくお願いします。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ

「こちらこそ、わざわざありがとうございました。

ユウスケの事は心配しなくても大丈夫です。

あの子は、きちんと物事を見る力はあると思いますので。時折自分の世界に入ることも多いですが。

追伸:恥ずかしいので、その呼び方はやめてください。

宮本」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

『桃太郎』では女の子が主役になれない、という声が届いたので学芸会の出し物は『シンデレラ』に変更しました。」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「『勝間カズヨ』ちゃんのお母さんは『男とは性の化け物である。』の著書で有名な方です。大変だとは思いますが学芸会の為にも頑張ってください。

ユウスケの母」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

多数決で主役を決めたところ容姿に差別が生じるとの事で、『シンデレラ』役は女子全員にしました。」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「『月島キララ』ちゃんのお母さんは『山』『顔面岩石』『回転寿司で一万円分食う女』という、あだ名で有名な元レディーズだそうです。

勉強との両立も大変だとは思いますが宮元先生の活躍に期待しております。

ユウスケの母」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

『僕だってシンデレラをやりたい』という声が届いたので、『シンデレラ』役はクラス全員にしました。」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「『勝谷マサヒコ』君は宮元先生が好きだそうです。初恋だそうです。

本当に大丈夫でしょうか。

色々と頑張ってください。

ユウスケの母」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

男とか女とか、そんなのもうどうだって良いよね。

という訳でみんなには、『美輪明宏』を演じてもらいます」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「カシマシ君、本当に大丈夫ですか。

少し、引いております。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ 

「もうちょっと、なんだかわからなくなってきました。

予定では私が美輪明宏を演じます。

宮本」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン 

「小さな悲鳴が出ました。

しっかりなさってください。

カシマシ君は高校時代から、あまり器用な方ではないのですから、勉強も劇も、と色々抱え込まない方が良いと思われます。

先生が『ひとりひとりが主役の学級』という目標を掲げているのなら、いっそ全員が桃太郎や金太郎などといった別々の主役を演じる劇を作ってはどうですか。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ

「生徒に合った主役。

保護者からのクレームは和らげる事が出来るし、『ユウスケを主役にするんだ運動』も再開できます。

流石ですね。脚本を書く力、衰えていません。

是非、参考にさせてください。

宮本」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

みんなのやりたい役を元に脚本を書きました!イェーイ!

タイトルは『宇宙!~そう!それはかけがえのない宇宙!~』」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「今日、完成した脚本を観て仰天しました。

まず、タイトルが酷い。

なんでしょうか、『宇宙!~そう!それはかけがえのない宇宙!~』とは。

どういった内容なのか全く見えてきません。

『宇宙』の後にエクスクラメーションマーク。

『そう』の後にエクスクラメーションマーク。

もう一度『宇宙』の後にエクスクラメーションマーク。

宮元先生はエクスクラメーションマークが好きですね。

内容も酷いの一言です。

『ここは宇宙!限りなく広大な宇宙!宇宙森林が生い茂り、宇宙海が広がる!

近くの宇宙街角を抜けると宇宙商店街が見える!

しかし宇宙商店街は近年近くに出来た大型宇宙ショッピング宇宙イオン宇宙モールに宇宙売り上げを追い越され宇宙ピンチだ!』

なんでしょうか、宇宙ジャスコとは、なんでしょうか、宇宙ピンチとは。

宇宙、エクスクラメーション、宇宙、エクスクラメーション。

もうユウスケを参加させるのはやめます。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ

「エクスクラメーションマーク、男子には評判ですが。

宮本」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「宮元先生の思考は小学三年生男子の思考と同じなのですね。

内容に関してはまだあります。

『そこへ桃太郎が三人やってくる』

『しかし桃太郎を始末する為にヌンチャクを構えた美輪明宏が立ち塞がる』

この際、美輪明宏はいいです。

桃太郎が三人いるのは桃太郎を立候補してきた生徒が三人いたからで、同じ太郎でも、金太郎、浦島太郎、とっとこハム太郎は一人だけなので安心してください……とのことですが。

とっとこハム太郎が宇宙空間でヌンチャクを構えた美輪明宏と戦う脚本を、宮元先生は書ききる技量があるのでしょうか?

それからキャストの一覧を見て愕然としたのですが、

シンデレラが五人。

王子が三人。

HIKAKINが一人

星野源が三人。

あばれる君が十人。

(うち、四人があばれるちゃん)

アメリカ合衆国が一つ。

全員を主人公にするって、何をやらせても何人出しても良いって事ではないんですよ?

ハム太郎とHIKAKINとアメリカ合衆国の共演。

逆に見てみたいくらいです。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ

「三人の桃太郎に、五人のシンデレラ。そしてアメリカ合衆国。ワクワクしますよね?私も今からドキドキしています。役者は揃いました。あとは本番を迎えるだけです。

宮本」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「私は別の意味でドキドキしています。

大人になって少しはマシになったと思った私がバカでした。

思えば、あなたは暇さえあればヌンチャクを振り回していたし、ウンコの絵ばっかり書いてたし、食べ物にいっつもソースを、かけてましたね。

カシマシ君は高校時代からあまり頭がよくないのですから無難な指導をされてはどうですか?

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ

「申し訳ありません。確かに私は高校時代、あまり頭がよくなかったです。

ですが三組が掲げる『笑顔の絶えない学級』、そして笑顔の絶えない劇を作る為に一生懸命頑張っています。

もう少しだけ待ってくれないでしょうか。

宮本」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「分かってますか? 私達は再婚して、ここを引っ越すんですよ?

カシマシ君を待っていたら博多にもいけません。

だいたい、あなたの言う事は昔から信用出来ないです。

『明日二人で出掛けない?』と言われて、私が『デートかなあ』と頑張って高校生なりのおしゃれで出掛けたらカシマシ君、ジャスコへ連れていきましたよね?

で、ジャスコでヌンチャクを探していましたね。

ないですよ、ジャスコにヌンチャクなんて。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ

「ユウスケが、連絡帳のやり取りを見て『もう直接話し合えよ』と言っていました。

宮本」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「あと、私は待ちました。高校時代からずっと。

先生はいっていましたね、『誰かを笑顔にしたいんだ』と。では、どうして、最後の地区大会で『最後の台詞』を言わなかったのですか?

保護者も笑顔にできない教師が生徒を笑顔になんてできないですよね。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ

「あの時は本当に申し訳ありませんでした。

宮本」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「変わってしまったのですね、私達。そこは嘘でも『笑顔にするよ』と言ってほしかったな。

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ

「ごめんなサイパン。

宮本」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「は?

ユウスケの母」


『連絡帳』 ・カシマシ

「本当に、ごめんなサイパン。

宮本」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「カシマシ君。変わってない。

脚本の件、あれから考えていたのですが、あの、気持ち悪いノリがあったじゃないですか。

あの十七の人格とかいうノリ。

あれと生徒を戦わせたらいいのではないですか。

それで、生徒一人ひとりが自分の特技で先生を倒す。

こうすれば『一人ひとりが主役』になるのではないでしょうか」


『連絡帳』 ・カシマシ

「やっぱり流石ですね。

変わってないですよ、お互いに。

明日また直接会いましょう。その時にまた脚本についても、ユウスケについても、再婚の件についても話させてください。

明日の放課後、お待ちしております」


『日記』 ・ミッシェルガン


○月△日。

カシマシ君が謝って来た。

言いすぎだと気付いたらしい。

当然だ。

それでカシマシ君

「不幸な話ではなく、幸せな物語を作って、ミッシェルガンちゃんを笑わせたい。」とか言って

何、アイツ、何、アイツ、本当、何アイツ。

アイツ、本当バカ。

バカ、バカ。

……バカ。


◆SE『電車の音』


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

学芸会のキャストが、いよいよ決定しました。

本気で頑張ります」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「先日は、ありがとうございます。出来るものなら、そうしたいのですが夫の都合なので、どうすることも出来ません。ごめんなさい。ユウスケが紙粘土の玉に一つひとつもやしみたいなものを生やしている件も含め、対応の程よろしくお願いします」


『連絡帳』 ・カシマシ

「謝らないでください。

演目を一番初めにさせてもらうと言うのはどうでしょうか。

それなら、お母さんが言っていた時間にも間に合うかもしれません」


『連絡帳』 ・ミッシェルガン

「もう、いいんです。カシマシ君には色んな無茶を聞いてもらいましたから。

高校時代、演劇部だった時から、ずっと。

ユウスケにも私と同じような事、経験させちゃいますね。

あの子は、どう思ってるんだろ。

悲しいのかな。

そんな事も分からないなんて私はユウスケの母親失格ですね。

ミヤモト先生、もう私、終わりにします、全部」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

今日はクラスのみんなで学芸会の順番を変えてもらうための署名を作りました。

ユウスケが劇に出れるよう、みんなで頑張ろう!」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

保護者の皆様にお願いがあります。

署名活動にご協力頂けないでしょうか。

私はユウスケも含めたクラス全員で学芸会に出たい。

そして『ひとりひとりが主役』で『笑顔の絶えない』劇を作りたいのです。

勝手な事を書いているのは重々承知しておりますが、どうかよろしくお願いします」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

今日はクラスのみんなで学芸会の順番を変えてもらうための署名を作りました。

ユウスケが劇に出れるよう、みんなで頑張ろう!」


『学級通信』 ・カシマシ

「三組通信。

保護者の皆様、そして3組の皆の協力のおかげで、見事、学芸会の順番を変えてもらう事に成功しました!

たくさんのご協力、本当にありがとうございます。

写真はガッツポーズをするユウスケ」


『連絡帳』 ・カシマシ

「僕は言いました。

高校生の時、『ミッシェルガンちゃんの涙に俺はなりたいんだ。』と。

ミッシェルちゃんの作品に、悲しい展開は似合いません。

作るならハッピーエンド、それもミッシェルガンちゃんが幸せになるような。

学芸会、朝一番、待っています」


『日記』 ・ミッシェルガン

○月△日。

最後の、駅のホーム。

私は少し期待をしてしまった。

ひょっとしたらカシマシ君が来るかもしれない。

なんて。

そんなタイミングで来るのは物語の中だけ。

物語の主人公だけ。

考えたら分かる事だったのに。

連絡はしない癖に期待して。

もう、この日記も最後にしよう。

しばらく押し入れの奥で眠ってもらう。

さよなら、カシマシ君。


『脚本』


◆ブザー


カシマシ「『炸裂!ギャラクシー帝国の逆襲!~ユウスケありがとうスペシャル~』

作・宮本先生」


◆拍手


カシマシ「『ここは、宇宙。限りなく広大な宇宙。宇宙森林が生い茂り、宇宙海が広がる。』…ユウスケ?出てくるの早いな、ユウスケ。『ユウスケがやってきました。そこへ、美輪明宏がやってきます』うん、ユウスケ、そこ。そこでジッとしてて」


◆カシマシ、美輪明宏に着替える。


カシマシ「『美輪です。ユウスケの母を誘拐します』」

ミッシェルガン「え、ちょ、な、なんですかっ。こんなの脚本に書いてなかった……」

カシマシ「『大変です、ユウスケくんのお母さんが連れ去られてしまいました。』」

ミシェルガン「あ、なんかすみません、ユウスケの母です」

カシマシ「『ユウスケ君、よく聞きなさい』痛い痛い、グーは痛い、ユウスケー。始まる前に言ったでしょー、お母さん誘拐するって聞いて、ユウスケ、聞いて。『お母さんを助けて欲しければ私の部下を倒しなさい。ユウスケ君ピンチです。そうだ、クラスのみんなに助けを…』」


◆三組のみんな、やって来る。


カシマシ「早い、みんな出てくるの早い。」

ミッシェルガン「『クラスのみんながやってきました』」

カシマシ「前の人、もっと中央、来て。後ろギュウギュウだから。」


◆カシマシ、ヴィダルサンスーンに着替える。


カシマシ「『ひーっひっひ。そうはさせない三三が九』

ミッシェルガン「『宮本・十七の人格の一つ、ヴィダルサンスーンがやってきました』」

カシマシ「『お前達にはこの問題を解いてもらわないと先へは進ませない六六三十六!さあ、ユウスケ、この問題を解いてみろ。マイナス3分の2エックスイコール12は?』」

ミッシェルガン「クラス1の秀才、『江崎レオナ』がすらすらと解いたー。」

カシマシ「『円周率は?』」

ミッシェルガン「円周率だけは覚えている『藤谷ミワコ』が解いたー。」

カシマシ「『今日の為替相場は?』」

ミッシェルガン「四六時中お金の事しか考えていない『福本ノブユキ』が解いたー」

カシマシ「『やられた二二が四』」

ミッシェルガン「3組のみんなー、ありがとうー」


◆カシマシ、オペラ座の片桐仁に着替える。


カシマシ「『待つんだぜ』」

ミッシェルガン「『宮本・十七の人格の一つ、オペラ座の片桐仁がやってきました』」

カシマシ「『今度は歌で対決だ』」

ミッシェルガン「『まずはユウスケが歌います。曲名は……』」

カシマシ「『ドナドナ』!」

ミッシェルガン「ユウスケ……」

カシマシ「『100点中、2点』」

ミッシェルガン「ユウスケ……しかし、そこへ、3組の歌うま軍団が登場です。合唱団所属の『勝間カズヨ』。お母さんのスナック手伝い『月島キララ』。引くくらい上手い『吉村サクジ』。曲名は……」

カシマシ「え、ちょっと、なんで殴るの。」

ミッシェルガン「で、出たー。『大沢ミキオ』のパンチ。『山本ジュンイチ』のキック。『佐藤アツヒロ』のチョップ」

カシマシ「まって、それは次の流れでやるヤツ……」

ミッシェルガン「『能町ミネコ』の背負い投げ。『清水クニアキ』『原田ノブロウ』の十六文キック。『川原ヒロシ』、『南原タツキ』のDDT」

カシマシ「早い……」

ミッシェルガン「『松下トモコ』、120キロストレート。『奈美エツコ』、クロール。『佐藤カヨ』『佐藤サトミ』『草間ヤヨイ』のトス、レシーブ、アタック」

カシマシ「まだセリフがある……」

ミッシェルガン「『勝谷マサヒコ』ピアノ。『虹村オクヤス』ギター。習字。英会話。一発ギャグ。モノマネ。バーン。ドーン。ペーン。やっちゃえー。」

カシマシ「やられたー。やられたからー、もう殴らなくてもいいからー」


◆カシマシ、美輪明宏に着替える。


カシマシ「『髪の毛は黄色でも、本は紫の履歴書ー』」

ミッシェルガン「『美輪明宏がやってきました』」

カシマシ「『SMAPの中居君、前世はピカソ』」

ミッシェルガン「『大沢ミキオ』のパンチ。『山本ジュンイチ』のキック。」

カシマシ「まって。」

ミッシェルガン「やっちゃえー。ヌンチャクとジャスコしか頭にないアホはやっちゃえー」

カシマシ「やられたー。やられたからー、もう繰り返さなくてもいいからー。」

ミッシェルガン「全員倒されてしまいました」

カシマシ「『本当の姿を現す時がやってきたようだわ』」


◆カシマシ、カツラをとる


カシマシ「そうだ、本当は美輪明宏も悪の帝国ギャラクシアも存在しなかった。先生がすべて、仕組んだ罠だったのさ。どうして、そんな事をしたかって?ユウスケが遠くへ行く前にプレゼントしたいものがあったんだ」

ミッシェルガン「え?」

カシマシ「先生からお母さんにプレゼントしたいものがあるんだ」

ミッシェルガン「……はい」

カシマシ「好き…でした」

ミッシェルガン「……」

カシマシ「ずっと」

ミッシェルガン「……」

カシマシ「……え、ユウスケ、泣いてる?そうだな、ユウスケのお母さんは、ユウスケのだもんな。先生のじゃないもんな」

ミッシェルガン「ユウスケ……」

カシマシ「あー、ユウスケ泣かせちゃった。でも、当たり前だよな。ユウスケの方がお母さん好きだし、お母さんの方がユウスケ好きにきまってるよ。そうですよね、ユウスケのお母さん」

ミッシェルガン「……あたりまえじゃない。宮元先生より、宮本先生より、ユウスケの方が100万倍好きだよ」

カシマシ「実はもう一つ伝えたいことがあるんです。ユウスケが工作で何を作っていたのか、分かったんです。あの無数の玉。もやしみたいなものがニョロニョロと生えてきたの。クラスのみんなだったんです」

ミッシェルガン「クラスのみんな?」

カシマシ「三年三組のみんなを作ってたんです。三組のみんなに将来、会いたい。離ればなれになってもいつか会いたい。それがユウスケの夢だったんです。ミッシェルガンちゃん、みんなはユウスケが好きだし、ユウスケもみんなのこと、大好きだったんですよ」

ミッシェルガン「そっか、そうだったんだ。よかった、よかったな」


◆ユウスケ、リコーダーで『ドナドナ』を吹く。


ミッシェルガン「ドナドナ、吹けるようになったんだ」

カシマシ「ささやかながら、ユウスケからお母さんへ笑顔のプレゼントです!よーし、三年三組のみんな、ユウスケに宮もっちゃんシールを貼ってあげてくれ!」


◆ミッシェルガンちゃん、近づく。


ミッシェルガン「……ありがとう」

カシマシ「え?」

ミッシェルガン「なんでもない」

カシマシ「そっか」


◆SE『電車の音』


カシマシ「さよならを言いに来たんだ」

ミッシェルガン「……」

カシマシ「僕、もう一人でも大丈夫だから」

ミッシェルガン「……」


◆しばらく見つめ合う二人。


カシマシ「だから……」

ミッシェルガン「だから?」

カシマシ「さよなランドセル」

ミッシェルガン「……さよなランドセル」


◆おしまい

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