「作品の方角」の詳細

 このページでは「あなたの小説の方角はどちら?」の肝である作品の方角システムについて、詳しい説明をしています。

 企画への参加を考えられている方は一読をオススメします。



 作品の方角とは、各小説の面白さの種類を、方角になぞらえて表現するシステムです。

 小説の面白さを東西南北の四種類に大別したうえで、十六方位に区分けしています。


 まずは東西南北それぞれが、どんな魅力を示しているかを説明します。

 ただあまり具体的に説明しすぎると創作の幅を狭めてしまいますので、大まかな説明に留めています。


 北:大衆文学的 エンタメ

 多くの人に広く届く面白さを目指した、読みやすく、わかりやすい方向。

 展開や構成などの技術を巧みに使い、作品の面白さを盛りあげます。

 賞を受賞したい、多くの人に評価されたい、人気作になりたいのならば、北北西と北北東の間を向いていることが推奨されます。


 西:純文学的 昇華

 誰か(作者含む)の心に深く届く面白さを目指した、人の内面をそのまま抉りとったような方向。正負含めた心のエネルギーを創作にぶつけたような作品。

 展開や構成のお約束を排し、リアルや余韻を追求し、昇華を経た作品も少なくありません。

 昇華を経ていなくても、展開や構成のお約束を排した非作品的な作品は西に近づきます。


 東:実験的 新規性

 誰か(作者含む)の創作欲求を深く満たす面白さを目指した、独創性に尖った方向。

 創作の新たな可能性を追求した、新規性に富んだ手法や構造の作品。

 創作の面白さを再構築することが多いため、一般的な小説技術は敢えて排除されることが珍しくありません。


 南:抽象的 感性

 何かに届くかもしれない面白さを目指した、感性が赴いた方向。

 技術や理屈ではなく、感覚と観念が生みだした作品。

 展開や構成などの小説技術はもとより物語要素すら除去し、文章や文体そのものに意味や価値を見出すことが一般的です。


 以上のように大別しています。

 これら四つは面白さの種類が違うため、基本的な評価基準も全然変わってきます。「この表現・手法は西向き作品では絶賛できるが北向き作品では絶対にしないほうが良い」なんてことは日常茶飯事です。他の方角でも同様です。

 また北・西・東とは違って、南は聞き馴染みがないだろうと思います。

 フィンディルの感覚では、カクヨムに投稿されているほぼ全ての作品が北西と北東のあいだの90度内に収まっています。



 作品の方角は東西南北の四種類に大別したうえで、十六方位に区分けしているところが特徴です。実際に作品ごとに設定される方角は十六種類あります。

 これは文学のグラデーション性を表現するためです。

 大衆文学と純文学がわかりやすいのですが、両者には明確な境界線はありません。各人により「こういうのが大衆文学で、こういうのが純文学」という判断基準はあるでしょうが、誰もが頷く明確な線引きはないだろうと思います。

 それは「純文学っぽさのある大衆文学」「大衆文学っぽさのある純文学」「大衆文学っぽさも純文学っぽさもある小説」が、当たり前のようにあるからです。なので、何を重視するのかの違いや、どこに視座を置いているかの違いによって、細かい境界線は千差万別になってしまうのです。

 大衆文学・純文学は択一で選択するものではなく、スケールを動かすように無段階の程度・バランスによって示される概念であると考えます。


 作品の方角では「北=大衆文学的」「西=純文学的」としています。十六方位ならば、このあいだに「北北西」「北西」「西北西」が存在します。

 これにより「純文学っぽさのある大衆文学」「大衆文学っぽさのある純文学」「大衆文学っぽさも純文学っぽさもある小説」に対して、それぞれ方角を設定することができます。大衆文学か純文学かという択一の解釈ではなく、より柔軟な解釈を示すことができると考えています。各人で方角の解釈にズレが生じても、より意義のある意見交換ができると期待します。


 このように作品の方角は、文学のグラデーション性を表現しているのが特徴です。

 なおグラデーション性が表現できるのは、それぞれ隣接する方角のみです。正面に位置する方角同士は、十六方位ではグラデーション性を表現できません。

 北と南については性質が正反対に近いので「北かつ南」は考えにくいと思っているのですが、西と東については「西かつ東」はありえます。

 ただ純文学的・昇華を旨とする西向きと、実験的・新規性を旨とする東向きは、他の隣接方角に比べて両立しにくいものであると考えています。考える頭の領域が違い、求められる素質が異なるからです。両立は可能ですが、両立させられる人は相当に創作の幅が広い。

 ですのでシステムのバグとして、あえて(あえてではないですが)残しています。「西かつ東」みたいな方角はレアです。レアでいうのなら南半円もレアですけどね。

 なお同一作者の複数作品の方角のあいだが90度以上離れている場合、「その作者は創作の幅が広い」とフィンディルは評価しています。とはいえ創作の幅が広いことにどれほどの価値があるのか、については判断が分かれるところですが。



 もうひとつ、作品の方角を考えるうえで大事なのが、「北=大衆文学」「西=純文学」ではないということです。飽くまで、大衆文学的、純文学的。≒なのです。

 各種特徴や定義によって方角を分けているわけではなく、純粋に感じられる面白さの種類によって分けているからです。

 純文学だけど西向きでない作品もあるでしょうし、西向きだけど純文学でない作品もあるだろうと思います。他の方角でも同様です。類似の概念であるだけで、同一の概念ではないのですね。

 この≒の何が大事なのかというと、作品の方角を持ちだして「大衆文学とは」「純文学とは」という定義議論を行うのは、あまり意味がないということです。「北西の作品Aより西北西の作品Bのほうが純文学なのか」という議論にあまり意味はないのです。そもそも西=純文学、というわけではないので。北西の純文学、西北西の大衆文学だってあるだろうと思います。

 「作品の方角」は単純な言い換えではなく類似の概念を持ちだしているのだという考えを理解していただけると、より作品の方角への理解を深められると思います。



 以上、「あなたの小説の方角はどちら?」の肝である作品の方角システムについて説明いたしました。

 企画に参加し、応募作品の方角を宣言する際の参考にしていただければと思います。

 質問などありましたら、本記事の応援コメントまでどうぞ。

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