第5話 前世からの苦行

「ねぇリーナ。私ね、常々考えていることがあるの。」


勉強する手を止めて私は話しかけた。彼女は読書する手を休めることなく私に返答してくれた。


「どうかされましたか?私であればいつでも相談に乗りますよ。何でも言ってください。」

「ありがと。それじゃあ質問…というより相談になるのよね。私ってこれからどうしていけば良いのかしら。」

「と言いますと?」

「私はこの家の長女…つまりいつかは他家に嫁がないと行けないのでしょう?」

「まぁ…基本的にはそうなりますね。」

「でも私、結婚願望ないのよ。というかそんな事まだ考えたくもないわ。」

「ふふっ…お嬢様は恋をしたことがないからそんな事が言えるのですよ。お嬢様のように可愛い方でしたら、王子様が求婚してくれますよ‼」


彼女は少し興奮気味になりながら、私に詰め寄ってきた。


「ちょっリーナ近い‼」

「あっすみません‼とはいえ…お嬢様は今後について考えていらっしゃったのですね。」

「えぇそうよ。私は今後どんな風に生きていけば良いのか少し考えちゃってね。」


前世では両親に勝手に結婚相手を決められて、それが嫌で飛び出してしまった。

ここだけを見れば無謀な子にしか見えないだろう。

それに今まで貴族の一員としてぬくぬく温室で育ってきたような人間が、普通馴染めるわけ無いと考えられたのだろう。


呼び止められたりすることもなければ、特段なにか言われることもなかったのを覚えている。


あの頃の両親とは関係が冷え切っていた。原因としては私の嫉妬から始まったことだが、だとしてもあんな扱いをされたくはなかった。


とはいえ…私にも原因の一端があったのは事実だ。

私には一人の弟がいる。いわゆる長男というやつだ。


しかし彼は生まれながらに病弱で、正直彼が当主を務めることなど不可能だった。


しかし貴族というのはとても面倒な物で、男が当主を務めることが多い。

女性でも当主を務めている所はあるが、とても少ない。


私がここの家を飛び出した時も変わらずにそのままだったことから…今世でも同じと考えられるだろう。


「そうですねぇ…私としてはお嬢様には、誰かに強制されることなく自由に生きてほしいと思っています。整備された甘い道を行くのではなく、あえて茨の厳しい道を歩んでほしいと考えています。」

「そうなの?」

「えぇ。あくまで私の考えです。真に受けなくて大丈夫ですよ。それにお嬢様なら大丈夫です。お嬢様には私よりも強い魔法の力や基礎的な学力があります。」

「お世辞でも褒めてくれて嬉しいわ。」

「お世辞ではないですよ。さて…勉強を再開しましょう。」


私はそれからというもの、勉強と魔法に傾倒する日々を送っていた。

両親との良好な関係を築くことも忘れずに行い、前世のときとは違い、病弱な弟とも積極的に関わっていき良好な関係になれたと思っている。


しかし…そんな幸せな毎日を壊そうとするイベントがやってきた。

前世の時一番の苦行だと感じていた、社交界というものだ。


華々しくて、きれいな男女がダンスを嗜んだり音楽を聞いたりしながら食事を取っている光景を想像できるかもしれない。


だがダンスが嫌いな人間にとって…一般な人にとっては楽しい馬鹿もしれないが、そんな人たちにとっては忌むべき地獄へと変貌する。


しかもダンスをしなければ、他家の令嬢から馬鹿にされ令息にも冷ややかな視線で見られることになる。

ダンスをしても下手であれば同様に馬鹿にされ、冷ややかな視線を向けられるだろう。


私自身、ダンスはとても苦手だ。

だからこれまで何かと理由をつけて避けてきたのだが…今回はどうやらそうもいかないらしい。


「頼む…今回だけは出てくれないか。侯爵家である我が家としては流石にこれに出ないわけにはいかないのだ。頼む‼」

「ごめんね…貴方がダンスを苦手にしてることは分かるわ。でも今回だけ…今回だけで良いから出てくれない?お願い‼」


私の両親が娘である私に頭を下げている理由…それは、第二王子が約1ヶ月後に誕生日を迎え、10歳になるからだ。


貴族というのは何かと理由を付けて社交界を開いたり、パーティーを開くが今回もその一環なのだろう。


今までのパーティーなどは体調不良などを理由にして乗り越えてきたが、第二王子の誕生日ともなれば流石の両親でも参加を見送ることは出来ないらしい。


もっとも当日に熱を出しても行かせるつもりだろう。なにせ王子だ。息子や娘が仮に仲良く慣れれば縁ができる。その縁を使えば何だってやれるだろう。


「はぁ…私は嫌です。参加したくありません。」

「そうだよなぁ…どうにかして断りたくても今回は面倒くさい人が担当しててさ…正直厳しいんだよね。」

「一体誰が担当してるんです?」

「宰相だよ。まぁ宰相の事は気にしないでくれ。どうにか断れないか試してみるから。」

「…分かりました。もしそれでも駄目でしたら構いません。頑張って行きます。」

「ありがとう。帰ってきたら良いものを用意しておくからね。」


お父さんが言っていた『良いもの』…それに心当たりはなかった。

でも…それでも…行きたくないなぁ…







試しに深夜に投稿させていただきました。

深夜の投稿にも関わらず、見てくださった方本当にありがとうございます‼

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