やり直し令嬢は未来を変えるために足掻く
聖羅
第1話 始まりは終わりとともに
私は鈍い音が響くのと同時に、背後から剣で体を貫かれた。
激痛が身体中を駆け巡り、血反吐を吐きながら思わずその場に倒れ込んだ。
私に剣を突き刺したのは、あの日からずっとそばで私と成長を見守ってくれてた彼だった。
「どう…して?」
「…残念です。お嬢様。私は貴方のことを最後まで信じたかった。こんな結末を望んではいませんでした。」
彼は瞳から涙をこぼしながら、剣を高く振り上げ…私の首めがけて再び剣を振るった。
視界が反転し、自分の体を制御できなくなった。瞬間私は首を跳ね飛ばされたのだと分かった。
「…昔の貴方は良かった。元平民である私にも優しく接し、皆から好かれていたのにどうして変わってしまったのですか?」
私は消えゆく意識の中、彼のその言葉を耳にした。
私は10歳の時に行われるある行事を境に傲慢な性格に変わってしまった。
この国では『魔力』と『魔法』が最も重要視されている。
この2つにおいて、私は他の追随を許さない圧倒的な差を幼いながらに手にしてしまった。
そしてこの国で成人として認められる15歳をすぎても、それは変わらなかった。
だがその力に酔いしれて、傲慢になっていた私はいつの間にか『優しさ』や『努力』を忘れていた。
【自分は努力するような人間ではない。結局は才能が物を言う。】
そう私は信じて疑わなかった。
でもあの日、いつも私の味方をしてくれていた彼に殺されてやっと分かった。
私の今までの行いは間違いだと。
今までやってきたことは全て間違いだったと。
そしてもう後悔しても遅いのだと理解した。
でもどういうわけか…私は10数年前の幼い頃に記憶を保持したまま戻ってきた。
「ここは…」
私は一人真っ白なベッドの上で目を覚ました。
私は大きな困惑と驚愕に襲われながらも、ここがどこなのかあたりを見渡し、状況を把握することにした。
ベッドの隣には最後の時をともにした私の魔導書が置いてある。
しかし…汚れている様子はない。
つまり今は、魔導書を受け取った当日か数日以内ということになる。
魔導書とは魔法を使うために必要となる物で、この国では魔導書の等級も重要視される。
魔導書の等級は、魔導書の表紙に描かれている魔法陣で簡単に判別することが出来る。
私の魔法陣は4重の魔法陣で、等級的には一番上に当たる。
魔法陣の等級が高ければ高いほど、強力な魔法を覚えることができる。更に魔法の発動速度も早くなるなど、等級が高いことの恩恵は多い。
私がベッドから起き上がると、メイドが部屋に入ってきた。
「お嬢様‼お目覚めになられたんですね‼」
「えぇ。ついさっきね。」
「良かったです‼昨日はお疲れでしたもんね‼」
「そうね。何かが抜ける感覚がして、正直今も違和感があるわ。」
「大丈夫です‼私も同じ経験をしてきましたから‼お嬢様は4重の魔導書ですもんね。きっと強い魔法使いになれますよ‼」
「ありがとう。それじゃあ食事に行きましょうか。」
彼女の名前はリーナ。獣人族の子で、私が家族と一緒に行った旅先で拾ってきた子だ。
彼女は身寄りがないらしく、方っておくと道端で倒れそうなため私と家族が保護することにしたのだ。
今はそんなことよりも食事を取ることが大切だ。
「ねぇリーナ?今日の食事って何?」
「今日は軽めのものだそうです。それとお嬢様の従者になる方との面会があるそうです。」
「分かったわ。なるべく早く食事を済ませないとね。」
私の家は、一応貴族に当たる。
それも侯爵の地位についていて、地位的にも上から数えたほうが速い。
両親は私のことを大切にしてくれている。まぁ大切にしてくれていなかったら、家族で旅行になんていかないんだけどね…
「ふぅ…ごちそうさま。」
「お味はどうでしたか?」
「ふふ。言わなくても分かるでしょ?とても美味しかったわ。料理長にちゃんと伝えておいてね。」
「勿論です。それではお嬢様。応対室に既にいらっしゃってるとの事なので、落ち着いたら応対室にいきましょう。」
「分かったわ。ふぅ…私の従者になる人は一体誰なのかしら。」
私はそう言ったものの、誰が従者になるのか知っている。
従者になってくれる人の名前は…ゼノンという若い男だ。
彼は空間魔法の使い手で、等級は私と同じ4重で一番上となる。
更に言うと彼の年は、15歳であり成人を迎えたばかりなのだ。
そんな彼は…私と身分が違う平民だ。
ちなみに、彼の扱う【空間魔法】は強力な魔法とみなされている。
私が使える魔法の属性は、【冬】と呼ばれる四季を冠する特殊な属性だ。
これは『水や風の属性が複合された物だ』と前世では結論付けていたが、ここでも同じかは分からない。
私の母は【春】。父は【秋】という風に、我が家では四季に冠する属性を授かっているようだ。ちなみに前世の通りであれば、弟は【夏】の属性を授かるはずだ。
「お嬢様。つきましたよ。」
「ん?あぁ…ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたの。」
「いえいえ。私に謝る必要なんてないですよ。」
「ふふ…そう?」
「そうです。」
「そう?まあいいわ。」
私はそう言って応接室の扉を開けた。
応接室のソファーに腰を深くかけている人が一人いた。そして、彼の事も勿論知っている。
私の事を最後まで見捨てずにいてくれた彼だ。
「こんにちは。貴方が私の従者になってくださる方ですね?」
「はい。私の名前はゼノンといいます。どうぞ宜しくお願いします。」
「えぇよろしく。私の名前はアリアよ。よろしくね‼ちなみになんだけど…年齢は?」
「一応先月15を迎えました。今後はお嬢様の従者兼、護衛として働かせていただきます。」
「わかりました。」
「それなら良かったです。早速なのですが…貴方の魔法の腕を見せてくれませんか?私、他人が使う魔法に特に興味がありますの。」
私がそう言うと、彼は魔導書と剣を取り出した。
「そうですね…でしたら、今から一匹狩ってくることにします。」
「分かったわ。でも危険な事はしないようにしてくださいね。折角従者になってくれる貴方を失いたくはありませんので。」
私がそう言うと、彼はすぐに屋敷から出ていってしまった。
そんな彼の姿を見て、私は心の何処かで少し安心していた。
彼と共にこれからの時間を楽しく…そして幸せに過ごしたい。
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