幼馴染の思いがけない行動
俺は日向の手を引きながら小道を抜け続け、町外れにある原っぱへとやって来ていた。ここまでくれば大丈夫なはず…だ。
久々に全力疾走したので疲れた。俺は日向から手を離し、息を整える。
「ハァハァ…」
「はぁはぁ…。いきなりどうしたの陽平?」
「電柱の影に…ハァハァ。パパラッチらしき男の姿が見えた…んだ。ハァハァ。その…撮られてある事ない事書かれると困るだろ? だから走って逃げた」
「ああ~! そういう事? 私の事心配してくれてるんだ? 嬉しいなぁ~。ありがとう陽平! でも大丈夫、そんなの外野に勝手に言わせておけばいいんだよ。今の私にとって1番大切なのは陽平。だから赤の他人がどう言おうと、どうでもいいかな」
俺がそう答えると彼女は「そんなの全く気にしてない」というようなケロッとした表情をした。
えぇ…メンタル強っよ。まぁ魑魅魍魎が跋扈する芸能界でアイドルをやっていたんだから、これくらいメンタルが強くないと生き残れないか。
「いやでも、俺は日向が誹謗中傷される姿を見たくないよ」
「優しいね。やっぱり記憶は失っても性格は昔と変わってない。君のそういう所も大好き♡」
「うっ…////」
彼女に真っすぐな好意を伝えられ、俺は赤面してしまう。だからそういうストレートなのには慣れてないんだって…。
…しかしパパラッチから逃げるためとはいえ、随分と遠くまで来てしまった。俺と日向は並んで春の息吹を感じる緑に包まれた広い原っぱを見つめる。だがそこで改めてこの原っぱを見たであろう日向が声をあげた。
「あっ…ここ。あの原っぱだ。まだあったんだね。ここは昔と変わらないなぁ…」
「あの原っぱ?」
「うん、私と陽平がよく一緒に遊んだ原っぱ。そして…君が私の告白を受け入れてくれた場所」
えっ…?
彼女にそう言われて心臓がドクンと跳ねた。ここで…日向は俺に告白したのか。俺はなんとかその記憶を思い出そうとするが、相変わらず何も思い出せなかった。
「うん、決めた!」
俺が困惑していると日向は俺の方にグイッと迫り、距離を詰めて来る。彼女の綺麗な顔が数センチ前にあった。
ちょ!? 近いって。
俺は両手でバリケードを作って一旦彼女と距離を取る。俺がそうすると拒絶したととられたのか、彼女は悲しそうな表情をした。
「陽平は…私の事が嫌い?」
「いや、別に嫌いとかじゃなくて…」
俺が彼女と距離を取ったのは単に俺が女性慣れしていないだけだ。女性経験のない童貞が日向のような美少女にいきなりグッと近づかれたらみんなそうする。多分。
「私の事を嫌いじゃないなら…受け入れて欲しい。私はね、君の事が好き。10年前からずっと。10年前と同じこの場所で私は変わらない気持ちをもう1度君に伝えるよ!」
「あ、ああ…」
「私と付き合ってくれる? もちろん、結婚を前提にね」
「それは…その、もう少し考えさせて」
俺はまだ日向がどのような人間なのか思い出せていない。それに夕菜の事もある手前、その気持ちは受け入れられなかった。
「そう、まだ…受け入れてくれないんだね。ねぇ陽平。私、君の事を全力で落としに行くって言ったよね?」
彼女はそれまでの笑顔から急に真顔になると、こちらにジリジリと近寄って来た。心なしかその瞳から光が消えているように見える。
…彼女は一体何をするつもりだろうか?
俺は若干不安な気持ちを抱きつつも日向の行動を見守った。彼女は俺の正面に立ち、向き直る。
だが次の瞬間…。
「陽平、大好き♡」
彼女は愛の言葉をささやくと共に俺を抱きしめ、顔を近づける。
その距離は一気にゼロとなり…俺と彼女の唇が重なった。
俺はいきなりの日向の行動に混乱し、彼女のなすがままにされてしまう。
「んっ♡」
「んん!?」
…えっ? これって俺は何をされているんだ? もしかして…キス?
俺の目の前には彼女の綺麗な顔、唇には彼女の柔らかい何か…おそらく唇の感触がする。…言葉で言い表せないほど柔らかくて心地よい。その柔らかさと気持ちよさで俺の脳と感情までとろけそうになってしまう。
俺はそのまま何もすることが出来ず、唇を奪われ続けた。
「ぷはっ…」
数十秒後、流石に息が苦しくなったのか、日向は唇を離した。俺は呆然としながら先ほどまで彼女の唇が触れていた箇所を右手で触る。
「私の気持ち、受け取ってくれたかな? 絶対に落としてみせるから覚悟しててね陽平♪」
彼女はそう言ってビシッと俺の方を指さした。
◇◇◇
お試し連載はここまでとなります。評判が良ければこのまま本格連載に入ります。
もしこの物語の続きが気になる。ヒロインが可愛い! と思ってくださった方は☆での評価をお願いします。
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