メイド剣士の奮闘記

星野めぐみ

第1話 剣術学校試験に挑戦

フィオラ「ついに、この日がきた……!」

 

 クリーム色のハネた髪を一つに結んだ、ジャージ姿の小柄な少女――フィオラは、強堅な校門の前で、入試書類を両手で握りしめて意気込む。

 その校門には『私立剣術学校』と力強い文字が掘られており、手前に『私立剣術学校 下級剣士入学選抜試験』とでかでかと書かれた縦看板が堂々と立っていた。


ここは、バラヤン国の大都会・ガルガ街。

 約60年前、隣国との戦争が終わった後、突如『魔獣』と呼ばれる、動物が突然変異した怪物が出現した。魔獣は多くの人々を襲い、世の中が混乱に陥った。


 そんな中、剣戟(けんげき)財閥が魔獣を倒す剣を発明し、新たな職業『剣士』が出来上がる。剣士は魔獣を倒すことで、莫大な賞金と人々からの賞賛が得られるようになり、今や『バラヤン国の青年ならば一度は目指すもの』と言われる程、剣士を目指す少年が増え続けている。


 そんな憧れの職業・剣士になる為には、剣戟財閥が運営する国唯一の剣士育成機関である『剣術学校』に通わなければならない。

 剣士には『上級剣士』『下級剣士』の2種類あり、上級剣士は剣士の家柄出身者のみ中等部から入学できる。上級剣士は幼い頃から剣士として育てられてきた凄腕の剣士達で、下級剣士達の上官となる。


 一方、下級剣士は剣士以外の家出身でも高等部から入学できるが、志望者が多く倍率も高い為、狭き門をくぐらねばならない。

 フィオラはリエール村(田舎の村)の農民出身の為、剣士学校に受験できるのは『下級剣士』枠である。そして、今日が、その剣術学校の下級剣士入学試験日なのだ。


フィオラ(ずっと、剣士に憧れてきた。実技も筆記も、たくさん頑張ってきた!大丈夫、自分の今までの努力をここでぶつけるんだ……!)


???「ちょっと、そこの君!」

フィオラ「へ?」


 校門を通ろうとすると、フィオラは校門の前に立つ長身の守衛のおじさんに声をかけられた。


守衛「君……女の子だよね?」

フィオラ「そうですが。何か問題でも?」

守衛「問題ありまくりだよ!ここ、剣術学校だよ?女性は受けられないよ。」

フィオラ「はい?何を言ってるんですか。募集要項には『男性のみ』なんて書いてないじゃないですか!」

守衛「いいから、駄目駄目。さ、帰った帰った。」


 守衛のおじさんは反論を聞こうともせず、フィオラを軽々と校門の外につまみ出す。

フィオラ「ちょっと!!おかしいでしょ!!女だって剣士になれる!馬鹿しないでよっ!」

守衛「そもそも君みたいな小さい女の子、話にならないよ。大人しくお家に帰りな。」

 結局、どんなに抗議しても聞き入れてもらえず、校門の中に入れてもらえなかった。

フィオラ「そんな……ばかな!嘘でしょ!?」


 愕然としているフィオラをよそに、他の受験生達はそそくさと校門を通っていく。見ると確かに、女性はフィオラ以外誰一人いなかった。それに、自分より身長が高くてガッシリとした体格の青年が多かった。


フィオラ(え……なんで皆あんなに背が高いの!?都会ってやっぱ田舎と食べるものとか違うから?……いや、そんなことより!せっかくここまで来たのに、こんなことって……!これじゃあ、ヴィルに会えない!そんなの嫌だ!)


 フィオラは半ばパニックになりながらも、どうにかして剣術学校に入る手立てはないか、学校の周りの塀を歩き回りながらぐるぐると考えていた。すると、学校の塀に貼ってある『メイド募集』のチラシを見つけ、ピタッと足を止めた。


 そこには『剣術学校の剣士のサポートをしませんか?住み込みで3食付き、若くて体力のある女性を募集しています』と書いてあった。フィオラはそのチラシを破り取って校門まで走り、もう一度守衛のおじさんの元へ向かった。

 守衛のおじさんは走ってきたフィオラを見るなり、呆れたようにため息をついた。


守衛「また君?もういい加減諦めたら?」

フィオラ「今度は違います!試験受けられなくてもいいから、せめて剣術学校で働かせてください!」

守衛「ああー、メイドか。やめときな、評判悪いぞ。朝早くから夜遅くまで働き詰めだし、長い休みも取れないし、若い女の子はキツくてすぐ辞めちゃうって噂だぞ。」

フィオラ「体力忍耐力にも自信あるので大丈夫です!!働かせてください!!」

守衛「ここだけの話、『鬼の侍女(じじょ)』と呼ばれる怖~いお局さんにこき使われるし、剣士達の夜伽というのもあるんだとか……。あそこは完全な男尊女卑の世界だ。僕の娘には絶対行かせたくないところだよ。」

フィオラ「それでもなんでもいいから!!働かせてください!!」


 20cm以上もある身長差・体格差を物ともせず、フィオラは守衛のおじさんに食らいつく。フィオラの必死の形相と気迫に負け、守衛のおじさんはしぶしぶ諦め、軽く笑った。

守衛「わかった、わかった。あんたにゃ負けたよ。メイド長に連絡するから、そこで待っときな。」

フィオラ「やったあー!ありがとうございます!」

守衛「どうして、そんなに剣術学校にこだわるかねえ……」

 

 呆れた様子をした守衛のおじさんの言葉を耳にし、フィオラは『ヴィル』を思い出した。

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