22話。やっぱりね。前編
山道を歩いていると、海が近づいてきたのを鼻で感じる。木々の間から遠くの海面を反射した光が目をさし、大きな港町が目下に見える。
ここからでも大勢の人間が行き交っているのが見えるので、かなり栄えているのだろう。こういう場所には情報も多い。期待ができるね。
「今なら一個の値段でもう一個つけるよ〜!」
「見て行ってくれよ。この宝石、上質だろ?」
「少し質は下がるが、その分格安だよ〜!」
港町に着くと、そこは宝石売りの露店で溢れかえっていた。沢山の人々が求めて賑わっている。金のにおいが凄まじい。僕は場違いだ。
「この3年、この港町は宝石販売で賑わい始めたのですよ。それまでは海産物が主流でした。
取り扱われている主な宝石は、この国では採掘できないダイヤモンドですね。
近くの鉱山で掘り出せたとか、入手経路については判明してないのです。みな一様に『不特定多数が売りに来るから買っている。』との事でして。これ程の量、一体どこから持ってこられているのか不思議ですよねぇ。」
元執事は露天商の一つに立ち寄り、説明を受けながら宝石を見ている。僕は役場に行ってミミック情報でも聞いてこよう。
港町の役場に着くと、頭を抱えた初老の人間達が何人もいた。みな表情が暗く、手元の紙を恨めしそうに眺めている。
「…と、まぁ。この辺りで珍しい場所といえばそこでしょうね。いや〜、久しぶりに観光案内をしましたよ。このところ、引きこもりの対応ばかりで億劫でしたから。
子供が仕事を辞めて部屋に引きこもって困ってるという相談が多くてですね。あの歳になっても子供の世話をするとは。他人事ではありますが、気の毒ですよ。」
「そうですか。では、ありがとうございました。」
元執事はいない。さて、船に乗って次の目的地に向かうとするか。船着場で乗船券を買う列に並んでいると、僕の背後に不気味な気配を感じる。首だけ後ろに傾けると、元執事が僕の尻を舐め回すように見ていた。
「面白い情報があるのに、もう行ってしまわれるのですか?」
「話は聞いてきたよ。」
「おや。では、ミミックがすぐ側にいるのにどこへ行こうというのです?」
ミミック。その言葉を聞いて、僕は元執事の肩を掴んで列から離れる。
「教えてくれるかい?」
「条件次第では。」
「条件?」
元執事は僕が肩においた手に自分の手を添え、真剣な様子で見上げてきた。
「隣国の殿下が攫われたそうでして。顔は知っているので助けに向かいます。報酬はありませんが、協力して下さい。」
「君が利益もなく助けたいって言うくらいだから、美丈夫なのかな。」
「そんな所です。この港町に停泊している際、密猟者に捕まったそうでして。相手は密猟の解禁に不平等な関税取引、更には身代金を提示してきているそうなんですよ。
こんなに面白い話はないので、首を突っ込みたくなりまして。一緒に気晴らしにやっつけに行きましょう。」
殿下か。僕の知る姫を頭に思い浮かべる。人間のいざこざは正直関わりたくない。僕が外国人だから尚更だ。
でも、もしかしたら。自分が人質になり悔やみ悲しんでいる可能性もある。自ら命を断つかもしれない。
「後悔はしたくないね……わかった。詳しく聞こう。」
「ありがとうございます。指定場所はあの山の上に建つ金の屋根の屋敷です。」
一際煌びやかな外壁の建物は、この距離から見ても悪趣味を感じる。あの辺りは成金の別荘地帯だそうで、一般人は道の立ち入りすら制限されているらしい。
「思うのだけど、この問題に僕たちが関わっても大丈夫なのかい?国際問題だし、隣国の法的機関に問い合わせしてからじゃあないと動くのはまずいと思うよ。」
「そこは問題ありません。誘拐犯も隣国の豪族ですから。
それに我々のような余所者だからこそ、万が一失敗しても盗人として処理されますから。ようは捨て駒ですね。」
ニコニコと笑う元執事。彼の脚力は認めるが、戦闘面はどうだろう。
「助け出せる見込みはあるのかい?」
「無ければこうしてお声がけ致しませんよ。さあ、参りましょうか。」
小さな背中を追いかけてついて行くと、屋敷の建つ崖下についた。ここから登っていきますと、凄まじい速さで駆け上がっていく。
こんな人間を見るのは初めてだ。僕は彼の踏んだ足場をつかい、同じく駆け上がる。
崖を上り切ると、そこは庭になっていて入念に手入れされた草木が多い茂っている。身を隠すにはうってつけだ。
殿下を人質にしているからなのか、かなり人数が多い。
「ここからどうする予定だい?」
元執事は懐から竹包を取り出す。中に入っていたのは串団子だ。美味しそうに頬張り始める。
「手下と身辺警護は生かしておかず、首謀者は半殺しです。先に出ますよ。」
串団子を頬張りつつ、元執事は草むらから飛び出していった。
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