りんねちゃんとファミレス4

 みんなで手と手を合わせ、「いただきます」と声をそろえ、注文した料理を食べ始める。


 コミュ症の緋影が女性陣に対して気を利かせて話を振るわけもなく、黙々と自分の頼んだコラボ料理を食べていた。


 陽子はコラボグッズに夢中で、天子も黙々と、清楚に料理を口に運んでいる。


 つまり、この中で会話がなく、沈黙を気まずく感じているのは歩だけであった。


 料理を食べながら、なんとか会話を始めようと考えた歩の脳裏に、放課後の出来事がよぎる。


「そう…いえ…ば…利賀…生徒…会長……なん…か…変だっ…た…よ…ね?」


 ぽつりと疑問を口にした歩の言葉に、素早く反応したのは緋影だった。


「それはオレも思ったんだよな……ゆゆ姉らしくないというか……」


 これには席の隅っこで、おとなしく緋影の食べているところをじーっと見ていたりんねちゃんも激しく同意であった。


 あのロリっ子なら、絶対にファミレスについて来るだろう――そう思っていたりんねちゃんは、放課後、校内で優々子とすれ違ったときの様子を思い出していた。


 ホームルームを終えた後、ウキウキで緋影の腕に鎮座して教室を出たりんねちゃん。


 一年の教室前の廊下で天子たちと合流した緋影は、会話を交わすこともなく、ファミレスに向けてレッツゴーとばかりに一緒に昇降口へと向かっていた。


 あまりに珍しい組み合わせに、周囲の生徒たちは奇異の目を向けてきたが、すぐにりんねちゃんの呪いのオーラに怯え、視線を逸らしていく。


 我関せずといった様子で先頭を歩く緋影。


 その三歩後ろを清楚らしくついていく天子。


 そしてそのさらに後ろを、気まずそうに歩と陽子が続いていた。


 そのとき、偶然か必然か、生徒会長の優々子と副会長の菅沼に鉢合わせたのであった。


 このときの歩は、まるで親にイタズラがバレたときのような、複雑な感情を浮かべた表情をしていた。


 陽子の背に素早く隠れ、オロオロとしながらも歩が口を開く。


「あッ!? あ…の……利賀…生徒…会長……こ、これ…は……そ…の~……」


 言い訳がましくそう発言する歩に、「何を焦っているんだ?」とでも言いたげな疑問顔を浮かべる陽子は、とりあえず頭をペコリと下げる。


「ゆゆ姉……これからあゆみちゃんたちとファミレスに行ってくるんだが……その……」


 相も変わらず無表情な緋影だったが、どこか落ち着きのなさを感じさせる様子で、天子も疑問気な表情を浮かべつつ、陽子と同様に清楚にペコリとお辞儀をする。


 その一方で、『今からファミレスに行く』『どうだ羨ましいだろ』とでも言いたげな自慢げな無表情を優々子に向けるりんねちゃん。


 りんねちゃんにとって、数多くある現世での楽しみのひとつが優々子をからかって遊ぶことなのである。


 そして、『どうせついてくるんだろう?』『連れて行ってやらないけどね』といった挑発的な無表情を浮かべていた。


 しかし、いつもならりんねちゃんに怯えた表情を向けた後に、すぐに噛みついてくる優々子が、出会い頭にビクッと恐怖で震えるもすぐに呪いの人形(ドール)のことをスルーした。


 彼女の視線は疑問顔を浮かべてキョトンとしている天子へと向けられていたのだ。


 無視されてちょっとムッとなるりんねちゃんは、『無視するなー』と無表情で優々子に訴えていた。


 目をつむり何かを考える素振りを見せた優々子は数秒後に目を開けるとニッコリと天使の笑顔を浮かべた。


「……そうですか………………放課後だからとあまり羽目を外さないようにしてくださいね」


 優々子に優しい口調でそう言われ呆気にとられる歩なのである。


「そうだぞ! 特に貴様は問題を起こさないようにしろ!!!」


 生徒会長の優々子のあとに続けとばかりに副会長の菅沼に睨まれ怒鳴られる緋影は、心のなかで(オレなんかやったけ?)と必死に思い出そうとするも心当たりはなかった。


 菅沼は緋影の後ろにいる美少女三人組を一瞥すると、小声で「やはりこいつは女の敵だな……こんな男に騙されるとは哀れな女たちだ」と呟いたが、幸い(?)緋影たちには聞こえていないようだった。


「副会長……やめなさい」

「すみません!! 会長!!!!」


 しかし、生徒会長の優々子にはバッチリ聞こえていたらしく、たしなめられた副会長の菅沼はしゅんとなるのだった。


「私は生徒会の用事がありますから……これで失礼しますね」


 天ノ川 天子を一瞥すると優々子はそう言って、菅沼を連れて去っていった。


 いつの間にか首を傾げている呪いの人形(ドール)なのであった。


 りんねちゃんも、これには肩透かしで疑問顔の無表情を浮かべていた。


「あ…れ……変だ…な……利賀…生徒…会長が……何…も……言って…こない…なん…て……」


 同じく首を傾げて小声で疑問をつぶやく歩に、激しく同意するりんねちゃんなのである。


 緋影も、「あれ?」といったような疑問の無表情を浮かべていた。


 利賀生徒会長との関わりがない天子と陽子は話についていけない様子であった。


 そして、とりあえずファミレスに向かうかとばかりに緋影が無言で歩き出したので、すぐにあとを追う美少女三人組なのであった。


 思い返せば、やはりおかしいとなる呪いの人形(ドール)りんねちゃんなのである。


 しかし、緋影と歩の優々子に対しての疑惑の発言に対して、天子と陽子だけが疑問顔であった。


「そうですか? 普段通りの利賀生徒会長だった気がしますけど……」

「だよなー」

「うぅ…ん……絶対…に…変…だった…よ」

「まぁ、変だったな」


 これには呪いの人形(ドール)りんねちゃんも『変だった』といった無表情を浮かべる。


 絶対になにかを企んでいる――そう確信したりんねちゃんは、ロリっ子(優々子)は何を企んでいるのだろうかと、ちょっとワクワク、ソワソワしてきた。


 そして数分後、窓の外から注がれるとある人物の視線に気づいたりんねちゃんは、『やっぱり』とばかりにウキウキした気分で視線の先を確認するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る