彼が学校に来なかった理由3

 その後、緋影はゴールデンウィーク期間、呪いの人形(ドール)に何度も悲鳴(無音)をあげさせながら彼女の修復作業をするのであった。もちろん、その間呪いの人形(ドール)は何度も緋影のことを殺そうと試みるも、なんだかんだと、絆され殺すことができずに、結局徐々に緋影の無自覚行為に対して好感度パラメーターは上昇し続けた。


 結果、呪いの人形(ドール)の好感度メーターは天元突破し彼女は生まれ変わったのである。ドールアイがハマってない上にヒビまで入っていたドールフェイスは、きちんと右目に綺麗で真っ赤な緋影自作のグラスアイがはめられ、ヒビも完全に修復されていた。


 手足も緋影が完全に新しくサイズの合うものを製作し、破損、欠損していた部分は綺麗に完全修復されていた。


 その技術は素人とは思えないほど職人も唸る出来なのである。衣装も全て緋影の自作であり、真っ黒なゴスロリ衣装に身を包む呪いの人形(ドール)なのである。膝近くまである真っ黒な髪を両サイドで束ね、いわゆるツインテールになっており、前髪越しにオッドアイの深紅の瞳と真っ赤な瞳が透けて見える。


 髪は何度も何度も、パッツンに切られ。気に入らないため伸ばし、切られ、伸ばし、切られを繰り返した結果、緋影の腕が上達し呪いの人形(ドール)の満足がいくヘアーとなった。


 生まれ変わった呪いの人形(ドール)もどこか満足げの表情(無表情)なのであった。むふ~といった感じである。


 そんな生まれ変わった呪いの人形(ドール)をテーブルのど真ん中にちょこんと愛らしく座らせ、両手で頬杖をつきながら満足そうな表情(無表情)で見つめている緋影も、無表情だがむふ~といった感じで満足そうである。


「我ながら完璧だ……めちゃくちゃ可愛い……まさか、オレにこんな才能があったとは……いや、ほんと可愛い」


 緋影は満足そうに呪いの人形(ドール)を眺めながらそう呟くと、呪いの人形(ドール)もドヤ顔にも見える無表情でどこか嬉しそうであり誇らしそうだ。ちなみに、このやり取りをかれこれ数時間は繰り返しており、似た者同士の馬鹿な主人と呪いの人形(ドール)なのである。


 完成した人形(ドール)に大層ご満悦な緋影は、ハッとあることに気がつく。この可愛さを自分一人だけ堪能して良いのかと? ネットを使って嬉しい気持ちはみんなで共有しようというとあるSNSの宣伝文を突如として思い出す。


 今まで趣味という趣味を持ってないなかった緋影が、趣味に目覚め、ありふれんばかりのこの情熱と想いを誰かと共有したいと考えたのである。(大体の人が思い当たる黒歴史の始まりである)


 思い立ったが吉日と言わんばかりに緋影はテーブルの上に置いていたスマホを手に取り、カメラ機能をオン、呪いの人形(ドール)にフォーカスを合わせ何枚も何枚も写真を撮る緋影なのである。ちなみに毎回写真を撮るたびにスマホの画面を見てチェックする緋影なのだが、その間に呪いの人形(ドール)はいつの間にかポーズを取っていた。


 スマホで写真を撮られることに対してめちゃくちゃノリノリな呪いの人形(ドール)なのである。


 もはや、緋影に完全に懐いている呪いの人形(ドール)がそこにいた。


「全部かわいい……さ、さすが俺の娘……って、そう言えば名前決めてなかったな……う~ん」


 緋影が呟いた娘という単語にピクッと反応した呪いの人形(ドール)なのである。人形(ドール)なので表情が変わるはずがなく無表情のはずなのに、めちゃくちゃ不満顔に見え、ドールアイもハイライトが消え、ヤンデレモードに入っているように見えなくもない。


 黒いオーラが呪いの人形(ドール)から溢れ出しており辺りの温度も下がっている。


 そう、この呪いの人形(ドール)緋影のことが大好きというか自分が緋影のお嫁さんになった気でいるのである。なので娘と言われたことに対して、むちゃくちゃ不服で不満なのだ。


 まぁ、対して緋影はネット知識と呪いの人形(ドール)を修復するにあたってお世話になったドール専門店の店員さんから人形(ドール)は自分の娘なのであるという言葉を受け、呪いの人形(ドール)のことを娘と言っているのだが、それでも気に入らないものは気に入らない呪いの人形(ドール)なのだ。


 娘じゃなく妻と心のかなで猛反論し、オッドアイのハイライトオフのドールアイと呪いのオーラで訴えるも、超絶鈍感な緋影に通じるわけもないのである。


「……う~ん」


 緋影は両腕を組んで瞳を閉じて呪いの人形(ドール)の名前を真剣に考えるていた。SNSで写真を上げるためにも自分の娘(ドール)に名前は必要であると考え数分悩みに悩んだ結果。


「……りんね……よし、りんねちゃんに決めた。」


 めちゃくちゃ不満ですという呪いの人形(ドール)をいきなり抱き上げ天に掲げながらそう言い放つ緋影なのである。


「我ながらいい感じの名前だ……りんねちゃん……うん語感もいい感じだな」


 突如命名された呪いの人形(ドール)改めりんねちゃんの反応はというと――――――どうやら満足そうな無表情である。緋影に抱きしめられながら、りんねちゃん可愛いぞと緋影に言われると、いつのまにか呪いのヤンデレモードから、ご主人様だいちゅきモードになっているりんねちゃんなのであった。


 数分間りんねちゃんを抱きしめ感極まっていた緋影だが、ハッと我に返り、りんねちゃんをテーブルに座らせる。ちょっと、不服そうな無表情のりんねちゃんは、緋影のことをいつの間にかジッと見ている。


 そんなりんねちゃんの視線に超絶鈍感な緋影が気づくはずもなく、地面に腰を下ろし、スマホを手に取る。


 そして、緋影はこの可愛さを世界に発信せねばという謎の使命感に駆られ、先ほど何枚も撮った呪いの人形(ドール)りんねちゃんの写真をSNSのアカウントを作り投稿したが――――――なぜか(当然)すぐにBANされたのだった。

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