第51話 洋館風の邸宅

かつてある福祉施設の施設長をしていた人物の家。


子どもたちが成人したのを機に、施設長夫妻はようやく家を建てた。

その施設のある小学校区の平地に。

典型的な、郊外の家。しかし、こじゃれた洋風の建物だった。


あるじ夫妻は揃ってその家に住み、あるじはそこから職場に通った。

やがて夫人は公職に立候補し、議員を3期務めた。

社会性という点においては、あの地では飛び抜けた人たちだった。

あの地だけではない。同業の人たちの中でも飛び抜けた人だった。


子はかすがいという。だが、息子2人は岡山に帰って来なかった。

進学校に進み、関東の大学に行き、そしてそちらで就職。

そもそもその福祉施設は、かのあるじの「家業」ではなかった。

半世紀その職場にいたとはいえ、あくまでも「稼業」にすぎなかったのだ。


夫人が議員になった程なく、諸般の問題が発生した。

夫妻は、離婚した。

そして、あるじは無一文になったという。

しかし程なく、奉仕団体関連で知り合った女性経営者と再婚した。


かのあるじの今の住みかは、あの学区の端の峠を越えた向こう。

そこは、路面電車も通う場所。電停から少し路地を入ったところ。

こじんまりとした一軒家に、あるじと夫人の表札が掲げられている。

あくまでも、対等な位置取りで。


かの施設に縁のあったある男性は、

ある時ふと思い立ち、その地をグーグルで検索してみた。

・・・・・・・ ・・・・・ ・

あのこじゃれた洋館は、すでに消滅していた。


しかし、その男性は、あるじの家庭は崩壊したとは思っていない。

氏いわく、それはそのあるじ一家の「発展的解消」なのであると。


そういうものなのだろうか?

でも、なんか図星感が半端ないのは、気のせいだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る