モンスターの仔

篤藤

序章

僕は今から何千回、何万回と使い古された文句を言おう。

 「小さい頃は自分の家のおかしさに気づけない」。

 僕は小さい頃に児童養護施設に入所した。最初僕は泣いていた。母親にまた会いたかった。例え僕のご飯を抜く母親だろうと、水をかけ締め出す母親だろうと。僕は母親に愛されたかった。どれだけ母親からの愛が痛かろうと。

 施設に面会に来る母親はまた一緒に暮らそう、そう言っていた。この時僕はこの言葉のおかしさに気づけなかった。

 僕は施設を出た後に酒前市にあるアパートに入居し、一年半そこで過ごした。そして五月七日に酒前市で震度七の地震が起きた。そして当時僕は諸般の事情で二日坂市の実家に帰省していた。そして五月八日、入場規制のしかれたスーパーから帰る時に母親はこう言った。

 「千景ちゃん、二日坂市に帰ってお母さんとお父さんと三人で暮らそうね」。僕は酒前市の暮らしで疲れていたのと、母親はもう生まれ変わったんだと信じてその言葉を肯定した。

 そしてそれが間違いだと僕は知る。

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