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書けない書けないっていうけど

辞書を見てごらんよ

「引く」んじゃない

「見る」んだよ

ぱらぱら見るだけでいい

君が使ったことのない言葉は何万とある


「減価償却」

使ったことあるかい?


「立錐の余地もない」

どういうことかな


さあこれでいくらでも書けるだろう

「減価償却で立錐の余地もない」ってね

なに言ってるかわからないけど


書けないんじゃなくて

書きたくないんだろう?

本当は

言葉から逃げて

ずっと唖でいたいんだ


「唖」って言葉もめっきり使わなくなった

差別がどうこうって

唖でない人たちが騒ぎまくってね

まあ「唖」なんて使わなくても

言葉は他にいくらでもあるけど


気に入る言葉が見つからないなら

自分でつくってしまえばいい

「ぶんぶんする」ってどうだい?

「借金が増えてぶんぶんするなあ」とか

「寝不足でぶんぶんだね」とか

意味がわからない?

なんとなくわかればいいんだよ


もう書くのはやめたらどうかな

何も書きたくないのなら

黙っていればいいと思うよ

無理に書くことはない

たとえ今日がしめきりでも

明日に延ばしてもらえばいいよ

明日が来たらそのまた明日に延ばしてもらう

そうしていつまでもしめきりを先延ばしするんだ

君が本当に書きたくなる日まで


そんな日はもう二度と来ないかもしれない

言葉は君の元を永久に去ったのかもしれない


君は本当は書きたいんだね?

それなのに何も書く気になれないんだ

何もかもがどうでもいいことに思えて

自分自身が一番どうでもいいものに思えて

それで沈黙してしまうんだ


君はその

沈黙を書きたいんじゃないかな

そんな矛盾した欲求を持ってしまうのが

いかにも君らしいじゃないか

でもそれは

ちょっと格好つけすぎじゃないかな


お酒飲んでさ

思ってもないことや

密かに思ってたことをさんざんわめき散らして

いい気になってた君

朝起きたとき

自分が空っぽなことに気づいて

吐きそうになっただろう?

昨晩はいくらでも言葉が出てきたのに

それらの言葉がぜんぶ無価値なのだとわかるんだ

君がこれまで書いてきた言葉

君がこれから書いていく言葉

ぜんぶガラクタだよ

沈黙を書くだなんて

そんな高尚なこと君には無理さ

ガラクタばかりつくってきた君には


希望なんてないよ

それでも書くんだ

君は怖がっているんだろう?

自分自身がガラクタなのだと認めるのを

認めちゃいなよ

三文文士でいいじゃないか

沈黙を書こうとして沈黙する芸術家より

ずっと愛嬌があっていいよ

もちろん僕は読まないけどね


それでも僕たちは友だちだよ

僕は君の書くものを読まないけど

君が書いている限り

僕はずっと君のそばにいる


なぜって?

それは僕こそが沈黙だからさ

沈黙って案外おしゃべりなんだよ

そんなこととっくにわかってるだろう

僕はずっと君の友だちなんだから

君が書こうとする限り

僕はいつもここにいる

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