【第29話】エルフ人の襲来

私たちは森の外で焚き火を囲んでいる。

採ってきた食材を口に、今後の動きを話し合う、


「お主ら、体の方は大丈夫かの?」


全員、今のところは問題ないらしい。

火傷も凍傷も、切傷も大きなものにならないそうだ。

一晩も寝たら治るとの事。


武器に関しては、ファーネが手入れをしてくれる。

魔道具は何も残っていないらしいが。


持ってきた食材にはまだ余裕があると。

まだ旅は続けられる、里にも帰れるだろう。


今度は、サラカントが運んでくれる事は無い。

一から山を登って降りないといけないのだ。

それでも、行きが楽になっただけマシだと言う。


「ゼンエンの奴、獄衆と言っておったの」


「あぁ、確かに言っておったな」


「と、いう事は…あと七人…」


「え、あんなやつがあと七人!?」


「恐らくの……一気に襲われたら堪らんの」


「なぁなぁ、あいつどこから来たん?」


「お?地面からの、突然に」


「え?」


「地面が割れたと思ったら、突然現れよった」


どうして私たちの居場所が分かったのか。

それに、おそらくだがギザール王の差金。

地獄とは一体何だ、私の世界と同じなのか。


それに、地面からという事は…

探し回って偶然見つけた感じとは言いにくい…

何か、私たちを探索する力でもあるのだろうか…


「分からんことがおおいの!」


「考えても無駄だわな!がはははっ!」


「ナディ、あの本は大丈夫そうかの?」


「はい、後は設備さえあれば大丈夫ですよ、腕の代わりはファーネがいますので問題ないです」


「ほう、なら安心じゃない」


「うん!任せといて!」


ここからは、私の大仕事だ。

戒族の技術の復活に向けて、この知識を…全て。



すると、センサーに何者かが引っかかる。


「みなさん、森の中から人が!」


全員が、私の視線の方向へと顔を向ける。


「音も気配も何もないではないか…」


「しっ、ナディは間違いないからの」


全員が武器を構える。

人である事は確かだが、何者かは分からない。

敵なのか、味方なのか……。


「そこにいるのは分かっておる!何者じゃ!?」


出てくる気配も、反応もない。

ずっと動かずにそこにいてるのだ。


「おい、クベア」


「はいさっ《風ノ魔弾ウィンド・バレット》っ!」


風の塊が、その人の方向へ放たれる。

牽制のつもりなので、威力も抑えてる。


「うぉあっ!?」


ようやく森の中から声が聞こえる。

やはり、何者かがそこにいる。


「ほれ!分かっておると言ったじゃろ!」


「はいはい!すいやせん!降参っす!」


中から手を上げながら出てくる。

一人だけらしい、見た目は男だが。

人族の容姿に近い。


違いがあるとすれば、細長い耳ぐらいだろうか。


「人族か!お主ら、まだ潜んでいるやもしれぬ!」


「コハク、近くにいるのは確かに一人だけです!奥の方に潜められていら分かりませんが」


「偵察だろうな…マズいぞ…」


「はいはーい!ストーップ!!降参っす!!」


「油断するな!罠じゃ!!」


すると、男は手に持った弓と矢筒をこちらに投げる。

懐にしまってあったナイフでさえ。


「なんのつもりじゃ!!」


「だから降参っすて!ほら!武器ないっしょ!」


「信じるか!お前らはいつもそうやって!」


「それに、人族っすけど人族じゃないっす!」


「何を訳の分からぬ事を…」


コハクが先に飛び出す。

鞘から抜いた刀を、首元目掛け振り出す。


ただ、寸前で止めた。


「本当に何のつもりじゃ?」


「言ったっしょ?降参っす」


刃を喉元に突きつけ、暫く膠着する。

そして、コハクは刀を鞘に納める。

私たちも何が起こったのか、二人に近寄る。


「武器は預かるがよいな?」


「かまわんよ、じゃないと僕と話さえしてくれないでしょ?」


「との事じゃ、ファーネしばらく預かってくれ」


「わ、分かった…」


「さて、話しとはなんじゃ?」


「おーけ、おーけ、とりあえずその目はやめない?凄く怖いんだけど??」


「信用したわけじゃない、我慢しろ」


「分かったよ……俺は【サルーン】、ご存知の通り人族の“エルフ人”だよ」


「な、やはり人族か!?」


「違う違う!そこも説明するからさ!」


サルーンの話しによると、人族中でもヒューマ人、ドワーフ人、エルフ人と分かれているそうだ。

ヒューマ人が、私たちを滅ぼさんとしている。

ドワーフ人は興味なく、武器さえ作れればいいと。


そして、エルフ人は現状に反対している。

ヒューマ人とは敵対関係にあるとの事。


「同じ人族同士じゃろうて?」


「一緒にして欲しくないね!あんな野蛮な連中、強いて言うなら、僕たちはエルフ族だね!」


「それで…何故ここにおる、何故隠れておった」


「ん〜?そ、こ」


クベアの方を指差す。


「な、え、僕!?」


「ううん違うよ、君の待つの気配…それに、向こうの方にあるそれの残り香だね…」


「分かるのか?」


「勿論っ、僕たちは自然と共に生き、自然と共にある、その自然を司る存在は分かるよー」


「なんじゃそれは?」


それが、ヒューマ人と敵対する理由らしい。

エルフ人は自然の中で、共存しながら生きてると。

五原である、火・風・土・電・水をとても大切にしており、それらを司る最上の龍種は神の如く崇める。


それらを無情にも壊さんとする、行いに反発。

今日に至るまで敵対し続けていると。


「なるほどの…話しは分かった…」


「そそそ、ありがとね、それに隠れて様子を見ていたんだよ、何者なのか、何故風龍様の気配を感じるか」


「それは、これかな?」


クベアが鱗と爪を取り出し見せる。

それを見た目は、大きく見開いていた。


「…なっ……これ……」


やはり凄い物なのだろう。

まぁ、神様の鱗や爪があるのだ、驚きもする。


「触ってもいいかい?」


「だ、め、じゃ」


「そんなーっ!!」


地面に倒れ込むほど落ち込んだ。

その場でうなだれる程に。


「いいかい、稀に鱗ははある、それでも数十年に一度といった稀なことだ」


「うむ、聞いた事はあるの、拾えば幸運を呼ぶと」


「幸運てもんじゃ済まないけどね…その身に滲みているはずだろ?」


「う、うん」


突然立ち上がり声を上げる。


「その中でもこれは素晴らしい!まさに剥がれた直後の鱗を拾ったような!それに爪は見た事がない!」


「おい、おい」


タルトーが肩を叩く。

振り返るとさらに驚いていた。


タルトーの手にはゴルマイガの鱗と爪が。


「ど、どどどどどど土龍様ぁ!?」


驚きは暫く続く、少し面白くなってきた。

周りは少しだけ引いていたが。


「お、おほんっ」


「もうええかの?」


「すまない、取り乱しました」


「話しの続きじゃが…」


「その鱗や爪は拾った物ではないですね?」


「うむ」


「…かしこまりました、僕についてきてください」


「信用ならなぬ、そのお主についていけと?」


「…それもそうですね」


サルーンは手を口に当てて笛を吹く。

かなり大きい音が森中に響き渡る。


すると、森の中から10人ほどのエルフ人が姿を現す。

私のセンサー範囲外に潜んでいたようだ。


「大丈夫ですよ皆さん、これで手の内は晒しました」


「やはり潜んであったかの…」


「そりゃそうです、念の為ですからね」


「だから信用しろと?」


「いえ、あなた方の境遇は存じています、この状況で無条件に信用しろと言っても無理な話しでしょう」


「分かっておるの」


「なので、手の内を晒すので、ついてきてください」


「…断れば?」


「その時は…そうですね……」


全員が固唾を飲む。

最悪は無理やり連れて行かれる可能性もある。

一方的とはさせないが、この数の差は厳しい。


向こうも手練れが多いように見受けられる。

こちらは既に限界を迎えている。

見栄を張りながら、武器を構えるだけだ。


「諦めます」


「諦めるとな?」


「はい、諦めます」


「ふふふっ、そうか諦めるか…」


「はい、無理矢理連れて行っても意味がない、それに龍種様の恩恵を賜った人達に失礼な扱いは出来ません」


「わかった、ついて行こうぞ」


「ありがとうございます」


「皆も構わなな?」


全員が、コハクの決めた事ならと。

満場一致でエルフ人についていく事にする。


森の中でどこに案内されるかは不明だが、悪いようにはされないらしい。

そこだけは、信用してもいいのか。


「では、僕たちの王女へ謁見して頂きます」


「いきなりじゃの…」


「それほどの事ですから…」


私たちは火を消し、支度を整える。

案内される森の中へ入るために。

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