【第8話】禁術と代償

魔の森から戻り、大量の素材が手に入った。

入国の際には、かなりの量を運んでいたので、少し手間取ったが無事に入る事ができた。


途中何度か休憩を挟む事を提案したが、ラクーンには聞き入れて貰えなかった。

無理している様子だが、一刻も早く届けたいという事だろう。

改めて、私が素材を多く持つ事にし、タルトーの工房へと向かう。


工房へと到着する頃には、辺りも暗くなり満天の星空が広がっていた。

星の綺麗さはこの世界でも変わらないようだ。

ラクーンも夜空を見上げ、想いに耽っている。


「おいおいおい、こりゃたまげた」


こちらへとタルトーが歩いてくる。

予想もしなかった、大量の素材を前に驚く。


「早さもそうだが、この量…カクレインでかかったろ、ようお前ら2人でたお…」


ラクーンの顔を見て何かを察する。

手には、握っていたはずの杖が無いことも。


「また…無茶をしたな」


「へっ、平気だよ、それより頼むわ」


「お前ってやつは…待ってろ!取り掛かる!」


素材を全て抱え、タルトーは工房へと消える。

どうやら、大急ぎで作ってくれるそうだ。

早くて明後日には出来上がるとの事で、改めて取りに来る事を約束する。


「あっ!そうだラクーン!あの杖な…コハク用に作っていた物だからな!がはははっ!」


「うげぇマジっすか…どんだけ重ねるんだ…」


「がはははっ!諦めな!」


それだけを言い残し、工房の中へと戻る。

とりあえず、明後日まで時間ができた。私はラクーンと共に家へ帰ろうとする。


「今日、エネルギー結構使ったろ?」


「いえ、まだ余裕があります。減ったのは4割ぐらいでしょうか。家に帰って身の回りの事は出来ます」


「取り敢えず、今日からはライタのとこにお世話になっとけ、明後日には十分な状態にしたい」


「それなら、また明日にでも行けば…」


「大丈夫、大丈夫!こっちも色々あるしさ!」


「いや、しかし…」


そう言いかけると、足早に走り去っていく。

体調が心配なので、食事などの必要最低限の事はしたかったのだが。

私は言われた通りにライタの元へと向かう。





「はぁ…はぁ… ぐっ!…」


ラクーンはしばらく走った後、通路の影に隠れる。

激しい痛みを抑えながら、その場でしゃがむ。


「まだだ…まだ大丈夫。俺はやれる…」


これから起こす事に、気持ちを向けながら。

身を焦がすほどの痛みと、その思いを抱える。




私は扉をノックし、ライタの名前を呼ぶ。


「やぁ!いらっしゃい、1人で来たのかい?」


「はい」


「入りなよ、丁度いいね、僕も聞きたい事があるし」


中に入ると見覚えのある女性が座っていた。

金色の髪を揺らし、ワインを飲んでいた。


「おや、よう来なすった、入りなよ」


私は2人に案内され、席へとつく。

2人は食事をしながら、話しをしていたようだ。

今日の経緯を話すようにと言われた。

魔道具の作成を依頼し、素材収集の為、魔の森に入った事。

王燐(異世界人)がいた事、ラクーンが三重術式(サージカルトロワ)を使った事。

そして、明日までの間ここにいるよう言われた事も含めて。


撮っていた映像を元に、2人に話しをする。


「なるほどの、光の力はまだ完全じゃ無い」


「凄いねぇこれ、見たまんまが記録されるんだろ、非常にわかりやすかったよ……ラクーンの事もね」


意味深に呟く、コハクも同調するかのように。


「ラクーンは大丈夫でしょうか?別れる間際も辛そうにしていたので」


「お主も見たはずじゃ、あの三重術式トロワオペレーションは身体に負荷をかけて発動する代物」

「術式とは…聞いたかもしれんが、特定の言葉を唱え、事象をイメージする。そして、それを発動。いたってシンプルな物じゃが…その、発動した際の力の源はどこから来てると思う?」


確かに、杖を必要とせずに発動するという事は、自分の中に力の源があるという事なのか。

全種族に、共通してある物とはなんだろう?


「ふふっ、今、全種族が共通しているものを考えているだろう? ざんねん…正解は魔心でした〜」


「人族に魔心は無いのでは?」


現在、人族は3つの種族に分かれているらしい。

エルフ人、ドワーフ人、ヒューマ人。

主に、術式を使うのはヒューマ人との事だ。

昨日城にいた人は全員、ヒューマ人らしい。


「まさに今、その話をしていたのさっ」


人族はかねてより、術式の有無で劣等感を抱いていた、その現状を打破すべく編み出された。

【魔心錫杖】との事。

言葉の通り、魔心を用いた錫杖だ。

つまり…殺して奪うのだ、他種族から魔心を。


「妾たちの魔心はな、過負荷を与えなければ問題ない」


「負荷を与え続ければ、…という事ですね」


「そう、だから僕たちは、杖を使って威力を上げるのと同時に、負担を減らしてるんだけど」


「それでは、私は術式を使えないのですね」


「そうじゃな、お主には魔心がない」


「魔心は封印されているのでは?」


「封印されてるのは魔顕であって、魔心ではないのよ〜、種族の王…僕たちからしたら起源とも呼べる魔王心によって力の恩恵を預かれる力だからね」


「なるほど…」


そして、改めて考える。

明後日からの魔王心奪還作戦の折、私は守られているだけの存在に終わるのか…と。

探索を主としながらも、また負担を与えるのではと。


暫く考え、2人に尋ねる。


「ライタのエレクトですが、この力を通しやすくする素材などはありますか?」


2人は目を見合わせる。


「何に使うんだい?」


「魔道具を依頼しようかなと、私の武器として。今のままでは皆様に守られるだけです」


「ライタよ、お主のをあげたらどうじゃ?」


「そうですね、私のであれば手軽ですし」


そう言うと、《 元原リターンオリジン 》と唱え、元の姿へと戻していく。

現れたその姿は、背中や腕の後ろなどに、大きく鋭利な針が無数に生えていた。


「この、僕の針なら素材に十分だと思うよ。あくまでも通しやすいもの、とだけで大丈夫なんだよね?」


「えぇ、問題ないのですが、その…」


「大丈夫、大丈夫〜すぐに生えてくるし、僕はこいつを投げたりして使ってるからね〜」


彼は体の針を何本か抜き、私に渡してくれた。

大きさのわりに重く、かなり硬い針だ。

先端はかなり鋭く、易々と突き刺さりそうだ。


「試してみても?」


「もちろんっ」


私は手のひらを開き、中心の丸い金属版に、針が触れるように握る。

体内エネルギーを手のひらへと送り、金属板から電力を流すように操作する。

すると、針がバチバチと音を立て光り出す。

どうやら、電気伝導は問題ないようだ。

これを持ちやすいように加工してもらえば、私の武器が出来上がる。

電気を流すのを止めてみると、帯電しているのか、光が消える事はない。

暫くすると、光は消え元の針に戻る。


(一定時間までは帯電するのか…)


「お主、術式が使えたのか?」


「いえ、これはライタより頂いたエレクトをこの手のひらにある丸い板から放出しただけです。なので、私自身が生み出したものではありません」


「ふぅ〜ん…?面白いね!僕と同じ戦い方が出来るわけだ!なら、一つアドバイス。僕の針は特別でね、2本の針が一定距離内にあると、点と点を結ぶようにエレクトが繋がるんだよ」


針に電気を流し、実演する。

なるほど、面白そうだ。

使い方次第では戦略の幅が広がる。

明日にでも、魔の森で試してみる事にする。

1人は危険との事で、コハクが同行してくれるようだ、私の力を把握するという意味もあるらしい。


《ザザッ 『イイナ』 ザッ…『モット』》

《ザザッザッ 『タタカウ』 ーザザザ… 》


まただ、また変なノイズが走る。

以前より言葉が鮮明になってる気がする。


「どうしたのじゃ?大丈夫かの?」


「姉御と行くのが嫌になったんじゃないの〜」


「そ、そんな事ない!失礼じゃ!のうナディ」


「はい、もちろんです。ありがとうございます」


「ほらの!嫌ではなかろうて!」


「えぇ〜?お世辞じゃないの〜?」


いつもと同じく、ノイズが薄れていく。

まるで誰かが喋りかけているような。

意識を向けると、飲み込まれていきそうな。


そんな事を抱えながら、今日も1日が終わる。

2人の笑い声に救われるかのように-




「はぁ……はぁ… っふぅー…」


やっと家に辿り着いた。

あれから、胸の痛みが和らぐまで、その場で休憩していた。


入ると、ソファーに倒れ込むように、崩れる。


「あぁーっ!痛ったいなぁ!もぉ!!!」

「仕方ないじゃん!やっと念願の!!」


痛みを吐き出すかのように叫んだ。

胸元を引っ張ると胸には亀裂が入っていた。

無茶をするたびに大きくなっている。

以前、コハクとライタには相談したが、治療法はないらしい。

タルトーにも、負担を軽減する魔道具を依頼したが、思うようには行かなかった。


三重術式トロワオペレーションは命を削る術式として禁術扱いになっていると有名だったそうで、初めて使った日はこってり怒られたっけ。


「はははっ… はぁー…頑張ってるよな…俺…」


「大丈夫、負けるな…もう少しだから」


痛みが引いてきたのか、目を閉じ眠りにつく。

今日はもう何もする気力がない。

ナディの方は上手くやれているだろうか?

ライタなら、あんなテンションだが、やる事はしっかりやる奴なので安心できる。


そんな事を考え、意識が落ちていくのを感じていく。

俺はそのまま深い眠りへと落ちていく。


皆んなが笑って、ありのままの姿ですごしている光景を夢に見ながら。

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