episode19 学院祭
飛行魔法――
それは緻密な魔力制御を駆使して行われる高度魔法の一つである。
習得すれば高度10数mから徐々に高度を下げながら、飛行距離20数mの移動を素早く行うことができる。
――というのが飛行魔法の概要だ。
……それ飛行やない、滑空や。
なるほど、だから今まで飛行魔法を使えばいいんじゃない? とか言われなかったわけだ。
この魔法はかなりセンスが要求されるのに、効果があまりにもショボい。
これができるんなら別の魔法を覚えたいと考えてしまうのも頷ける。
でもそうかぁ……この世界の飛行魔法はこんな程度なのかぁ……
寂しいな……もっと簡単に且つ遠くに飛べたら、今建造中の船との行き来ができるのに。
……ん? 待てよ?
俺が今作ろうとしているのはなんだったか?
……魔動モーターだよな?
「じゃあアレが作れるんじゃね?」
というわけで、俺は本を元あった本棚へ返すと足早にホテルへと戻った。
――
――
――
翌日――
「……君、徹夜したね? 隈ができてるよ」
「……」
ルイさんの顔が見れない。
どんな言い訳をしても、仕事してたようなもんだから。
「休めと言ったのに……」
「いや! すごいゆっくりできましたよ!? でもそのおかげでアイデアが浮かんじゃったっていうかなんていうか!!」
額を抑えるルイさんに休んでいたことを伝えるが、相手から見れば仕事してるように聞こえるだろう。
つまりは墓穴を掘った。
「まぁお父さん。いいではありませんか。本人のいう通り、こうして王都に来てリラックスできたからこそ、アイデアが浮かんだのでしょうし」
しかし、呆れ返るルイさんの隣に立つ女性がフォローしてくれた。
こちらの女性はシルヴィア・ラザフォード。
ルイさんの奥さんにしてシャーリーの母親だ。
……うむ、いくらこの世界の子供を産む年齢が低いからって若すぎない?
シャーリーは綺麗系だが、こちらのシルヴィアさんは可愛い系だ。
正直姉妹と言われても信じる。
「そうかもしれんが……」
「ほらほら、お説教はここまでにして入場しましょう?」
そう言ってシルヴィアさんがルイさんの背を押す。
その最中、俺の方を向いてウィンクをしてくれた。
助け舟を出してくれたらしい。
俺はシルヴィアさんに、お辞儀で感謝を示した。
その後、シャーリーからもらった招待状を学院の受付に見せて入場する。
流石は国内最高峰の教育機関。
建物がかなりデカい。
他にも体育館のような建物が複数見受けられる。
もしかして……魔法演習場とかかな?
屋外とかじゃないのか?
雨天でも練習できるようになってるのかな?
「いらっしゃい、パパ、ママ!」
俺がキョロキョロしていたら、シャーリーが合流していた。
会えたことが嬉しいのか、シルヴィアさんに抱きついている。
ひとしきり会話をした後、シャーリーが俺の方を向いた。
「ようこそ、ヘラスロク高等魔法学院へ。どう?」
「どうとは?」
まだ中も入ってないのに何を言えば……
「えと……すごく、大きいです」
「それだけ!?」
「まだ中入ってないんだから感想も何もねぇだろ!!」
規模くらいしか褒められんわ!!
「まぁ、一理あるわね」
「急に落ち着くなよ……ところでいつもの二人は? 一緒じゃないのか?」
いつもの二人とはエレナとカレンのことである。
その二人の姿が見えないからどうしたのか気になって聞いてみた。
「あの二人も今ご両親を迎えに行ってるわ」
「そっか」
シャーリーがこうして来てるんだからそれもそうだ。
「高等魔法学院の学祭って何やってんだ?」
キョロキョロと見渡すが、さっきから露店の姿が一つもない。
まぁ、異世界だから前世の文化祭と比べても意味ないと思うけど。
「研究会とかは研究成果の発表とかがメインだけど、クラスはそれぞれ好きなことをしてるわ。喫茶店だったりゲーム大会を開いたり」
「へぇ」
思ってたよりも普通だった。前世知識と比べて。
でもそうなると露店がないのが不思議だな。
「露店とか出さないの?」
「教室が沢山あるからそっちでお店を開いてるのよ」
「そんなに部屋があるんだ……」
まぁ、外見からしてデカいしな。
「それで、シャーリーのクラスは何してんの?」
「唐揚げを売ってるわ」
「……あっそう」
庶民的ぃ!!
「ここで話してても始まらないわ。早く行きましょ! じゃあパパ、ママ、あとでね!!」
「ちょっ!? 待て!! 引っ張るな!!」
この子案外力強い!
――
――
――
「ふふっ、私達は眼中にないみたいね」
「うぅ……娘が遠くに……」
「あなた、そろそろ子離れしなさいな」
◆
ヘラスロク高等魔法学院は、国内最高峰の教育機関である。
何回も紹介したが、俺が知っているのはこれくらいで、実態はどんなものかは知らなかった。
格式が高そうな……なんていうかインテリな人達が集う場所なのだろうと勝手なイメージを持っていたが――
「クレープいかがですかー!!」
「仮装喫茶を開いてます! 御休憩にどうぞー!!」
「的当てゲームやってまーす!! 高得点の方には景品がありまーす!!」
校舎に足を踏み入れると客を呼ぶ声が至る所から聞こえる。
うむ、前世で見たことあるような光景だ。
……思ってたんと違う。
「なんていうか……普通だな」
「学祭に何求めてるのよ。……もしかして研究発表ばかりだと思ってた?」
「えっ!? いやぁ……」
正直、そう思ってた。
「そんなのつまらないでしょ? 一般の人達も招き入れるんだから。それにそれをしてたとしても、アーサーじゃ物足りないんじゃない?」
「それは買い被り過ぎ」
知らないことなんてごまんとあるのに。
「ところでどう? 私達のクラスの唐揚げ」
「美味しいよ。綺麗に揚がってる」
油がベチャつくこともなく、焦げることもなく、中に火が入りきっていないこともない。
味付けもしっかりされていて、かなり満足感がある。
「これを出せるようになったのもアーサーのおかげなのよ」
「えっ? 俺?」
なにか関与したか?
「アーサーが魔導コンロを開発してくれたおかげで、どこでも調理ができるようになったからね。それがなかった時は、飲食を提供できるのは各学年一クラスくらいだったらしいわ。私が入学した時には既にこの形だったけど」
と言ってシャーリーは唐揚げを一つ頬張った。
なるほど、それで俺のおかげか。
確かに発表物ばっかで飲食ほぼなしじゃ、集客難しいイメージあんな。学祭で。
「――と、着いたわ」
シャーリーが案内してくれたのは研究棟……いわば部室棟のようなものだが、側から見れば校舎のように見える。
この棟の部屋は全て研究会が使用しているとのことで、学祭期間は客を招く為に片付けられ、着飾られているとのことだった。
……普段は汚いってことなのかな?
で、なぜ俺はここに案内されたのかというと――
「アーサー君! 待ってたよぉ!!」
「おう、カレン。久しぶり」
カレンの所属する魔道具研究会の展示を見る為だった。
中に入るとカレンが出迎えてくれた。
ざっと見渡すと、様々な魔道具がテーブルに並べられていて、それぞれに説明文を記載した看板が横に立てられている。
変に緊張した会長や会員の人達と挨拶した後、展示物の魔道具を見させてもらった。
生活用魔道具も置いてあったが、殆どが戦闘用魔道具で、防具だったり、剣だったりといったものが展示されていた。
「そういえばアーサー君って戦闘用魔道具は作らないの?」
「うーん……興味ないからなぁ」
剣に炎を纏わせたりするくらいなら魔法を撃った方がいいと思うし、そうなると俺の作る戦闘用魔道具は「魔法を撃つことができる杖」とかになりそう。
それを作ってしまったら「魔法士いらなくね?」ってなりそうだし、そうなったら職を追われる人が出てきそうだから作らない。
「そっか。アーサー君の作る魔道具は平和的なものばかりだもんね」
「そうでもないぞ」
それこそ電子レーザー溶接機は、その技術を応用すれば、ラ●トセーバーみたいなの作れるし。
「そうなの?」
「俺の作った魔道具の技術を応用すれば攻撃に転用できないこともないものもあるし、工夫や使い方次第だよ」
潜水艇だって前世では一番最初に運用されたものは戦闘用……潜水艦の技術を応用している形だし、それが今世では前後しているだけだ。
もしかしたら、政府の中で「あれ? これ使えば外国の海域にバレずに忍び込めるんじゃね?」って考える人が既にいるかもしれない。
包丁ですら、普通は調理目的だが、使い方次第で人殺しの道具になる。
「道具は生活をより豊かにするものだが、使い方次第で人の命を脅かすものになることもある。作ってはい終わりではなく、開発者としてその先も責任を負わないとな。カレンも気をつけろ」
「は、はい! わかりました!!」
何故かかしこまった返事をされた。
まぁ、それはそれとしてだ。
剣とか実物初めて見たんですけどー!!
テンション上がるわぁ。
これ実用だよな! レプリカとかじゃないよな!!
俺、刀とか好きだったんだよね。
実際に斬ってみたいとかはないんだけど。怖いし。
「実際に魔法剣っていうのか? こういうのって実戦配備されてたりするの?」
「全然だよ。配備するにしても大量生産できないし、一本一本手作業で魔法付与するからコストがかかるし、それだけのコストをかけても……その……」
「効果がショボいし?」
言いづらそうにしていたカレンの代わりに答えるとコクリとカレンは頷いた。
へぇ、魔法剣の魔法って効果ショボいんだ。
「ここに展示してるのってどんな魔法が付与されてるんだ?」
「下に説明文あるわよ」
「あっ、そうだった」
シャーリーに言われて思い出した。
どうもテンションが上がりすぎてたらしい。
なになに……
「防錆、疲労防止……壊れないようにするための付与ばっかりだな。炎魔法とかは付与しないの?」
「そんなの付与しても剣士が炎を操れないのよ。剣士が魔法士だったら問題ないけど、そんな人いないしね」
「そうなのか?」
「そりゃ、探したらいるかもしれないけれど、大体の人は魔法の才がないから剣士になるし、剣の才がないから魔法士になるって人ばかりだからね。剣も魔法も使える人は、オーダーメイドでそういう剣を作ってもらってるんじゃない?」
「ほうほう」
つまりは需要が極めて限定だと。
だから、こういう付与をするのが一番ってことか。
「いいじゃん。鋼の金属疲労を止めるとか最高じゃないか。なんでこれが大量生産できないの? 結構いいと思うけど」
「……それアーサー君だから言えるんだよ」
「へ?」
「あんたね……これ結構すごい付与なのよ?」
「会長が金属のこといっぱい勉強してやっと疲労防止の付与ができたんだよ? 普通の付与魔法士じゃ、こうはいかないよ」
「……マジ?」
そんなに高度な付与だったのか……さすが国内最高峰の教育機関。
でも確かに冶金知識がないと金属疲労の計算ってできないしなぁ。
「そうだったのか。俺の知識不足だったわ」
「……私はアーサー君も知らないことがあるんだって思って安心したよ」
「なんだよそれ」
知らないことの方が多いよ。当たり前だろ。
「あっ、そうだ! 私のクラスの店に行かない?」
「どうした急に」
カレンが手を叩いて、そんなことを言った。
「私のクラスってクレープを売ってるんだよ」
「そうなのか」
なんか呼び込んでた人いたな。
もしかしたらあの人のクラスがカレンのクラスなのかも。
「それでね、今の時間を担当しているのがシンシアだから会いに行かない?」
「おっ、そうだな」
屋敷で働いてもらうんだから顔合わせくらいしておかないとな。
――
――
――
ってな訳でカレンのクラスへやってきた。
学祭だからか、メニューはそんなに多くはなく、バナナチョコとかホイップバニラアイスとか、シンプルなものだった。
「シンシアー! いるー?」
「はーい」
カレンが呼びかけたら、亜麻色の長い髪の女の子がやってきた。
そうか、この子が――
「顔を合わせては初めてですね。改めまして、アーサー・クレイヴスです」
「あっ、はい! 初めまして! シンシア・アンカースです」
ぺこりと頭を下げたあと、俺が差し出した手を取ってくれた。
「今学期までは在学すると聞いています。悔いのないように学院生活を過ごして、我が家へいらしてください」
「は、はい! 可能な限り学んで、アーサーさんのお役に立てるように頑張ります!!」
むんっと気合いを入れるシンシアさん。
なんだか……小動物っぽい印象を受けるな。
「あとでで良いのでアーサーさんの家の住所を教えてもらって良いですか? 荷物を送る際に必要だと思いますので」
「ん? 何か送る予定が?」
なんかあるのだろうか?
「えっ? 自分の荷物ですけど……」
「……ん?」
自分の……荷物?
俺がクエスチョンマークを頭に浮かべていると、シャーリーが肩をちょんちょんと指でつついてきた。
「あんた何言ってるのよ? メイドなんだから住み込みに決まってるじゃない」
「……えっ?」
住み……込み?
「メイドや執事は住み込みが普通なの。まさか通ってくるとか思ってたんじゃないでしょうね?」
「通いじゃねぇの!?」
じゃあ、この冬からこの子と一緒に住むの!?
そんなの聞いてないよ!?
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