第39話 放送

「なんだよ、ここはよぉ!!!!!!」


 おかしい。俺は昨日は普通に寝たはずだ。

 ミルティアとの酷い冒険を終えてエフリードの街に帰ってきた俺。


 あらためてギルドで活動する宣言をして、元パーティーの様子を聞いて驚いた。

 あいつらランク降格して別の街で捕まって奴隷になったらしい。

 

 は?なにやってんだ?

 と思ったけど、聞いてみたらフロストウッドガーディアンを怒らせたのはガーロンたちらしい。


 は?なにやってんだ?(アゲイン)

 あいつらそんなバカだっただろうか……さすがにちょっと引いた。

 もっと詳しく聞いたらガーロンとトージは奴隷になったらしい。

 

 あと、リーゼルはフロストウッドガーディアンが出現した場所で気絶してたんだとさ。

 フロストウッドガーディアンに関わらず、ただ無理やり連れていかれただけのようだから罪には問われていなくて、神殿入りして修業してるらしい。

 

 なんか寂しいな……。


 

 

 しかし、なんだよここは。真っ白な部屋の中……まさか。


「あぁ、アナト!やっと来たね。待ちくたびれたよ、もぉ~~~」

「よく来た……アナト……」

 見慣れたヘンテコなオレンジ頭の馴染みの声と、まさに天上の女神だと俺の全耳が感動の涙を流しそうな美しき声。


「こんにちは、戯神様!1か月ぶりですね!」

 そして挨拶する俺。


「アホアナト!そこはまずボクに挨拶すべきだろ~!!!!」

 遊神が偉そうに俺に文句を言ってくる。

 

「あぁ、いたのか。久しぶりだな……ぎゃあぁぁあああああ」

 バカミルティアが俺に電撃を放つが

「遊神……」

「あっ」

 なんと戯神様が止めてくれる。


「ありがとうございます、戯神様!」

 俺は戯神様の手を取って感謝すると、戯神様も少しだけ握り返してくれた。

 これはまさか……。

 

「むぅ~~」

 それに膨れるミルティア。邪魔しないでもらいたい!!


「賑やか……。遊神……楽しそう……」

「戯神……」

 天上の音楽のような音色……何度聞いてもなんて素敵なお声なんだ、と思いながら俺は戯神様の聞いていた。

 

「遊神……ミルティア?」

「え?あぁ、うん、そうだよ。ミルティア・アベンディアだよ!」

 戯神様の質問に答えるミルティアだが、こいつそんな名前だったんだっけ?


「では……私……フルティア・アベンディア……」

「なんと美しい響き。清純で、それでいて豊潤で、かつ落ち着きがある名前(うっとり)……いてぇ、何すんだよバカミルティア!」

 戯神様を讃えていたらミルティアに叩かれた。

 

「魅了されてるよ!まったくもう」

 戯神様になら魅了されてもかまわない……。

 

 

「戯神!常時発動だと思うけどアナトと一緒の時は切ってくれるないかな!?」

「はい……」

 うん……何か変わった?相変わらず美しい女神様が俺の目の前に1人いるけど……。

 

「そろそろ……時間……」

「あぁ、もうそんな時間?アナト来て!一緒に見よう」

「はぁ?」

 俺はミルティアに腕を取られ、引っ張られて戯神様の部屋に入っていく。

 なにも当たらないんだが……。


 

 すると、そこには大きな四角い板が貼ってある壁……なんだこれ?


 そしてそこに映し出される文字……『オルハレスト大陸横断の旅~"おしり"からの解放を求めて~』。

 まさか……。


「始まるね♪」


 それは俺とミルティアの旅だった。


 のぉぉおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!


 恥ずかしい!恥ずかしいぞこれ!!!!!!


 

 * * * * * *

 

『さぁ、旅立ちを決意した剣士アナト!彼が向かう先には何が待っているのか?こうご期待!!!!!!!』

 恥ずかしすぎるぞ……。

 

『そうして2人……いや、1人と1柱の旅が始まる。戯神の"お尻"に挟まれた哀れな剣士アナトとそれを助ける心優しき美少女神ミルティア。ボク達の旅の先に待つものは何か……。こうご期待!!!』

 これは最初のころだな。もうなんか既に懐かしい。

 

 

『虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫!!!!!!!!!!!』

 いや、これいるか?俺が怖がってる絵に何の需要があるんだよ。


 

『だからこそこれは試練だ。我の最後の攻撃だ、受けてみよ!』

 おいおいおいおい!グロっ!!!

 手足はちぎれてるし、体は焼けてるし、死ぬ寸前じゃねぇ~か!!!

 あの太っちょ大モグラの攻撃やばいだろ!


 

<< テレレㇾレッテッテ~~~。アナトは武器"自称美少女女神ミルティア"を手に入れた >>

「あっはっはっはっはっはっは、ウケる!!!ぎゃ~~~~~」

「死ねアナト!」

 電撃やめて……。

 

『グオォォオオオオ』

 あれは高エネルギー結晶をぶつけても立っていた神獣様から逃げようとしてるのかな?

 あわててミルティアを抱き上げて逃げようとする俺。

 すぐにもたついて転んでしまった。

 

「アナトあの時すっごい焦ってたよね~~~いたぁ」

 俺はチャカしてくるミルティアを無言で殴る。必死だったんだからな。

 

 

『幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い』

 またかよって、あの白い靄は冥神様のせいだったのかよ!!!

『ぐぉ、やっ、やめろ!戯神!ぐぉ……!?』

 ナイスだ戯神様!

 女神に首を絞められるクソおやじの絵はキレイじゃないけど、スカッとしたぜ!!!

 

『食らえ。終末の咆哮を。グオォォオォオオオォォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』

 すげ~カッコいい!

 


『……ってアホアナト~~~なんで裸なのさ!』

「きゃ~~~」

 いや、そこはもうやめて……。

「アナト……」

 戯神様ここだけ声を出すのはなぜ……?


『すみません、アナトさんと仰いましたか。あの、その……』

『いえ、外してくださってありがとうございます。その……うごぉっ!』

 えぇ、ここも!?

 "おしり"から外してる戯神様はセクシー……

「アナト?(怒)」

 はいごめんなさい。

 

 ~~エンドロール~~

 終わりかよ!最後俺がただのエロガキみたいじゃないか!!!!

 

 * * * * * *

 




「あはははは、楽しかったね~」

「ぐぅ……」

 自分の恥ずかしい姿が満載の旅路をぱっと見かわいい、またはキレイな女の子たちと鑑賞させられるという衝撃の事態に動けない俺……。


「それで?なんなんだよ、これ?」

「ミルティア、アナトさんにそもそも説明をしていないのでは?」

「あっ……」

 あっ、じゃね~よ。

 これが神様向けの娯楽の旅ドキュメンタリーってのは前に聞いたけど、やっぱり意味わかんね~よ!


「え~とね。今回の企画はこの前戯神が話した通り旅ドキュメンタリーなんだけどね。その時その時の配信と、こうやって編集した形で流す番組と2つを予定してたんだ」

「なるほど……わかりたくないけどなるほど」

「神様達がわいわい騒いでてアナトにスキル教本とか投げたりしていたのが配信ね。で、今日見たのが番組の方だね」

 どういう仕組みでそんなものが出来上がるのかわからないし、何を楽しんでるんだと文句を言いたい気分だ。

 要するに包み隠さず神様達に見られて笑われてたと……なんかムカついてきたな。


「とても……楽しかった……」

「戯神様に楽しんでいただけたなら本望です!」

 俺の感情なんてポイッ。


「アナト……」



 パラパパパ〜ン!チャララ〜ンッ♪

 番組ってやつが全部終わったらしいが……あれ?


 なんかまだ続いてるぞ?


「あれ?なんで?」

 ミルティアも驚いている。


「ふふ……」

 戯神様は微笑んでいる。

 

 

 * * * * * *

 

 ~旅を終える前に~



「企画にちょうどいい人間を用意したのだ」

 画面に映ったのはおっさんだった。

 これ豚貴族か?

 

『ただ単に遊神と戯神をあやつって不調に陥った人間を旅させるのを楽しむ企画じゃなかったのか?』

 こちらは火竜……。えっ?

 

「そうだ。だが、なんの変哲もない人間を出してもつまらんだろう」

 なんだ?豚貴族は何を言ってる?

 

『細工をしていたのだな?』

「その通りだ。あえて見つけ出したメインアクターの能力を制限しておいた。もちろんそんなことには触れないがな……くっくっく。これで面白い企画になるぞ」

 どういうことだよ……これ……。

 隣を見るとミルティアが唖然としていた。こいつらも知らなかったのか?

 

『見つけ出した男は大量のスキルを持つ男だったか……』

「その通りだが、それも私が……いや、なんでもない。とにかくこの企画にぴったりな男だ!」

 あの読めない文字の称号も?まさか?

 

 

『果たしてそう、うまくいくのだろうか?あの男、案外、頑張ってくれそうだが』



 * * * * * *



「えっと……アナト?」

 画面の前で呆然としている俺に恐る恐る声をかけてくるミルティア……。

 俺は今見たものが理解できていない……。

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