第15話 旅は道連れ世は情け(笑)
「さぁアナト。次はどっちに行こうかなぁ。美味しい料理のある街か、気持ちいい温泉が湧く街か。ねぇ~アナトならどっち?」
ミルティアが腕組みして何かを考えながら質問してきた。
古代の神獣を倒してダンジョンを出た俺たち。
いや、倒したというか正気に戻しただけだが。
それでも"神獣の爪"をゲットして気分は好調だ!
最高だぜぇ~~~!!?
なので、ミルティアに次はどこへ向かうか尋ねたらこれだ。
「うるさい!」
そんな浮かれ度マックスな質問をぴしゃっとやってやった。
旅が好きなのはわかるが、今は俺が治るための旅だ。遊んでる暇はない。
「なんだよ、ちぇっ。せっかく楽しい旅なのに~」
とうぜんながらいじけた……。
まぁ、聞いたのは俺だしな。
「なのに~じゃないんだよ。どうするんだよ!」
「なにを?」
こちらにあげた顔に浮かぶ間抜けな表情。可愛さ台無しだな。
「なにを?じゃないんだよバカ。"高エネルギー結晶"だよ"高エネルギー結晶"。使っちまったじゃね~か!!」
だから現実に引き戻した。
あの時はあれしか方法がなかったし、結果から言えば俺たち2人とも無事で万々歳だ。
でも、高エネルギー結晶を失ったことには違いない。代わりに"神獣の爪"が手に入ったけども。
「あっ」
「あっじゃないんだよ。どうするんだよぉ!」
「あの太っちょ大モグラはそんな簡単に手に入らないって言ってたぞ!?」
「たしかに~~~」
たにかに~~~じゃねぇんだよ!
今さら気付いたのか、ほっぺに表手をあてて目を閉じてる。
「ちなみにどれくらいでまた入手できるんだ?」
一応聞いてみる。期待はできないが。
「10年に1回とかだったような……」
「使えね~~~」
目を閉じたままのミルティアから帰ってきたのは予想通りの回答だった。
「使えないとは何だよ、アホアナト」
「使えねぇじゃねぇかよ、バカミルティア!」
「何だと?アホアナト、もうめんどくさいから略してアナト!」
「アナトは罵声じゃないわ!!!!!」
目をキッと開いて言い返してきやがったこいつはあろうことが親にもらった名前まで笑いやがった。
このやろう!
「あのぉ」
「ん?」
ダンジョンの外でそんなやり取りをしていると、不意に話しかけられた。
「もしかしてルギウスに向かわれるのでしたら、一緒に行きませんか?」
突然話しかけてきたのは……知らないおじさんだった。
なんだよもう!ここは決死の冒険を繰り広げた俺へのご褒美として、美しいお姉さんとかが同行を申し出るところだろうが!
そろそろヒロインカモン!!!
えっ?もう出てる?……戯神様、もっと俺に癒しを……。
しかし、話しかけてきたおじさんにそんなこと言えないので、こそこそと会話する俺たち。
「(誰だ?)」
「(知らないよ。アナトも知らないの?)」
「いや、お会いするのははじめてです。私はロットンと申しまして、行商人です。見たところ旅の冒険者の方、もしよろしければルギウスまでご一緒させてもらえないかと思いまして」
そのおじさんは俺たちに自己紹介してきた。
「あぁ、なるほどね。護衛かな?」
ミルティアが答える。護衛?
「お恥ずかしながらそうです」
「どういうことだ?」
わかんねぇよ!
「やっぱりアナトだな」
「お前いま悪口の方で呼んだだろ?」
「なに?アナト、耳までおかしくなったのかな?ボクはキミの名前を呼んだだけだよ」
……。
「いたいいたいいたい!!!」
俺はミルティアを捕まえてヘッドロックをお見舞いする。
「てめぇ~~!!」
「ごめん、ギブ、ギブ」
今までの恨みを……。
「お取込み中失礼しました~」
俺たち2人のあんまりな様子にその場を離れようとするおじさん。
当然引き留めた。
「それで?どういう意味なんだ?」
「実は懐が心もとなく……」
「ん?」
お金の話?
「アホだなぁ。良いかい?この辺りはだいぶ治安はいいとはいえ、盗賊なんかも出るわけだ」
「ふむふむ」
「だから商人とかは護衛を頼むんだけど、行商人とかはなかなかそういうわけにはいかないからね。それで旅の途中にある冒険者を見つけたら頼んだりするんだよ」
「なるほど」
協力し合ってるんだな。ん?なんだよ。わかってたさ!
「もちろん、ご一緒させてもらえるなら馬車には乗っていただければと思いますし、多くはムリですが食事も出させていただきます」
ロットンさんは恐らく彼のものなのであろう馬車を指さす。
「喜んで。さぁ行きましょう!」
「変わり身、早っ!」
断る理由がないじゃないか。しかも、こうすればミルティアに無茶されないだろう。もういきなり危険な場所に飛び込みたくない。
「ちなみにルギアスというのは?」
「ずこーーーー」
こけるミルティア。どうしたんだよ!?
「なんだよミルティア。バカみたいだぞ?」
「キミに言われたくないよ!行先もよくわからないのになに了承してるのさ!」
知ってるわけないだろ?
自慢じゃないが俺はエフリードの街の周辺から出たことがないんだぞ?
「だから今聞いてるんだろ?」
「そんなマヌケ面でこっちを見るな!」
起き上がるミルティアの手が俺の脇へ……いてっ。叩くなよ!
「まぁまぁお二人。ルギアスというのはとても食事の美味しい街でしてな」
「おぉ~」
「さっきボクも言ってたのにさ。ちぇっ」
そういえば美味しい料理か気持ちのいい温泉かとか言ってたな。
「それでは道中よろしくお願いします」
「「こちらこそ」」
俺たちはロットンさんの馬車に乗せてもらってルギアスに向かった。
「あっはっはっはっはっはっはっは」
「ね~おかしいでしょ~?」
「はひーーーーー」
馬車の中で昼寝から目を覚ました俺の耳に聞こえてきたのは業者台にいる2人の笑い声。
何話してんだよ。あんなに笑うってことは……。
「ミ!ル!ティ!ア!」
「逃げろ~」
「てめぇ~~~」
は~な~し~た~な~!
笑い続けるロットンさんを置いて、追いかける俺と逃げるミルティア……。
「つかまるもんか~」
あっ、ミルティア!お前、そこは崖だぞ!
「うわ~~~」
ミルティアが足を踏み外した。その先は谷だ。やばい。
こんなやつでも旅の仲間だ。
「ミルティア!」
必死に手を伸ばす俺。
「ん?ばぁ~」
空中で止まり、アホ面をかました後、ゆっくり浮遊して戻ってくるミルティア……。
「てんめぇ~~~~~~~~」
「きゃーーー」
許せん。心配を返せ!
「まて~~~~」
「こっこま~でお~いで~!!」
森の方に逃げていくミルティア。
「あぁ、そっちは。待ってくださいミルティアさん、アナトさん!!!」
さっきまで笑ってたロットンさんが何か言ってるが、俺はミルティアを追いかける。
「まて~ミルティア~~」
「ほら!こっち~だよ~~~あっ」
「その手には引っかからんぞ。こら~」
「うわ~~~~」
突然崩れていく地面。
また悪戯だと思っていた俺の目の前でミルティアが砂に飲み込まれていく。
冒険者学校で習った蟻地獄みたいなもんかな?あれはたしか砂漠にあるもので、こんな森に存在するものじゃないと思うけども……。
ミルティアは埋まってしまった……。
やばいのかな?ここはいっちょ……
「ご愁傷様。ミルティア、ここで眠る。
神様の癖に楽しいやつだったけど、安らかに眠れよ……」
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