第10話 vs 古代の神獣

 そして爆風が晴れる……


 前に、再びあの黒い炎が見えた。


 早えぇよ、おい!


 飛んでくる黒い炎を避けるため、俺はとっさにミルティアの腕を引っ張る。

 

 

 そして俺たちがいたところに黒い炎が着弾する。

 何とか直撃は避けたけど、余波で2人とも吹っ飛ばされた。


「ほら見ろ。お前が『やったか?』なんて言うから」

「仕方……ないだろ。全力の……ボクの……攻撃が……当たったんだ……から」

 明らかに弱弱しくなったミルティアは息も絶え絶えだった。

 

「おい、しっかりしろ!食らったのかよ!?おいっ!?」

 マジかよ!?引っ張ってなんとか直撃は避けたかと思ったけど、食らってたのか?


「失敗した……なぁ」

「おい!」

 そのまま地面に突っ伏して気を失うミルティア!

 

 よく見るとそこまでケガをしてる感じじゃないから力を使いすぎたってことなのか?

 って、マジかよ!そんな場合じゃないって。

 目の前のか弱い子羊おれを残して気絶なんてしてる場合じゃないぞ!おいっ!


 

『グォォオオオーーー!!!!!』

「しかもあいつは無傷かよ!?」

 ミルティアは全力で攻撃したって言ってたのに……2級神の全力なのに、傷ひとつつかないのかよ!?



『グオォォオオオオ』

 しかもなんかもの凄い怒ってやがる。

 あきらかにこっちを睨んでる。

 まずい……。


 ズドーーーン!!


 古代の神獣がその巨大な足を踏み出す。

 ただの1歩でダンジョンが揺れる。


 くそっ……。

 俺はとっさにミルティアを抱き上げ、走る。

 古代の神獣とはもちろん逆方向に。


『ギャオォォオオオ!!!』

「うわっ」

 しかし、古代の神獣の吐いた黒い炎の玉が俺たちを襲ってくる。


 ダメだ。

 逃げろ。

 やばい。

 逃げろ。

 

 連続で黒い炎の玉を吐いてくる古代の神獣。

 俺は左右に動いてまぐれでの回避を繰り返して何とか逃げる。


「あっつ」

 しかし完全には避けれない。

 黒い炎の玉は掠っただけでめちゃくちゃ熱い。

 全身火傷だらけだ、ちくしょう。

 

 

 それでも倒れちゃだめだ。


 手の中にはミルティアが。

 くそっ、安らかに寝やがって……ってなんでだよ!

 やばいんだっつーの!

 

 

 全力で攻撃したからって力を使い果たして気絶してんじゃね~よ!

 効いてねぇよ!

 役立たず~~!!!!


 そんなことを考えていると危うく黒い炎の玉に当たりそうになる。


 やばい。

 逃げろ。

 やばい。

 逃げろ。


 くそ、どうする。どうしたらこの状況を抜け出せる?

 


 しかし、考えながら走っている俺の周りが暗くなる……。


 そして背中が熱い。


 これはやばい!?!?

 


 必死に横に飛んで回避したが俺は倒れてしまった。


 くそっ、こんなとこで。

 

 

 どうする!?


 なんで視界が……って涙かよ!泣いてる場合じゃないんだよ、俺!


 自分だけならいい。


 不運だったって。

 頑張ったって。


 それでもだめだったって言える。


 でもここには、手の中にはミルティアがいるんだ。


 なんとかしなきゃ……それなのに足が動かない。


 

 ズドーーーン!!

 

 動け。動けよ。


 何かないか?あいつを追い返さなきゃ。


 じゃないとミルティアが。


 神様。誰か……。


 

 ズドーーーン!!


 巻き込まれただけなんだ。俺を助けてくれるために。


 そんなあいつを死なせたくないんだ!


 例え化身だとしても。

 


 今こそ"エターナルブレイク"とかが目覚める時だろ?


 なんで灰色のままなんだよ、俺のスキルたちはよぉ!!!


 

 ズドーーーン!!


 動かなくなった俺たちを見てあとは食うだけとでも思ったのか、ゆっくり近づいてくる古代の神獣。


 くそっ、もう恐怖も感じない。


 何かないのか。


 俺ができることが……。


 


 ズドーーーン!!

 

 いや……。


 まてよ……。


 

 あのモグラ、なんて言ってた?


 たしか『これを直接放出すれば例え神や神獣にでもダメージを与えられるのだから』とかなんとか……。


 

 そうだ!"高エネルギー結晶"だ!


 


 俺は収納袋の中から"高エネルギー結晶"を取り出す。

 

 

「ア……ナト」

「ミルティア!」

 ミルティアが目を覚ました。

 

「まだ……無事?ごめん……ね」

 俺の腕の中で謝るな。なんとかするからな!

 

「待ってろよミルティア。俺があの獣を追い払ってやるから!」

 俺は"高エネルギー結晶"を掲げる。


「そ……れは……つかうの?」

「あぁ。使うしかない。これしか手段がないんだ」

「で…も…」

「いい。また考えればいい。そうだろう?今を生き残らないと!」

 俺は覚悟を決める。


 

 ズドーーーン!!

 

 来やがったなクソ神獣!


 余裕ぶっこきやがって。

 だが覚悟を決めた俺はもう止まらない。


「"高エネルギー結晶"をくらえ!」

 俺はありったけの魔力を流し込んで高エネルギー結晶を起動する。そしてそれを古代の神獣に向かって投げつける。



 古代の神獣は高エネルギー結晶を警戒してはいなかった。

 もう捕食した気分だったのだろうか?

 俺のすることなんか意にも介さず高エネルギー結晶が足にぶつかるのも特に気にしていなかった。


 これで何も起きなきゃ俺たちは終わりだな……。

 俺はそんな風にゆっくりと飛んでいく高エネルギー結晶を見守った。

 そして……。


 

 ぶおぉぉおお~~~~ぉ~~~~~ん!


 高エネルギー結晶は不思議な音とともに青い魔力を放つ。あれは?

 

 放出された魔力は古代の神獣に纏いつく。

 


『グギャアアァァァアアアァアアアァアアアアアアア!!!!!!』

 古代の神獣は明らかに苦しそうだ。

 

 あの雰囲気は間違いなく聖属性の魔力だ。弱点だったのかな?神獣なのに……。

 まるで浄化の炎に焼かれる悪魔みたいな絵だな。


 そして、その神聖な魔力はどんどん濃密になり、古代の神獣は見えなくなる。

 

 その凄まじい光景に見とれながらついフラグを立てそうになるのを必死に抑える俺。


 そして光がはれた。


 

 目の前には巨大な神獣……。



 

 あれ?

 


 俺は試しに一度目を瞑ってから、もう一度開くとそこには……巨大な古代の神獣が。

 

 

 あれ?

 

 

 隣を見ると再び気を失っているミルティア……。


 

 え~と、あれ?

 

 もう一度前を見るとそこには……巨大な古代の神獣……。



 俺も気絶していいかな……?

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