第5話 いざ炭鉱ダンジョンへ!!!

「うわぁ、虫、虫、虫、虫~~~~~」

 炭鉱ダンジョンの中で、俺は虫型の魔物を手当たり次第に切りまくる。


「虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫!!!!!!!!!!!」

 斬って斬って斬りまくる。


 どうしてこうなった……。


 * * * * *


 乗り合いの馬車で2日かけて炭鉱ダンジョンまでやってきた俺とミルティア。

 そこは炭鉱の名の通り鉱石を掘る人で溢れかえった場所だった。

 逆に冒険者と思われる人はいない……。

 

「炭鉱ダンジョンではそんなに強いモンスターの発見報告はないからね。こうやって産業として鉱石を掘ってるんだね……」

 遊神……もうミルティアでいいか……は入口の様子を伺っている。

 

 あまり強い魔物が出ない一部のダンジョンではこんな風に人に利用されているところがあると聞いたことがあるが、まさか俺たちの冒険の最初のダンジョンがそうだとは思いもしなかった。


「じゃあ行こっか」

「ここ、勝手に入っていいのか?」

「……」

 我が物顔で歩き出した使えない自称美少女女神様はほっといて、俺はダンジョンの入り口に設置されている"案内所"の人に聞きに行く。


「すみません、このダンジョンで探索がしたいのですが、何か許可などが必要なのでしょうか?」

「えっ?え~と。旅の方ですか?」

 受付のお姉さんが驚いている。

 生活に利用されているレベルのダンジョンを探索したいなんて話を持ってくるやつはあんまりいないのだろうか?


 それでもそのお姉さんは通信の魔道具を使ってどこかに問い合わせをしてくれている。

 冒険者カードの確認もされた。

 これはこの大陸の冒険者ギルド共通のカード型魔道具で自分の身分や実績を証明してくれる。



 お姉さんが通信を切ると、許可されたとのこと。

 俺のこれまでの真面目な成績が加味されたんだろうな。


 ただし、鉱石掘りに使っているのとは別の入り口から入ることになるらしい。

 受付のお姉さんが明らかにホッとした顔で『いってらっしゃいませ』と送り出してくれたので、俺たちは炭鉱ダンジョンに足を踏み入れた。

 


 

 そして、落ちた……。


「うわあぁあぁぁあああぁあぁぁぁぁああああああああ、いてっ!!!!」

 なんでだよ!

 

 くそっ、なんなんだこの嫌がらせみたいな罠はよぉ!

 入り口を睨むがなにもないし、何もいない……。

 文句を言いたかったけど、誰もいない……。

 

 かなり前に攻略されたダンジョンだって聞いて油断してた。

 罠でもなくただの老朽化とかなのか……?


 そこへ後ろからついて歩いていたはずのミルティアがひらりと降りてくる。


「あはははは。なにしてるのさアナト」

「(ぎりぃ)」

 うるさいバカ女神!優雅に飛んできやがって!

 パンツ見えてるぞ。

 

 心の中でひとしきり文句を言った俺はちょっとすっきりした気分であたりを見回す。

 何はともあれダンジョンに入れたんだから高エネルギー結晶を探そう。


 で、どこに行けばいいんだっけ?


「そういえば、ダンジョンは遊神が作ったって聞いたことが……」

「ぐっ、気付いたか……」

 目を泳がす遊神。

 

 今から500年だか600年前に突然最初のダンジョンが現れたんだ。

 その時に神殿に天啓があったらしいが、その天啓は遊神のものだったと習ったな、冒険者学校で。

 

「確かに作ったさ。でもその中で起こる事象までコントロールしてないのさ(ふふん)」

 偉そうに胸をはって言うことじゃない。

 

「ふふんじゃないよ。使えないな……」

「なんだと~。よくも言ったな!!!」

「ぎゃあ~~~」

 ミルティアが放った電撃を食らってしまった。って、酷いなおいっ!!!!

 

「まったく、お仕置きだよ!」

「ごめんなさい~~~」

 っちょストップ!ストップ!死ぬ!


「ほら、行くよ」

「……うん」

 3回ほど当ててから電撃をやめて歩き出すミルティア。小悪魔ですらなく悪魔だな。

 

「ここは強いモンスターを出すように設定はしてない。むしろ罠が多めだから、気を付けてね」

「うわぁ~~~」

「言ったそばから落ちてったよ。大丈夫かな?」

 何回落ちればいいんだよ~~~~~~~~。



 

 そして冒頭の場面になるわけだ。



 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「あっ、いたいた。おーいアナト」

「ミルティア~~~」

 ようやく追いついてきたらしいミルティアにすがりつく。

 

「よしよし。どうした?」

「『どうした?』じゃないよ。酷い目にあった。虫ばっかりだなんてさ」

「虫嫌いなの?」

「大っ嫌いだね」

 虫が好きな人には申し訳ないが、俺は虫が大嫌いだ。


 小さいころ母さんにお仕置きと称して庭の小屋に閉じ込められたとき、悲しくて寒くて震えていた俺の手が振れた先にはおびただしい数の小さな虫が……。

 思い出すだけで震える。


「お前は虫が好きなのか?」

「好きではないけど、嫌いでもないと言うか。そもそもダンジョンの魔物はよっぽどのことがない限りボクには襲い掛かってこないからね~」

 顎に手を当てて考えながら話すミルティア。

 なんだそれずるい。

 

「虫が嫌いだったとしても、次のは大丈夫かな?この雰囲気は何だろう……動物っぽいけど。頑張ってねアナト♡」

「次?」

 ちょっとだけ可愛い笑顔でしれっと俺から距離を取るミルティア。


『ギィーッギャオオオ!!!』

 甲高い唸り声と共に何かが上から降ってくる。


「うわぁ~」

 俺は必死に転がって避ける。


 立ち上がってその降ってきた何かに向けた俺の目に飛び込んできたのは……大きなネズミ型のモンスターだった。


「ネズミ~~~~~」

 叫びながら走って逃げていくミルティア。なんだよ!?


「ミルティア?おーいミルティア~?」

 返事はない。行ってしまった。あいつ、ネズミが苦手なのか?


 そしてゆっくり振り返る俺。

 何をしているのか?という目で見ている大ネズミ……。


「とりゃ~~~」

 ミルティアのせいで生じた不思議な間が終わる前に卑怯にも剣撃を繰り出すアナト……つまり俺。


「ギャオオオ!?」

 大ネズミは避けられず俺の剣に沈む。


「全く。なんだったんだよ。おーいミルティア。どこ行った~~~」

 ミルティアを探して、彼女が走り去った方へ向かうアナト。

 



「嫌いなら設定しなきゃいいのに」




『我もそう思う……』

「はっ……!?」

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