昇らない お日さま (16) ゴクラクチョウ

「ワシは大魔法使いのパーパスじゃ。その名を聞いた事くらいはあるじゃろう」


自分で自分の事を”大魔法使い”というのもどうかと思いますが、この言い方はひとつの称号のようになっていますので、そう名乗った方が話の通りが早いとパーパスは考えたのでした。


「え? 大魔法使いのパーパスさま!?」


ゴクラクチョウは驚きます。あの伝説的な魔法使いが目の前にいるなどとは、にわかには信じられなかったのです。でも自分が、お月さまとお日さまの手紙の配達をしていた事を知っているとなると、これはもう信じるしかありません。それに噂に聞いていた「そうとう古くさい衣装」という格好とも一致します。


「今、世の中では一大事が起こっておる。ワシは騒動の原因が、お前であると考えているのだよ」


パーパスはいきなり切り出します。この性格は治らないようですね。


「えっ!? それは一体どういう事で……」


ゴクラクチョウは、またもや驚きました。


「なんだ、お前は気づいていないのか。……あぁ、そうか。もしかしてお前は、ずっとここにいたのかね?」


パーパスの質問に、ゴクラクチョウは不安げにうなづきます。


「なるほどな。この真暗な洞窟の奥にいたのなら気がつかなくても無理はないが、今、本当は昼近い時刻なのに、空にはポッカリと月が昇っておるのじゃよ。おかげで世の中は、真っ暗闇の大混乱じゃ」


再三に渡るストレートな物言いです。本当にもう、一生治らないでしょう。


「お月さまが? でも、それが何で僕のせいなのでしょうか?」


本当はゴクラクチョウも、うすうす気がついていましたが、余りの事態に思わず知らぬふりを決め込みました。


さぁ、ここまでの話でお月さまの推測が外れた事は明らかですよね。もしゴクラクチョウが忘却の草原の上を飛んでしまい、全てを忘れてしまったのなら、お月さまの話をされてもチンプンカンぷんのはずだからです。


相手の態度に確信を得たパーパスは、


「フン。本当にわからないのかの? 実のところ、お前さんも気がついているんじゃないのかい?」


と、ゴクラクチョウの穏やかならざる心を刺激します。


図星を当てられたゴクラクチョウは、パーパスの言葉に心臓が破裂しそうになりました。


「月は太陽から手紙が来ないと嘆いている。そしてどういうわけか、太陽も同じ事を言うておる。


それはお前が二人から受け取った手紙を、届けていないからじゃないのかの?」


更に更にパーパスはズバリと言いました。ただ今回は、大変わかりやすくてよろしい。


ゴクラクチョウは一瞬翼をバタつかせたかと思うと、観念したかのようにうつむきました。


そして暫くすると顔を上げて、


「はい、その通りです。全くその通り。僕は手紙を運ぶメッセンジャーの役割なのに、途中から手紙をお二人に渡さなくなりました」


美しく、そして罪深い鳥の告白が始まります。

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