亡者の戦車 (3) 怪しい男たち

そこまで言うと、ニ―ルが、


「なんで、おかみさんが牢屋へ入れられてしまうの?」


と聞きました。


「悪人たちを宿屋へ泊まらせた、悪事をするのに協力したって思われるからだよ」


「そんなの、おかしいよ。ただ泊めてあげただけなのに」


ニ―ルが子供らしい正義感を発揮します。


「そうだね。今なら確かにそうだ。でも昔は違ったんだよ。そうやって厳しく取り締まらないと、世の中の平和が保てなかったんだ」


パパが優しくニールに説明しました。


ニールも取りあえずは納得したようです。


「だからおかみさんは、部屋の前を言ったり来たりして、他のお客さんがいない時に、ドアへ耳を押し当てて中の話を聞こうとしたんだ。そしたら、なんと……」


早くもお話に一つ目の山がやってきました。ニールは身を乗り出して聞き入ります。


「王様を襲って、殺してしまおうという話をしていたんだ」


わざと恐ろし気な口調で話すパパの思惑通り、ニールがビクッと肩をすくめます。


「おかみさんはどうしていいかわからず、部屋の前から自分の部屋へ一目散に逃げ帰った。このままでは自分も罪に問われてしまう。だけど街にいる兵隊さんに教えたら、今度は自分が悪党どもに恨まれてしまう。


さて、どうしたものか……」


「兵隊さんに教えるべきだよ。捕まえてもらえば、それでいいじゃないか」


ニ―ルが、お話の中のおかみさんに助言をします。


「でもさ。逃げられちゃう場合だってあるし、他の仲間が仕返しに来るって事もあるだろ? だから、おかみさんは本当にどうしようかと悩んだんだ」


ここまでの話を聞いて、ママの眉が少し動きました。ちょっと嫌な予感がしたからです。でも、口を出すわけには行きません。だって、結末はママも知らないのですから。


「その時、外で馬車が通るような音がしたんだ。もっとも、普通の馬車とは少し違うような音だったんだけどね。ビックリしたおかみさんは思わず通りに出て行った。でも、ゴウゴウと吹雪く雪以外には何もない。馬車の通った後すらない。


おかみさんは不思議に思ったけど、そのまま宿屋へ戻ったんだ。実はこの時、悪党の一人もその音に気が付いて窓の外を見たんだけど、やっぱり何もなかったんだよ」


正体不明の馬車の登場で、ニールはツバをゴクっと飲み込みます。

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