一片の雪/それでもおれは君を...
希塔司
第1章 「出会いは何かのきっかけで始まる」
第1話 「ドジな出会い」
~現在~
「またこの季節になったのか...」
寒い真冬の季節、今日この日のために有給を使って仕事を休みある場所に来ていた。
おれ、間宮陸はゆっくりと目を閉じた。出会った頃の彼女のドジさ...それでいて明るいあの笑顔。
初めてのデートですごくはしゃいでいた君を、付き合ってからこなしたたくさんのイベントを、そして最後に訪れたあの場所での君の涙を。それらが彼の記憶を辿り始めた。
今おれは目の前にあるお墓に手を当てていた。ゆっくりと目を瞑り、最初に会った頃を思い出していく。
ーーーーーー
~5年前~
おれは春から大学生となった。高校時代ではこれと言って何も取り柄がなかった彼は普段から見栄を張ることで自分が大人な男になれてると実感していた。
それもあってか周囲からは変人扱いをされていた。もちろん数名だけど友達はちゃんといる。
高校では全然モテなかったし告白してもすぐに玉砕されることから本当は彼女が欲しいと思っていてもそれを見せる自分がダサいと感じていた。
そんな中受験はなんとか六大学の1つに進学をすることができ、この春からついに大学での夢のキャンパスライフに密かに期待を寄せていた。
「なぁなぁ、実は美人な先輩からサークルの新歓に参加しないかって誘われちゃったんだよね笑」
そう言ってくるのは高校時代からの友人の透だ。
イケメン、高身長、親が金持ちとか言ういかにもムカつくようなやつ...って言いたいんだけど性格はほんとにいい。
高校でできた最初の友達、勉強やスポーツも得意。そのくせノリも良く学校でもちろん男女問わず人気者だ。強いて言うならおれが好きになった人がみんなとことん透を好きだったってくらいに...透は多分参加するんだろうけど聞いてみることに。
「へぇー、そしたらその新歓参加するの?」
はいはいまた自慢かよと思ってしまったおれの心は狭いと感じた。
「そりゃ参加するだろ!せっかく美人の誘いを断るやつがいるかー?」
そういう透はとびきり目を輝かせていた。そりゃ男なら美人に誘われたら本能的に動いてしまう、わかる、わかるぞ。おれだって乗っかりたいわ。
「そんじゃ一緒に行こうぜ、決まりだな!」
行くとは一言も言っていないにも関わらず2名参加の旨を美人の先輩に改めて伝えに行った。相変わらず行動力の速さに驚かされる。まぁ実際透には借りがある。
あれは高校入って間もない頃...。おれはまだ自分の居場所を見つけられずにいた。何もかもが新鮮で、まるで別世界のように感じていた。
クラスメイトの中にはすぐに友達を作ったり、部活動に打ち込んだりする者もいたが、おれはどこにも所属せず、少々孤立していた。
その時、透と出会った。彼は、自然体で人を引きつけるカリスマ性を持っていた。透はおれが孤立していることを見つけて、すぐに友情の手を差し伸べてくれた。
「何もやってないなら、一緒にバスケやらないか?」
それがおれらの友情の始まりだった。透のおかげで、陸はクラスメイトとの交流も増え、高校生活が楽しくなった。その恩は、未だにおれの心に深く刻まれている。
だから、透が新歓に参加しようと誘ってくれた時、おれは迷うことなく承諾した。これが大学での新しいスタートになるはずだ。そして何より、おれが感じていたのは期待感よりも、美人の先輩との出会いに胸を高鳴らせる興奮だった。
ーーーーーー
それから数日後、おれと透は大学のサークル新歓に参加した。場所はありきたりな居酒屋を借りていて、もちろん先日勧誘をしていた美人の先輩をはじめ新歓にはおれら含め多くの新入生が参加していた。人数的には40〜50人ほどが参加している。
「おおー!結構参加してるな!やっぱりこのサークルは人気なんだな!」
透はやっぱり喜んでいた。こういうイベント好きだもんな。
「まぁそりゃ人気なら多くの新入生も興味本意で参加したりするよな」
「そして新歓で、たくさんの友達や彼女になるような人と出会い、幸せなキャンパスライフを送れる日々を過ごしたいよな!」
おれにむけてまるで押し付けるか如く希望の眼差しで透は言ってくる。まぁ確かにそれはそうなんだけどさ。
「まぁ高校で友達少なかった分、大学ではいっぱい遊びに行きたいかんなー。」
そう透と会話した中で4年生サークル代表の翼さんから乾杯の挨拶がされた。
「えー、サークル代表の翼です。この度は新歓にお集まりいただきありがとうございます。今日は楽しいイベントにしましょう、乾杯!」
「「かんぱーい!」」
こうして新歓が幕を開けた。みんないろんな人に話しかけたりしてる。もちろん透もさっそく参加者や先輩に気さくに話に行った。
おれはと言うと、やっぱり初対面の人に何話せばいいのか分からないから静かにその場で飲み物を飲む。
(ああー...暇だ。透はさっそく打ち解けちゃってるし。誰にも話かけられねぇなら適当なタイミングで帰ろ)
そう思って出されているつまみを取ろうとした瞬間...おれの前の席の人と腕がぶつかってしまった。運悪く飲み物を持っていたからぶつかった衝撃で軽く溢れておれのシャツの袖にかかってしまった。
おいおい、いくらぶつかったってさすがにシャツの袖にかけるかよと思い内心は最悪な気分になっていた。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?待ってください!今タオル渡しますので...」
そう慌てて言う中タオルを出そうとした合間に隣の人の飲み物までこぼしていた。え、なにこの人。どんだけドジなんだよ。
「ちょっと未紗さん何してんの全く~」
「ごめんなさい!すぐに拭きますので!」
ーーーーーー
~現在~
墓参りを終えて家へと戻っていた。そしていろんな楽しかった思い出を振り返っていく。四季に合わせていろんなイベントをしたり透たちとも一緒に遊んだりしたり大学生活こそがおれにとって1番の青春だったと振り返るとそう感じる。
おれはふと目を開け、窓ガラスに映る景色を見つめた。たばこの煙と共に青空と雲を見つめ思い出していた。そういえばあいつは出会ったころからそのまんまだったよな。
最初に見た彼女はすごく慌てた表情ですごいドジな人なんだなという印象だった、そのくせ変なこだわりがあったり頑固だったりと不器用な一面もあった。
けど拗らせていた自分の感情や性格を変えるきっかけになったあいつとの出会いはおれの人生で絶対に忘れちゃならない。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?待ってください!今タオル渡しますので...」
ドジでそのくせおせっかいなあいつがいたから今のおれがいる。たばこの煙を吸い、ゆっくり吐いて...
「今でも好きだよ、未紗...」
その言葉は煙と共にぼんやりと消えた。そして忘れないためにおれは未紗との日々を振り返っていくことにした。空からはチラチラと雪が降り始めて来た。まるで、一つずつ思い出を積み重ねていくように少しずつ...
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