石暮れ

宇宙(非公式)

第1話 コンビニバイト

 加藤は誰にも気が付かれないように、商品を整理しながら溜め息をく。苦しさを紛らわすために吐いたものだったはずなのに、思ったよりも自分の声が辛気臭く、更に嫌な気分になる。深夜のコンビニだからか、店内に客はいなかった。

 深夜の暗さには似合わない、酷く明るい光は優しさに欠けていて、何かに置いていかれるような寂しさを覚える。喉まで出かかった愚痴と溜め息を呑み込んだ。

「どうしたんだよ、そんな愛車のナンバープレートを盗まれたような顔をして」

「あ、いえ、別になんでもないっす」

 と、四月一日ついたちを過ぎたにもかかわらず、加藤は嘘をついた。そんな加藤の青々と、そして若干黒々とした感情も、バイトチーフの蓮さんは察したらしい。それ以上は深掘りしてこなかった。

「まあ、なにかあったらこの結城ゆうきれんに相談しろよ。金と車は貸せないけどな」

 蓮さんは制服に付いている、自分の名前が書かれた札を指した。

 加藤はもちろん経済的な問題も抱えてはいたが、そんな厄介事も、今は加藤をそこまで圧迫していなかった。

 もうすぐ、小西小石という友人の命日だ。彼は小学生来の加藤の友人で、結構ないたずら好きだった。しかし、彼は中学三年生の時に、交通事故で呆気なく死んでしまった。噂によると犯人は未成年で、金持ちの息子だったらしい。その犯人について、風に頼り、風の便りでいくつも聞いたが、どれも信憑性がなかった。しかも、当時はまだ少年法の対象内で名前も分からず、中学生だった加藤には調べるのもままならなかった。

 お腹が痛くなるような、背中が痛くなるような不安感と不快感を覚え、またため息を吐く。今度は蓮さんにも聞こえてしまうのではないかと危惧したが、奇遇にも蓮さんは何かの高級な器具をスマートフォンで注文し、喜びに溜め息を漏らしていた。

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