第25話 真夜中の着信

 あっという間に連休最終日の夜となってしまった。


 初日にイベントに行ったっきり特に何をするでもどこに行くでもなくただただ無常な日々が川の流れのように過ぎ去っていってしまった。

 先ほどなんとか終わらせた宿題のノートをカバンに入れながら明日から学校が始まると思うと憂鬱になる。

 もちろん再びあの退屈な授業を否が応でも受けなければならないということもそうだが、それ以外にももう一つ俺を苦しめるものがあった。


 ソラとのことである。

 あの連休初日以降、俺はソラと連絡を取り合っておらず弁明もしていない。


 というかまず学校がないためソラと会う機会もないし、あいつ携帯やらスマホやら通信機器というものを持っていないものだから話のしようがない。

 いつかあった時みたいに夢の中に出てくるんじゃないかとも思っていたんだがそんなこともなかったし。

 明日何と声を掛ければいいのやら……こんな時どうするのが正解なのか俺にはさっぱり分からない。

 ネットの掲示板に『急募 最高神を怒らせたんだが誰か同じようなことになった人がいたら助けてください』とでも書き込もうと考えたが、頭がおかしいと思われて終わりだろう。


 とりあえずネットで気まずい雰囲気をどうするかを調べようとした時、メッセージアプリに通知が来ていることに気づいた。

 アプリを開くとスサノオからメッセージが来ていた。


 以前スサノオの家を訪れたときに今後の計画の進捗度合いを報告するという名目でスサノオと萌えの神様と連絡先を交換したのだ。

 さすがはあの二人、ソラとは違い人間の生活にちゃんとなじんでおりスマホも持っていた。


 計画の進捗度合いを報告するということだったからスサノオから来るメッセージは何か進展があったのかと期待していた。

 ところがそんな話が来ることはなくスサノオのやつよほど暇なのか、今日はどこどこへ行っただの、ユニ子が可愛いだの、毎日雑談をしてくるのだ。

 返事を律儀に返している俺も俺なのだが、別に好き好んで返しているわけではない。

 いい加減面倒くさくなって一度無視したことがあるんだが、その時はメンヘラ彼女のような言動を始め、数秒おきにメッセージを送ってきたのでそんなことにならないように渋々返しているというわけだ。


 トーク画面を開いて内容を確認する。


 ……なるほど。


 どうやらこの前、結界内でソラと戦ったときに粉砕したあの天羽々斬とかいう剣の欠片を律儀にも集めて、あらゆるものを直せる神に頼んだところ数日で直してもらえるようになったらしい。


 それはよかったな、と返すとお気に入りだったからマジ助かったとか、ソラのせいでめちゃくちゃだ、とかなんだのそういう返信が帰って来たので適当に流しておく。


 ここ数日の経験で分かったんだが、ここで変に興味を持つような返信を返すとスサノオはしめた! と言わんばかりに饒舌になり俺の自由時間が泡のように儚く消えてしまうためあえて適当な返信をするのが最善である。


 案の定五分もかからないうちに雑談は終了し、俺は明日への英気を養うために勉強机の椅子に座る。


 まさかの勉強、なんて俺がするはずもなく手に取ったのは一冊の文庫本。

 奈良に貸してもらったものである。


 読まずにいつまでも放置するわけにもいかないし、これを読めば奈良との語り合いという名目でのデート、さらに今後も付き合いが続く可能性もある、といういかにも下劣な考えで読んでいたんだがこれが中々に面白かった。


 舞台は高校で男子一人を女子二人が狙い、その女子は友達同士といういわゆる三角関係というやつなんだが、心理描写が巧みでつい感情移入してしまいどちらも応援したくなる。


 これは名作の予感がプンプンする。

 さすがは奈良だな。

 あれだけおすすめしてきたのも頷ける面白さだし、これのおかげで地味に読書が最近の楽しみの一つとなってきている。


 これを読み終わったら語り合い云々は置いておいて普通に他のおすすめも教えてもらおうとさえ思っているくらいだ。


 ページを繰る手が止まらず怒涛の勢いで読み進め、衝撃のラストを迎えたところで本を閉じ、カバンにしまった。


 時刻は十二時を回っており、明日に備えてベッドにジャンプ。

 焼肉食べ放題で腹がはち切れそうになるまで食べたときのような圧倒的な満足感をかみしめながら俺は眠りに落ちていった。




 軽快な機械音が俺の鼓膜を振るわせる。


 なんだもう朝か? と思い目を半々開きくらいにして辺りをうかがうも部屋の中は真っ暗までとはいかないがほんの少し街灯の明かりがある程度で深夜であることは明白。

 いつもより少し街灯が明るいような気がするが街灯に強さを調節できる機能なんてないだろうから気のせいだろう。


 あーあ、せっかくノンレム睡眠の最中だったのにどうしてくれるんだ!


 少し頭が冴えたおかげか、ここで俺はあることに気がつく。


 俺はいつも目覚まし時計をセットしているため、スマホのアラームで起きることはないのだ。

 アラームの切り忘れかとも思ったが、この音はアラーム音ではない。

 スマホの着信音である。


 誰だよこんな時間に!


「今地下アイドルのライブ見返してたんだけど、感動した! この感動をお前にも共有したい!」とか言ってもし本田が電話をかけてきたんなら明日あいつには厳しい制裁を与えてやろう、と目を閉じたままスマホを手繰り寄せ電話に出る。


「……あい」

『ふふふ福井さん!!!』


 焦りを含んだ女性の大きな声が俺の耳をつんざく。

 スマホをすぐさま手から離しキーン、という耳鳴りに体は苦しんでいたが頭はすぐに声の主を探し出そうとしていた。

 俺が連絡先を交換している女性は多くないためすぐに声の主は特定できた。


「どうしたんですかユニ子さん。一旦落ち着いてください」

『あわわ、すみません! でも落ち着いてもいられない状況なんですよ!』


 声の調子からして本当に焦っていて、何か危機に瀕していると言った状況であることが分かる。


「どうしたんですか。何かあったんですか」

『とりあえず外! 外見てください! 早く!』

「外? はあ……」


 そう促されたため言われるがまま窓に近寄りカーテンを開けようとしたんだが、先ほどよりも明かりが強くなっていてしかも赤みを帯びているような?

 あと少し騒がしい気もする。


 俺がシャーッとカーテンをめくるとそこにはにわかには信じられないような光景が広がっていた。

 まさか数週間で二度も目を疑うことになるとは。


『ヤマタノオロチです! ヤマタノオロチの封印が解けちゃいました!!!』


 蛇のようなぬるぬるした皮膚と山のようにデカい胴体。

 そこからうにゃうにゃと首が八本も生え、蛇と龍を掛け合わせたような頭を持った 怪物、ヤマタノオロチが裏山の頂上にいた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る