激突 ―2―
始まりの大魔法使い。すべての魔法使いの祖にして、『神の鍵』の代行者。
「そんなあんたが、なんで不死なんて馬鹿なことを考える?」
「それはもちろん、私が私であるが故」
世界に定められた運命。8つの理を表す『神の鍵』にはそれぞれ名が記されている。『神の鍵』の代行者である始まりの大魔法使いにも、理を表す名がある。
『
『
『
『
『
『
『
そして――
「私は『
「聞いてねぇよ」
瞬きさえもなかった一瞬。0.1秒にも満たない意識の散漫。視界から外していなかったはずの獄蝶のジョカは、次の瞬間、『原初』の目の前2移動していた。
余裕そうに語る『原初』の真正面。魔力の込められた一撃。渾身の激突。狙いを定めた左脇腹を目掛けて放たれるのは、魔法使いらしからぬ鉄拳。
「”
「遅せぇんだよ!」
重ねられた強化魔法。膂力、速度、反射神経、五感。肉体の機能を底上げする魔法。獄蝶のジョカの渾身の一撃は、魔力の壁が構成されるよりも速く、『原初』の身体を捉えた。
獄蝶のジョカは、肉体のトレーニングなど一切していない。体力の底上げはおろか、筋トレさえもしたことはなかった。それは何故か。
(速い……! こいつ、ただの身体強化魔法を、何度も重複してる!)
常人には思いつかない発想。考えついても、それを実現させる能力が、普通の魔法使いにはない。だが、『原初』の前に立っているのは、普通とはかけ離れた実力者だった。
この世の終わりのような世界で生き抜いた獄蝶のジョカに染み付いた戦いのセンス。常軌を逸した戦闘IQに、それを現実にさせる実力。獄蝶のジョカは、誰よりも戦闘に特化した魔法使いだ。
「舞え、”獄蝶”」
ある程度の実力の魔法なら、常に一定の魔力で身体を覆い、攻撃に備えている。『原初』も攻撃への備えはあったのか、肉体に損傷は見られなかった。
(くそ……! 身体が思うように……)
獄蝶のジョカが打ち込んだ左脇腹。その衝撃は肉体だけでなく、そのさらに奥にも届いていた。
「目に見えない攻撃にまで対処できないよなぁ! 肝臓がぶっ潰された気分はどうだ!?」
迫り上がる横隔膜、次第に浅くなる呼吸、じわじわと凍りつくように動かなくなる手足。未知の痛みの症状。回復を試みる『原初』に追い打ちをかけるように、動けない状態の『原初』を獄蝶が襲う。
「”
獄蝶の火炎によって遮られた視界。『原初』は目の前すら見えない視界の中、魔法を展開する。世界の理、始まりを表す根源の力。その真価は、獄蝶のジョカにも計り知れない。
(さて……ここからが本番だ)
黒煙の立つ青い空。ノーチェスから離れた始まりの大魔法使いが統治する国、『アインシュタッド』。獄蝶のジョカからすれば、縁もゆかりも無いこの土地。手加減をする理由は一切なかった。
「……まぁ、悪くはないですね」
(あれでくたばっててくれれば楽だったんだけど、そういう訳にもいかないよな)
均衡する2人の激突。先手を打ったのは獄蝶のジョカだった。
「”
獄蝶とは異なる大きな浅葱色の羽の蝶。『原初』の警戒をものともせず、蝶はゆっくりと舞うように羽ばたく。一匹、また一匹と増えていく蝶の数。数え切れないほど増え続ける蝶に『原初』は戸惑った。
「いつまで増える? って顔してんね」
その心理を見破った獄蝶のジョカが大量の蝶に囲まれながら口を開いた。『原初』から見た獄蝶のジョカはもう姿も見えないほど蝶に覆い隠されている。体も、顔も見えない。聞こえてくるのは声だけだった。
「教えてやるよ。いつまでもだ」
「どこからでも来るといい。受け止めてあげよう」
それを最後に、もう対話はなくなった。
(……来る)
『浅葱斑』。暖かな気候の地域に見られる、鮮やかなごく薄い藍色の羽が特徴的な蝶。古くは極東に分布していたが、天災の影響によって絶滅した種。その美しい浅葱色の羽は
獄蝶のジョカの魔法によって創られた浅葱斑は原種と同じく毒性を持つ。舞う度に神経性の毒を持つ鱗粉を撒き散らし、ひとたび浅葱斑に触れればその箇所から毒は広がっていく。だが――
(効いていない……毒には耐性があるってことか?)
黒煙を払って出てきた『原初』は光の衣を身にまとっていた。浅葱斑の鱗粉も効かず、痺れを感じているような気配も感じられない。余裕の表情で『原初』は獄蝶のジョカを見上げている。
(魔法に対して耐性を得る魔法……とかか? 何を元にして耐性を? 私の魔力か?)
(神経性の毒かな。
まだお互いに牽制し合う状態。読み合い、心理戦。それを制したのは――
「”
「”
『原初』が先手を打つ。光の光線。上を陣取っている獄蝶のジョカを狙っても都市に直撃しない。直線上に放たれた眩い光に獄蝶のジョカは包まれる。
真正面から”
(……そろそろ、限界! けど、そろそろ溜まったろ!)
ピシピシと音を立てて崩れていく花の盾。後ろに隠れていても魔法の余波が獄蝶のジョカを襲う。直撃は避けなければならない。回避はもうできない。防ぎ切ることもむずかしいだろう。ならば、撮る行動は1つ。
意識の外。溜め込んでいたのは紅い蝶だった。渦を巻き、輪になって舞い踊る獄蝶。百……千。それすら超える量。青い空を覆う無数の獄蝶が、一斉に羽ばたき、そして――
「弾けろ!」
花のように、蝶の舞う跡には桜の如く鱗粉が舞う。うつくしく咲き乱れるは紅き蝶。その名は、死へと導く案内人であることから名付けられた。誘うは地獄。与えるは死。手を引くように舞い踊り、行き着く先は黒き獄界。
故に、『獄蝶』――
「”
花の火のように、獄蝶が青い空を彩る。千を超える万の獄蝶。弾け、燃え上がる蝶たちが、『原初』を襲った。
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